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朝・夕刊の「W」

「そのときできる最高のことを」 阿部千登勢さん sacaiデザイナー兼経営者

2013/8/25

1999年、自宅でスタートしたアパレルブランド「sacai(サカイ)」。2011年には東京・青山に旗艦店を開店。取扱店舗は国内約40店、海外約130店まで広がった。今、日本を代表するブランドだ。

sacaiデザイナー兼経営者、阿部千登勢さん=写真 片桐大輝

始まりは33歳。「さみしくて、ずっと泣いていた」ときだ。結婚と出産を機に商品企画担当として働いていたアパレル企業を退職した。「子育てしながら働き続けられるとは思わなかった。周りにも迷惑がかかる」。決断に迷いはなかったが、業界の最前線から突然、家でひとり子どもと向き合う毎日に。「子育てってすばらしいけれど、一生懸命になれなかった」

そんな姿に同じ衣料業界の夫が「何かやってみたら」と。ブランドは多くの人、時間、資金が必要と思い込んでいたが、発想を切り替えた。「100型のデザインは無理でも、5型なら自分にしかできないスペシャルなものができるかもしれない」。場所は自宅のリビング。材料費は数千円。5型のニットで始まった。

「身の丈にあった、そのときできる最高のことをする」。仕事のスタンスは当時から何ひとつ変わらない。ワンシーズン350型近くを手がけるようになった今も、すべての服に袖を通す。

異素材の組み合わせや容易にはたためない立体的なフォルムで、国内外で高い評価を得てきた。その独特で美しいデザインを生み出してきた裏では、仕事と家庭の両立を追い求めてきた。

ワンシーズン350型近くを手がけるようになった今も、すべての服に袖を通すという阿部さん

夫と1日おきに交代で早く帰宅し娘と過ごすスタイルが定着したのはこの7~8年だ。仕事に理解はあっても、家のことは手伝ってくれない夫。「『どうして』と、とにかく言い続けました」

時代を超えて残るブランドを目指す。「もっと本物に、よりsacaiらしく」。目指す商品や会社のため、自分で決断して責任をとる。デザイナーでありつつ、外部の資本を入れず20人以上のスタッフを抱える経営者として、決定権を持ち続けているのはそのためだ。

ブランドとともに育った娘も15歳。母親が泣いていたときのことも知るようになった。「だから最近、へたなことしゃべれない」。今はそう笑える。

(井土聡子)

阿部千登勢さん(あべ・ちとせ) 1999年に「日常の上に成り立つデザイン」をコンセプトに「sacai」を設立。デザイナー兼経営者に。11年からパリでショー形式でコレクションを発表。47歳

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