連写や動画性能が向上、キヤノンの旗艦カメラを試す
4年に1度のオリンピックイヤーにあたる2016年、キヤノンとニコンのデジタル一眼レフのフラッグシップモデルが恒例のモデルチェンジを迎えた。キヤノンは「EOS-1D X Mark II」(以下、Mark II)を4月下旬に発売する予定であり、ニコンは「D5」をひと足早い3月26日に発売した。
筆者は、キヤノンの先代モデル「EOS-1D X」(以下、1D X)をメーンのカメラとして日々使っており、ブラッシュアップが図られたMark IIの仕上がりがとても気になっている。試作機をもとに、ファーストインプレッションしてみたい。
デザインの変更で現代的な印象に
1D Xを3年間使い続けている自分から見ても、Mark IIの外観は先代にとても似ている。よほどのヘビーユーザーでない限り、ボディー前面右下の「Mark II」というバッジでしか見分けがつかないだろう。
だが、よくよく見ると前方から見た肩の部分のラインがよりシャープになるなど、細かな部分が現代的なシェイプにリニューアルされている。「海坊主」などとからかわれることの多いEOS-1Dシリーズだが、一般に浸透したイメージをキープしながらも古くさくならないように進化させている点は評価したい。
グリップの形状やボタン配置を変更
ほかに、外観から見える違いをチェックしていこう。
ペンタ部分は、「Canon」のロゴの上に当たる部分に新たにGPSレシーバーを内蔵したことで、ちょっとした出っ張りのある特徴的なフォルムになった。EOS-1Dシリーズは、ボディー全面がマグネシウム合金製で電波の遮断性が強く、アンテナ部分だけを電波が通る樹脂製の部品にしたためだと思われる。
GPSはロガー機能を備えている。これまでのキヤノンのコンパクトデジカメなどに搭載されていたGPSは、バッテリーの消耗がかなり激しかったのが欠点だが、Mark IIは常時オンにしていても極端なバッテリー消費は見られず、実用的に使えるようになったのではないかと感じる。
ただ、無線LANによる画像転送は、これまでのように別売のワイヤレスアダプターによる対応となる。Mark IIで使える新型の「WFT-E8B」(予想実売価格は5万7000円前後)は、5GHz帯も利用するIEEE802.11ac対応となった。単純にデータの転送速度が向上するだけでなく、イベント会場など無線LANの電波が飛び交う環境でも混信や転送速度の低下の恐れが少なくなることが期待できる。
グリップ形状の変更にも注目したい。先代の1D Xは、それまでのモデルよりも全体に大型化し、グリップは日本人の手にはちょっと余るかな、という印象があった。Mark IIでは、グリップがやや細身の形状となり、より握りやすくなった。グリップの深さはほぼそのままに、持ち手の部分が薄型化されたので、指がかりの良さはそのままに握りやすくなったという印象だ。
さらに良くなったと感じたのは、縦位置グリップ使用時のボタン配置だ。1D Xでは、M-Fnボタンや親指AF用のAFボタンは、横位置と縦位置では位置が微妙に異なっていた。だが、Mark IIでは両者ともほぼ同じ配置になり、どちらでの撮影でも指先が迷うことがなくなった。ほかにも、ジョイスティック状のマルチコントローラーは頭の面積が増えて押しやすくなったり、ボディー前面の絞り込み&マルチファンクションボタン2も台座部分に段差がつけられて目視せずに押しやすくなるなど、細かな部分がブラッシュアップされていると感じられた。
情報の表示量が増えたファインダー
早速実写をしてみたが、まずはファインダー性能の向上を評価したい。広くて明るく、色づきの少ないファインダーは1D X譲りで、気持ちよく撮影できる点はさすがフラグシップ機だと感じさせる。「インテリジェントビューファインダーII」と銘打たれた新しいファインダーは、さまざまな部分で改良が加えられた。
まず、情報表示の充実ぶりが目を引いた。透過型モノクロ液晶が入っているので、グリッド線やAF情報などがスーパーインポーズ表示できるのだが、電子水準器の常時表示やホワイトバランスなどの表示もできるようになったのが大きな改良点だ。ただ、色温度指定をよく使う自分としては、ホワイトバランス表示として「K」だけではなく、実際の色温度の数字も表示してほしいと感じた。1D Xでは画面中央部には表示されなかったグリッド線が全面に表示されるようになったのも、地味ながらうれしいポイントだ。
AF測距点の表示も、1D Xではモノクロ液晶表示だったものが、赤い光で表示される以前の仕様に戻った。一見すると、赤も黒も変わりなさそうに思えるが、1D Xは暗いシーンだと測距点が見えにくくなっていただけに、歓迎するユーザーは多いだろう。
ファインダーの右辺に、露出レベル値と調光値を縦のバーで表示するのがEOS-1D系の伝統だったが、Mark IIでは下辺部にも露出設定値の表示が加わり、リアルタイムな測光値と補正値を同時に把握しながら撮影できるように進化した。
ファインダーは明るくクリアだが、先代の1D Xよりもピントの山が見えにくくなっていると感じられた。85mm F1.2や50mm F1.4といったレンズで、人物をアップから全身までのサイズで撮ってみたが、ジャストにピントが合っているかどうかが今ひとつ分かりにくかった。EOS 5D Mark IIIのファインダーと同等ぐらいのピントの見えだと自分には感じられた。
別売りのフォーカシングスクリーン「Ec-S」に交換すると、ピントのキレがぐっと分かりやすくなる。だが、F2.8よりF値の大きなレンズでは、シーンによってはファインダー像が暗くなって使いづらいし、このスクリーンを装着すると内蔵露出計の精度が保障されなくなるところは残念だ。
これを補う使い方として、ライブビューを利用したマニュアルフォーカスという手段がある。Mark IIは液晶がタッチスクリーン化されたので、ライブビュー時にピントを確認したい部分にタッチすれば、すぐに5倍/10倍に拡大表示できる。ジョイスティック型のマルチコントローラーでピント位置を指定する操作よりも、ぐっとスピーディーに確認ができる。
このタッチパネル液晶、3.2型と大きさは依然と変わりないものの、ドット数は162万ドットと精細化された。筆者がそれよりも好感を覚えたのが、色温度がかなりニュートラルになったこと。これまではちょっと色温度が高かったのだが、Mark IIはだいぶプリントに近づいた印象を受ける。現場でチェックした印象がPCに取り込むと変わってしまう、といった失敗を抑えられるだろう。
連写時のシャッターの切れが向上
フラッグシップモデルでいつも注目される連写のコマ数は、秒間14コマ。ライブビュー時は秒間16コマにアップした。ここで注目したいのは、ライブビュー時の高速連写だ。1D Xでは、1コマ目に露出とAFが固定されるうえ、撮影中はミラーがずっとアップになるため、何も見えない状態での連写を強いられた。Mark IIでは、露出とAFこそ固定になるものの、撮影中のライブビューが常に背面液晶で見えるので、被写体と構図を確認しながらの超高速連写が楽しめる。ぐっと実用的な機能に進化しているのだ。
スペックには表れないフィーリングの部分についても少し触れたい。標準ズームレンズ「EF24-70mm F2.8L USM II」を装着した時の比較では、1D Xのシャッター音は「バシッ!」という感じのサウンドだったが、Mark IIは「バチャッ!」という感じ(伝わりにくいかな)になった。シャッター後にほんの少し余韻が残る感じで、少し切れの悪い印象を受けた。
だが、連写時になると、ファインダー像のブレがほとんど感じられず、シャッターの切れが良くなった印象を受けた。高速連写の設定時でも、レリーズボタンの押し具合を微妙に変えることで、1枚だけの撮影も容易だ。チューニングが悪いカメラだと、高速連写時に1枚だけを撮影するのは難しく、たいてい2~3枚はシャッターが切れてしまうものだが、このあたりのコントロールしやすさはさすがEOS-1Dシリーズだと感じさせる。
人物撮影がメーンでスポーツなどの撮影の機会が少ない自分だが、動体のAF捕捉力も向上していると感じられた。従来も、こちらに向かってくる乗り物などの捕捉能力には満足していたが、不規則に走り回る犬などの撮影ではAFを外すこともままあった。今回、撮影設定をAF測距点自動選択/SERVO AF/高速連写にし、EF70-200mm F2.8L IS USM IIを装着したMark IIで縦横に走り回る人物を撮影してみたが、歩止まりの良さには驚いた。記録メディアはUDMA7対応のコンパクトフラッシュを使い、1枚のカードにRAW+JPEG(画質8設定)という厳しい条件で撮影したが、実測62枚まではバッファー詰まりもなく連写が楽しめた。
60pに対応した4K動画撮影機能は高く評価したい
注目したい機能としては、本格的な4K動画撮影機能がある。これまでのデジタル一眼レフやミラーレス一眼でも4K撮影が可能な製品はあったが、フレームレートが24pや30pと低かった。テレビ放送は、ハイビジョンになる数十年も前から60iという秒間60コマの動きで表現していたが、これまでの一眼レフの4K動画は半分以下の動きしか実現できていなかった。Mark IIでは、晴れて4K動画でも60pとなり、4Kのきめ細かさとなめらかな動き表現が初めて実現できた。解像度は、一般的な4K動画の3840×2160ドットではなく、デジタルシネマの標準規格である4096×2160ドットとなっているのも注目だ。
ただし、このクオリティーでの撮影はかなりハードルが高いのも確かだ。Mark IIのメディアスロットはコンパクトフラッシュとCFast2.0カードのダブルスロットだが、CFastでないと4K撮影は難しい。手持ちのUDMA7対応のコンパクトフラッシュで試したところ、4K60pのMOV記録では12秒ほどでバッファがいっぱいになり書き込みが止まってしまった。この12秒の動画ファイルをPCで確認したところ、容量はなんと1.2GB。記録メディアはもちろん、ファイルを保存するハードディスクなどのメディアにも気を遣う必要がありそうだ。
4K動画撮影時は、センサーのうち880万画素相当がドット・バイ・ドットで使われ、レンズの実焦点距離は約1.4倍となる。4K動画で記録したものを880万画素相当の静止画として保存することも可能で、秒間60コマ記録のハイスピード連写マシンとしての用途も考えられる。さらに、フルHD撮影の場合は120pのコマ速が選べるので、なめらかなスローモーション動画も楽しめる。
動画撮影で特に便利だと感じたのが、デュアルピクセルCMOS AFセンサー採用によるオートフォーカス性能の向上だ。これは、1画素の左右を別に読み出すことにより画質を落とすことなく像面位相差情報を得られ、画面のほぼ全域でAF測距ができる技術だ。これまで、動画撮影時のAFはピントの前後の迷いが多くて実用性に乏しかったが、Mark IIではスッと迷いなく決まるようになった。液晶のタッチにより測距点も指定できるので、多くのシーンでAFによる動画撮影が可能になったといえそうだ。1D Xでは、静止画のライブビュー撮影と動画撮影の切り替えはメニューであらかじめ指定が必要だったのだが、Mark IIでは5D Mark IIIなどと同様の回転式レバーでの切り替えとなった点もうれしい。動画撮影に欠かせない撮影中の音声モニター用に、ボディー右脇の端子群にはヘッドホン端子が新たに追加された。
撮像素子の有効画素数は2020万画素と、1D Xの1810万画素から微増にとどまる代わりに、拡張感度は1段分アップのISO409600相当になった。気になる画質だが、今回テストに使用した機材は画質評価ができない試作機だったので、詳細はまたの機会に譲ることにする。高感度画質に注目が集まるところだが、ISO100といった低感度時にも目立った進化があるかに期待したい。2016年4月下旬の発売が待ち遠しい。
(ライター 吉村永)
[日経トレンディネット 2016年3月16日付の記事を再構成]
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