サンマ、出遅れの理由は高水温にあらず?
先代の三遊亭円楽が演じる「目黒のさんま」をCDで聞いた。目黒に野がけに出かけた殿様が人生で初めて見たサンマは「黒く、燃えるほどに脂ぎってプシュー、プシューといっている。角の欠けた皿には手製の大根おろしにしょうゆがたっぷり」。「爆弾じゃ!」と驚いた殿様だったが食べてみるとうまいのなんの。その後は寝ても覚めてもサンマの幻がチラチラと……。
遅れていたサンマ、ようやく値下がり
殿様ほどではないにしろ、サンマが恋しくなっていた読者には朗報だ。遅れていた水揚げがようやく増え、東京・築地市場での卸価格は先週後半、1キロ500円程度と1週間前の半値以下まで下落。スーパーが1匹100円前後で売れる水準に入ってきた。
今年のサンマは遅かった。漁は7月上旬、北海道東部沿岸での刺し網漁からスタートする。8月になると大量漁獲が可能な「棒受け網」での漁が始まり、下旬の大型船出漁をもって最盛期に入る。
ところが今年は9月になっても水揚げが伸びず、第1週までは前年同期比8割減という超スローペース。卸価格は同2~3倍で1匹あたり200円程度という高値が続いた。
一部のスーパーでは198円という店頭価格もみられたが、卸値を考えれば採算が合わず「産地の出荷者か卸業者か、どこかが損をしていた状況」(築地の卸会社)。
9月8日に東京都内で開催した「目黒のさんま祭り」では恒例の岩手県宮古産が間に合わず、北海道から取り寄せた。幸い、9月中旬に入って水揚げは上向き。12日時点での漁獲状況は前年比6割減と少し巻き返している。
サンマ出遅れの真相 魚群が東に移動
それにしてもサンマの来遊はどうしてこれほど遅れたのか。
関係者の間にはいくつかの臆測がまことしやかに飛び交っている。「猛暑で水温が上がり、低水温を好むサンマが寄ってこないのではないか」「資源自体が減っているのではないか」――。サンマの来遊予測をしている水産総合研究センター東北区水産研究所によると、理由は少々違うようだ。
北海道根室沖の水温は9月上旬時点でサンマの適性である15℃程度まで下がっていた。今年の調査では資源量自体は昨年よりも多いという結果も出ている。
「考えられるのは、近年、日本に来遊する前にサンマがいる場所が太平洋の東に移動しているということ。スタート地点が遠いため、魚群が日本近海までたどり着く時期が遅れている可能性が高い」(同研究所)。ただ、サンマが東に移動した理由までは分かっていない。
7月、同研究所が発表した来遊予測は「9月に入ると大型魚の割合が増加する」というもの。漁業者団体の全国さんま棒受網漁業協同組合(東京・港)も「遠かった漁場が少しずつ近づいてきた。シーズンはこれから」と意気軒高だ。
サンマの商戦は「9月をピークに10月半ばまで」(築地の卸会社)という短期集中型。それ以降、鮮魚市場の主力は鍋商材などにシフトし、サンマは「6日のあやめ」「クリスマス翌日のクリスマスケーキ」といった風情を帯びる。
出遅れはしたが間に合った。ここからの1カ月、プシュー、プシューを堪能しよう。(商品部 吉野浩一郎)
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