カンボジア農村で自立支援 小島幸子さん
マダムサチコアンコールクッキー社長
カンボジアを代表する世界文化遺産、アンコールワット。2004年、そこでオーブン1つでクッキー屋を始めた。やがて名物土産となった「アンコールクッキー」は雇用を生み、人々の生活を豊かに変えつつある。

大学の時にアジアに興味を持ち、アジアで働きたいと考えた。1999年、内戦の爪痕が残る地に26歳で渡り、アンコールワットがあるシエムレアプで観光ガイドになった。27歳には念願の日本語教師に。だが、30歳を前に悩みが生まれた。
「先生は努力すれば何とかなるって言うけど、僕らはお金がないと何もできない」。20歳くらいの生徒に言われた。世界各国から援助は集まるが「働く場所があり適正な賃金がもらえて初めて、人間としての尊厳が保たれる。援助に頼らず自立できる仕組みが必要」と気づいた。「30代はどう生きようか」「自分はこの国に何ができるのか」――。行き着いた答えは、「カンボジアでモノを作る」ことだった。
ヒントは観光ガイド時代にあった。「アンコールワットにはお土産はないの?」。毎回、日本人観光客に尋ねられた。土産と言えばチョコレートかクッキー。チョコは暑いのですぐ溶ける。「クッキーならカシューナッツなどカンボジアの材料を使えて日持ちもする」

貯金50万円を元手にオーブンを購入、3カ月、試行錯誤した。アンコールワットの型は浅草・合羽橋の専門店に特注、包装は友人のデザインだ。
当初のスタッフはカンボジア人女性2人。作り方を教えて、一つ一つ丁寧に焼いた。今や社員は90人になったが手作りは徹底し、1日2万枚を焼き上げている。何も持っていなかったスタッフはバイクに乗って通う。終業後には自発的にグループで日本語を学ぶスタッフもいる。
そして40代。今の夢は農村で個人事業主を育てること。手始めは養蜂プロジェクト。生産から販売までを手掛ける計画で、シエムレアプから車で30分の村に30ヘクタールの土地を確保した。「ゆくゆくは学校をつくってアジアのリーダーを育てたい」。1つの夢がかなったら、次の夢へ。カンボジアの大地を踏みしめる足取りは、力強い。(高橋 里奈)
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