大型連休前半の4月27日、東京・浅草の浅草寺近くにある老舗料亭「浅草田甫草津亭」。七太郎さんは玄関で、次々と訪れる客をはつらつとした声で迎える。「ようこそおいでくださいました。チケットをお預かり致します」。師匠、米七さん(63)の脇に控えつつ、手際良く案内する。
こざっぱりとした短髪、黒い紋付き羽織と男物の着物。一目見ると男性のようだが、七太郎さんは3年前、正式に認められた初の女たいこ持ちだ。この日は、浅草で活躍するたいこ持ち5人と見習い2人が競演するお座敷イベントに参加した。
100畳の大広間では90人の客が昼の膳に舌鼓を打つ。七太郎さんは客のグラスが空くのを見逃さず、絶妙のタイミングで酒をすすめたり、ひいき客を見つけては挨拶にまわったりと、休む間もなく宴席を行き来する。芸妓(げいこ)たちには料亭の裏方からの伝言をそっと伝え、会の進行も促す。
修行時代から5年以上応援しているという江森延江さんは「男の着物も板についてきたが、お茶の稽古などで着る女の着物も似合う。どっちも七太郎」と成長を見守る。他のひいき客も「たいこ持ちの良しあしは客が財布を預けても良いと思えるほどの信頼関係が築けるかどうか。心根がキレイな七太郎なら任せられる」と話す。
食事も終盤にさしかかり、いよいよ舞台が近づく。少し緊張した面持ちの芸妓に「山吹色のお着物で、しぶかわ(しぶいけどかわいい)ですね」と声をかける七太郎さん。「でしょ」と芸妓。男のたいこ持ちももてなしのプロだが、こういった会話が自然に交わせるのは若い同世代の女性同士だからこそ。
「へいらっしゃい。桜川七太郎でございます」。七太郎さんが小走り気味に舞台そでから登場する。「よおーっ」と客から声がかかる。「普通のたいこ持ちとは違います。性別が違うだけでございます」と口上を述べると、客は「待ってました」とばかりに歓声をあげた。