翼を持った天才レスラー飯伏幸太、未来に羽ばたけ
「飯伏(いぶし)、好きなことをやれ!」
3月21日に開かれた、DDT両国国技館大会。復帰戦を闘い終えた飯伏幸太選手に向けて高木三四郎社長が力強く叫びました。
頸椎(けいつい)椎間板ヘルニアで無期限欠場していた飯伏選手が、ダブルで所属していたDDTと新日本プロレスリングの同時退団を発表したのが2月22日。そこからは「飯伏プロレス研究所」なる謎の組織の所長として活動を開始しています。
華やかな活躍の裏で2団体所属の重圧から心身ともに負担が積み重なり、欠場中は引退も考えるほど思い詰めていたそうです。それでもどうにかプロレスに踏みとどまり、より自由な戦いを求めて退団を決意した飯伏選手を高木社長は快く送り出しました。
DDTプロレスリングは新日本や全日本プロレスといったメジャー団体にルーツを持たない、いわゆるインディー(インディペンデント)の団体です。エンターテインメント性の高い試合でファンを増やし、現在は新日本プロレスに迫る人気を得ています。
飯伏選手の復帰戦は、前半のヤマ場として休憩前に組まれた、はちゃめちゃな3WAYタッグマッチ(注、3チームが同時に闘う)でした。国技館全体を縦横無尽に動き回り、階段から転がり落ち、トイレの個室でパイルドライバー(脳天くい打ち)が決まったかと思えば、リング周辺では自転車に乗った追いかけっこが繰り広げられています。そんな混沌を制したのは飯伏選手の必殺技、フェニックス・スプラッシュでした。今回描かせていただいたイラストもこの技がモチーフとなっています。先日亡くなったハヤブサ選手が使い始めた難易度の高い華麗な飛び技です。
この日はそれ以外にも、スーパー・ササダンゴ・マシン選手による話題の「煽(あお)りパワーポイント」や、タレントのLiLiCoさんにレジェンドの藤波辰爾選手、大相撲元横綱の曙選手の登場もあり、来場者の楽しみどころが何重にも用意された濃厚な大会でした。そして正式開始前のダークマッチを含め全14試合、総勢75選手が出場するロングランの興行を締めくくったのは、木高(こだか)イサミ選手対HARASHIMA選手の実力者同士によるタイトルマッチでした。団体にこれだけの力がついている今なら大丈夫。その確信があったからこそ、飯伏選手を手放す立場の高木社長も決断できたのだと思います。
気になる今後の動向ですが、すでに海外を含めいろいろと可能性が広がっているようです。
復帰戦前の3月14日、2冊同時という異例のボリュームで発表された飯伏選手の自伝『ゴールデン☆スター飯伏幸太 最強編/最狂編』(小学館集英社プロダクション)出版記念トークイベントの際に少しだけ飯伏選手ご本人にインタビューすることができました。個人的にどうしても聞いてみたかったのは、もう一つの所属団体だった新日本プロレスの内藤哲也選手についてです。飯伏選手が1年前に優勝した「NEW JAPAN CUP」を、今年は内藤選手が制したタイミングでした。
内藤選手に対して「絶対に負けたくない」と何度も話していました。「ロス・インゴベルナブレス(制御不能)・デ・ハポン」という反体制的なユニットを結成した内藤選手は、自由気ままな言動で現在注目を集めています。「内藤さんが制御不能化したのは自分のせいかもしれない」と飯伏選手。2年前の秋にタッグを組んだ際、似たスタイルである内藤選手が「このままではダメだ」と自覚した瞬間がわかったそうです。内藤選手が現状に危機感を抱いて自己改革するきっかけになったのが自分なのでは?と分析していました。
「世間的には自分が先を行っていて内藤さんの方が意識していると思われているが、自分も意識している」「2009年に新日本プロレスに初めて参戦したときからその気持ちはある」さらに「ロス・インゴに加入して同じスタイルでも自分が上だと示したい思いもあった」との衝撃発言も聞き出せました。
飯伏選手は「棚橋(弘至)さんやオカダさんはどうなったら『超えた』ことになるかわからない。でも内藤さんにはすべてにおいて絶対負けたくない」と言い切ります。理由は同い年という点が大きいそうです。4月10日に内藤選手がオカダ・カズチカ選手の持つIWGPヘビー級のベルトに挑戦します。そのことについて尋ねると「(内藤選手に)取ってほしい」と即答しました。「内藤さんが上にいけば、自分がさらにその上をいく。それを繰り返していけばもっと上がっていける」とも。
この先新日本プロレスのリングに飯伏選手が再び登場するかどうかはまだわかりません。むしろ、現時点では今後の活動予定がなにもわかっていないに等しい状況です。でも、その不確定さがまた飯伏選手らしいともいえます。日本のファン、世界のファンがわくわくしつつ次の行き先を見守っています。
(この連載は随時掲載します)
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
※ NIKKEI STYLE は2023年にリニューアルしました。これまでに公開したコンテンツのほとんどは日経電子版などで引き続きご覧いただけます。