中川李枝子さん 働くママはもっと自信を持っていい
Q.「保育園に預けるのはかわいそう」と母に言われたら
出産後も、子育てと仕事を両立していくつもりですし、したい気持ちはあります。一方で、仕事をすることで育児がおろそかになり、子どもに寂しい思いをさせてしまわないか不安もあります。経済面だけを考えると、夫の収入だけでやっていけないことはありません。
また、私の母親は専業主婦、義母も専業主婦で子育てをしてきた母親です。今後、子どもを幼いうちから保育園に預けることで、「かわいそう……」などと言われるかもしれません。そこで「なぜ自分が働くのか」という理由をきちんと固めておこうと思います。中川先生が働き続けた理由を教えてください。
母親になっても、1人の人間として選択すればいい
── 出産後も仕事を続けたいけれど……と不安を感じている方からの質問です。中川さんは子どもが生まれても保育士として、そして作家として働き続けました。ぜひ中川さんが働き続けた理由を教えていただきたいのですが。
私は仕事をやりたいからやっていただけですよ。やりたいからやる、やりたくないことはやらない(笑)。
働き始めたころは、保育園ほど自分の能力を発揮できる場はないと自信満々で、日本一の保育士になることが目標でした。子どもたちをどうやって楽しませようか考える毎日は、本当に充実していました。結婚、出産で、その思いは変わらなかったし、夫の仕事や収入にかかわらず、当然なことでした。
─― いつからそれが「自然」だと思い始めたのでしょうか。
小学生のときに読んだ『寡婦マルタ』というポーランドの小説が、強く影響していると思います。女性マルタの悲しい人生を読んで、子ども心に「女といえども、世の中に通用する仕事を持たないと不幸になる」と刻まれたのです。
「そういう意見もあるんだ」と聞き流しておけばいい
─― ただ、最近は働く女性が増えていますが、親の世代はまだ母親は専業主婦だった家庭が多いと思います。「女性は家庭に入るべき」という考えを持っている親も少なくないのではないでしょうか。
私は働くことを選択しましたが、外で働くお母さんと、家庭にいるお母さんとどっちがよい、悪いではない。本人がしたいようにすればいい。母親も人間です。自分の考えに従い、1人の人間として、選択すればいい。
今は情報が多くて、いろいろな人がいろいろなことを言う。子どもを産む前から身構えてしまう人も多い。上の世代の人には経験者なりの一家言がある。納得がいかなかったら、「そういう考えもある」と聞き流しておけばいいの(笑)。
─― 中川さんも聞き流していたんですか。
もちろん。都合のいい意見だけ自分の耳に入れていました(笑)。それに、専業主婦のお母さん全員が、24時間子どもと一緒にいるわけではないでしょう。24時間母と子がべったり過ごすのが100パーセントよいとは思わない。子育てに、「こうしたからこうなった」なんていうはっきりした因果関係はないでしょう。
子どもを丈夫にするには親も健康じゃないと
―― 働く女性の先輩として、中川さんが子育てで気をつけていたことを聞かせてください。
「子どもの体を丈夫にしておくこと」。子どもの体調が悪いときはそばにいてあげないとかわいそう。
子育てで大事なのは、「睡眠」「食事」「排せつ」。この3つを厳守、最優先。何があってもリズムを崩さないこと。基本的なことだからこそ、子どもの健康に影響します。気をつけるのは子どもの健康だけじゃない。自分の健康も大切。丈夫な子どもにするためには、親も健康じゃないといけませんから。どちらかに無理がかからないよう、夫婦で協力し合うこと。3人それぞれの生活リズムをお互いに守り、不協和音を起こさないように心がけました。
家事において私が全責任を担っていたのは、食事でした。そのほかは、夫(美術家の中川宗弥氏)も掃除、洗濯などをやってくれました。おむつ替えは夫のほうが上手だったぐらい(笑)。子育ては男性も一緒にするものでしょう。
結婚を機に、住居は職場(みどり保育園)の近くに決めて、夫も自分の仕事部屋を見つけました。仕事と家事の両立は夫婦でよく考えて、うまくやっていましたよ。2人で協力しながら、家族にとって最善の方法を取るべきでしょう。それは子育てにも通じます。
(ライター 平山ゆりの)
[書籍『ママ、もっと自信をもって』を再構成]
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
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