「多様な価値観から解を探り出す」 関根愛子さん
日本公認会計士協会副会長
全国に約3万人いる会計士らが所属する日本公認会計士協会副会長。「子どもの頃は前に立つよりトップを支えるほうだった」。今は会計士がいきいきと働ける環境づくりに心を砕き、深夜に及ぶ激務もさらりとこなす。
就職活動で初めて向き合った「社会」は不合理の連続だった。男女雇用機会均等法の施行前、女性は出身学部で採用試験への応募を制限する日本企業が珍しくなかった。「なぜ」。人事部に直談判しても納得できる答えはなかった。
採用制限のない外資系銀行に職を得て3年勤め、身を立てるには「資格が必要」と感じるようになった。不安はあったが悩んだら進む性分。あっさりと辞め、1年半で難関を突破。27歳で青山監査法人に入った。
会計士の監査は企業の決算書が正しく実態を反映しているか検証する仕事。だがある日、監査先の企業で在庫管理に問題があるようだが、どこに問題の本質があるのか分からない自分に気付いた。
現場にこそ答えがある。様々な企業の現場に飛び込み、実態を確かめては吸収した。在庫の管理、棚卸し――。実務を知り、対話を重ねるうちに解決策が見えてきた。
会計士になって「課題は自分だけで解決する」という人生観ががらりと変わった。監査では複数の会計士がチームを組み作業にあたる。自分では解決できない問題も人の意見を取り入れることで道が開ける。
「与えられた立場で最善を尽くす」。思いは近年関わるようになった基準づくりや国際会合の場でも同じだ。最前線では企業や規制当局、国の利害が絡み合う。議論の応酬が激しくても「様々な意見の中から道が開ける」と信じている。
多様な価値観の中から解を探り出す過程を大切にするのは、よりよい結果のために必要だから。柔らかい語り口と他者を受け入れる姿勢は、時に意見が対立する企業の幹部や海外の交渉相手の姿勢さえ和らげる。
1、2カ月に1度は数学科の同級生で今は大学教授となった夫のいる青森に向かう。思えば様々な局面でチャンスを与えられてきた。最善を尽くして恩返しをする。今できることはそれだけだ。
(二瓶悟)
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