私が滞在したホテルはアーメダバードの空港近く。工場までは約50キロ。車で約1時間ほどの道のりである。アーメダバード中心部から工場までは高速道路(17号線)が走っている。見渡す限り田園地帯が広がっているのんびりした郊外の風景を眺めながら工場に向かった。

街角の所々にナレンドラ・モディ氏のポスターが貼ってある。モディ氏はインフラ整備や有力企業の誘致を軸にした経済振興策で実績を残しており、地元には熱狂的な支持者が多いようだ。

最大生産能力は年25万台

高速道路を西に走らせて約1時間。突然、左手に真新しい大きな「ナノ」専門工場のゲートが姿を現した。タタ・グループのイメージカラーである青い下地に「TATA MOTORS」というロゴが輝いている。入り口付近には従業員を運ぶための大型バスが数十台も駐車してあり、その車体には「INDIA’S PRIDE(インドの誇り)」というスローガンが大きく描かれていた。

広々とした工場の敷地は1100エーカー(445万平方メートル)。西側の「ナノ」工場部分(750エーカー)と東側の納入業者部分(350エーカー)との2つに分かれている。周囲には緑地や沼地、田畑などが広がっている。敷地は州政府がタタ自動車の工場誘致のために手当てしたという。

「ナノ」工場(サナンド)の入口
「ナノ」工場の敷地内の構造

私が視察できたのは西側の「ナノ」の工場部分。まず会議室で関係者からスライドやビデオで簡単な説明を受けた後、早速、生産ラインを見学させてもらった。「今回のようにメディアに工場内を公開するのは極めて珍しい」と広報担当者はいう。

タタ自動車によると、「ナノ」の生産ラインは「プレス」→「溶接」→「塗装」→「パワートレイン」→「組み立て・仕上げ」→「検査」の工程で成り立っている。最大生産能力は年25万台。だが、この5年間の累積販売台数は24万台にとどまっており、当初見込みの1年分にも満たない状況が続いている。そのせいか、工場が稼働している時間帯は限られているようだ。

「ナノ」生産ラインの風景。産業ロボットも導入
「ナノ」のまわりでテキパキと働く従業員たち

生産ラインには「KOMATSU」の文字も

工場内を視察するための専用車に乗り込み、まず「プレス」の工程から見学を始めた。「KOMATSU」というロゴがついた大型機械が生産ラインに導入されているのがすぐに目に入った。日本メーカーの技術がここでも生産の基礎を支えているようだ。

「検査」の部分ではピカピカの「ナノ」が1列に並んで出てきた

工場内はやや暑いが清潔でとても明るい雰囲気。生産ラインの上を組み立て中の「ナノ」がゆっくりと移動し、その回りで従業員がテキパキと作業に取り組んでいる。産業ロボットのアームが音もなく動いている場所もある。若い研修生を訓練する特別なセクションもあるようだ。

「ここで働く従業員は約4200人。皆、厳しい審査をパスした優秀な人材ばかりです。インドの国民車をつくるんだという誇りを持って仕事に取り組んでいます。工場ができたので地元住民は大変に喜んでいるんですよ」。ヘマント・クルカルニ工場長はこう話してくれた。工場内にはスポーツチームがいくつも結成され、福利厚生施設も充実しているようだ。

「溶接」→「塗装」→「パワートレイン」→「組み立て・仕上げ」と順番に視察したが、工場内はとても静かで心なしか働いている従業員が少ないという印象を受けた。生産量がまだ目標水準に達していないせいかもしれない。

生産ラインの最終段階にあたる「検査」の部分では、白く車体を塗装されたピカピカの「ナノ」が1列に並んで出てきた。検査のためか、ヘッドライトを点灯させている。ここで完成した「ナノ」がやがて全国に出荷されるのだ。

生産ラインを一通り見学するのに結局、3時間ほどかかった。

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