インスタグラムも「写ルンです」 高まるフィルム人気

富士フイルムが発売した「写ルンです」の30周年アニバーサリーキット。同社によると「想定を上回るペースで販売が進んでいる」という
富士フイルムが発売した「写ルンです」の30周年アニバーサリーキット。同社によると「想定を上回るペースで販売が進んでいる」という
高画質なカメラを搭載したスマートフォン(スマホ)が次々に登場し、誰でも手軽に、かつ無制限に写真を撮れる時代になった。そんな時代に、あえてフィルムカメラを選択する人が増えている。支持しているのは10~20代の若者。「撮り直せない緊張感」や「すぐ見られないのがワクワクする」など、不便と思われていた点がデジタルに慣れ親しんだ世代にとってはかえって魅力的に映っているようだ。

写真家やアイドルが「写ルンです」好きを公言

富士フイルムは4月8日、レンズ付フィルム「写ルンです」の30周年アニバーサリーキットを発売した。写ルンです本体27枚撮りに、30周年着せ替えカバー、写ルンですストラップなどを封入した数量限定モデルだ。この30周年アニバーサリーキットが、富士フイルムイメージングシステムズ株式会社営業推進部の築地紀和さんによると「想定を上回るペースで販売が進んでいる」。

写ルンですに組み立て式の30周年ケースを被せて使用する。ケースは着脱可能なので、本体を交換して使用することもできる

知っている人には懐かしい「写ルンです」は、今と違って、家族一人ひとりが自分用のカメラを持っていなかった時代に誰でも簡単に撮影できるレンズ付きフィルムとして1986年に登場。これまでにないコンセプトが話題を呼び、たちまちヒット商品となった。他社からも同様の商品が発売され、レンズ付きフィルムの市場は大きく拡大。レンズ付きフィルムの市場は、97年には国内だけで8960万本を出荷するまでに成長した。

しかし、その後デジタルカメラやカメラ付き携帯電話に押され、2012年には約20分の1の430万本にまで落ち込んだ。現在もレンズ付きフィルムの出荷本数は下がり続けているが、ここ1年ほどで写ルンですが10~20代を中心に再び注目され、下げ止まりの傾向がみられるようになってきているという。

「何か大きなきっかけがあったというよりは、10~20代に支持されている著名人の方がSNSで“『写ルンです』好き”を公言し、徐々に人気が高まったと考えています」(築地さん)

2015年はAKB48の人気メンバー横山由依さんがTwitterで写ルンですを構えている画像を投稿。“「写ルンです」好き”を公言した。また、2016年2月に発表された第41回木村伊兵衛写真賞の候補にも名を連ねた写真家・奥山由之さんも、写ルンですを愛用していることで知られている。こうした著名人の発言から認知が広がり、写真共有SNS「Instagram」では、ハッシュタグ「#写ルンです」と検索すると2016年4月28日時点で3万6000件以上の写真がヒットするほどの盛り上がりだ。

富士フイルムによれば「現像をしないと何が写っているのかわからないワクワク感」や、「枚数制限のある緊張感」が魅力という声が多く寄せられるという。

デジタルにはない質感やデザインが魅力に

フィルム人気は「写ルンです」にとどまらない。独特な色合いの写真が楽しめる富士フイルムの「チェキ」やトイカメラが人気を集めるほか、フィルムカメラを本格的に始めようとする人も増えている。

「先日も20代くらいの男性が、50年ほど前のカメラを『フィルムの入れ方を教えてほしい』と持ってきました。フィルムカメラはデジタルとは違う色の具合が楽しめる。スマホで撮るのとは違う、一種の自己表現や趣味としてフィルムカメラを手に取る人が多いようです」(代官山北村写真機店店長 三浦宏介さん)

代官山北村写真機店にはビビッドな色で撮れるカラーフィルムからモノクロのフィルムまで、多数のフィルムがずらりと並ぶ。フィルムによって違った写真が撮れるのもフィルムカメラの面白さだ。三浦さんは「今後も拡充を続けたい」と語る。

代官山北村写真機店では30種類ほどのフィルムを取り扱っている

フィルムカメラ本体は、新製品の発売がほぼないこともあり、新作の市場としては縮小傾向にある(GfKジャパン調べ)。そのため親や知人から譲り受けたり、中古品を購入したりする人が多いようだ。中古フィルムカメラを取り扱うビックカメラ池袋東口カメラ館の玉川修司さんによると、「20~30代前半のお客様が、男女を問わず目立つようになってきた」。

「90年代くらいの比較的新しいフィルムカメラであれば、2000円ほどで購入できます。初期費用が安いので気軽に始められますよね。一方で、70~80年代のヴィンテージカメラだと10万円の商品も珍しくはないです。でも、実は若い方にはこちらも人気。使いやすいようにデジタル化、自動化されている新しいフィルムカメラも人気な半面、ヴィンテージカメラはじっくりこだわって撮れるため、多少値が張っても購入される方が増えています」(玉川さん)

「写真の質感だけでなく、フィルムを巻く感触やシャッターを押した時の音など、物理的に『撮っている』感じがするのもフィルムカメラの魅力。また、フィルムカメラのクラシックな見た目は今の若い人が見ても格好いい。そのデザインがきっかけで持ちたいと思う人もいるようです」(三浦さん)

フィルムのデータ化サービスが人気に

フィルムカメラが静かに人気を集める一方、現像できる場所が限られるという問題もある。かつてはコンビニエンスストアでも現像ができたが、近年はセブンイレブンやローソンなどの大手コンビニチェーンは需要の減少により撤退。カメラのキタムラやビックカメラ、パレットプラザなどや地域の写真館など、写真専門店が主な現像場所だ。

サービスが縮小する一方で、時代のニーズに合わせた変化もある。写真を画像データとして受け取れるサービスだ。今や写真はプリントしたものをアルバムに収めるよりも、InstagramやFacebookなどのSNSでシェアする時代。現像時にデータ化を頼むことで、データの入ったCDやダウンロードコードを受け取れる。フィルムスキャナーを用いてネガから直接データ化するので、データの中から気に入った画像だけを選んでプリントすることもできる。

代官山北村写真機店では「フィルムの現像を頼まれた際は、必ずデータ化するかを聞くようにしている」という。友達とSNSで共有するにはデジタルが圧倒的に便利。フィルムの人気の背景には、アナログ特有の質感の魅力をデジタルの便利さが後押しするという構図があるようだ。

(ライター 小沼理=かみゆ)

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