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グーグルはダイバーシティーでイノベーションを生む

2016/4/21

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PIXTA
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日経DUAL

マタハラNet代表・小酒部さやかさんがグーグルでダイバシティ日本統括責任者を務める山地由里さんに同社の施策と狙いを伺いました。

多様な人材のほうが、効率よく問題解決できる

―― グーグルがダイバーシティーを推進する理由をお聞かせください。

山地由里(やまち・ゆり)さん グーグル・ダイバシティ日本統括責任者 米シカゴ大学経営大学院修士課程修了(MBA)。日系IT系企業・米国系ソフトウェア企業においてエンジニアとして勤務後渡米。米国にてソフトウェア企業人事部のリーダーシップディベロップメントプログラムに在籍。タレントマネジメント・HRビジネスパートナー等のポジションを経験後、ダイバーシティーを担当する。帰国後、米国系企業でのダイバーシティ日本統括担当を経てグーグルに入社。グーグルではアジアパシフィック地域のダイバーシティーを担当

グーグルの根本には「10の事実」でも紹介しているように、「Do The Right Thing = 正しいことをする」という発想があります。また、テクノロジーで社会問題や困難な状況を解決したいという思いもあり、社内の取り組みを社会に広く公開して、少しでも課題解決に役立ちたいと考えているのです。また、極めてデータ重視の会社で、ダイバーシティーを語るうえでも、やはりリサーチや研究結果を非常に参考にしています。

例えば、「ダイバース=多様な人材」がいるグループと、「ホモジニアス=同じような人材」が集まるグループが問題解決に取り組んだとしましょう。前者のほうが違う意見が出てもめごとが生じるのでは、と予想する人が多いと思いますが、実際は、前者のほうが効率よくクリエーティブに問題を解決できる。それを証明する研究もあるのです。

文化が違う人材と一緒に働き、今までとは違う視点が入ることで、瞬間的には対立が生まれ、スムーズにいかなくなる可能性はあります。しかし、最終的には多様性が担保されているほうが、より良い結果を導くことができるということが明らかになっています。グーグルでは、長期的な視点で多様性のある環境を目指していくことこそ、イノベーションには不可欠だと考えています。

多様性は性差だけではない

―― ダイバーシティーのメリットが様々な研究でも裏付けられているとのですね。マタハラNetとしても勇気付けられます。では、日本のダイバーシティーの現状について率直な意見をお聞かせいただけますか。

ダイバーシティーというと日本では、「男性」対「女性」といった対立の構図から語られることが多いのが現状だと思います。しかし、それでは大きな弊害をもたらします。女性社員がいない現場では「でも、うちには女性がいないからね」と、その時点で対話が終わってしまうからです。

たとえ男性しかいない環境だとしても、その中に無数の多様性が存在しているのです。その多様性の中で、自分のバックグラウンドは、どうチームに影響を与え、貢献しているのかを考えることが必要なのです。

「無意識の偏見」に気付いて、行動を起こすことが重要

―― 対立の構図が見えないからといって、「その組織でダイバーシティーが達成されている」わけではないのですね。

小酒部さやか(おさかべ・さやか)さん 1999年、明治学院大学法学部法律学科を中退し、すいどーばた美術学院予備校へ。2005年3月、多摩美術大学美術学部グラフィックデザイン科を卒業し、アサツーディ・ケイへ入社。クリエイティブ職アートディレクターとして採用。商品開発、平面広告、パッケージデザイン、CF制作に従事。その後、転職した会社で、契約社員として雑誌の編集業務に従事する中、マタニティーハラスメントの被害に遭う。2014年7月、マタハラNetを設立し、代表に就任。2015年、米誌『フォーリン・アフェアーズ』に掲載され、女性の地位向上などへの貢献をたたえる米国務省「世界の勇気ある女性賞」を日本人で初めて受賞。著書に『マタハラ問題』(ちくま新書)がある

機会があるごとに繰り返しお話させていただいているのですが、やはり影響が大きいのは「無意識の偏見」です。無意識の偏見に気付いて行動を起こすことが重要で、弊社は約4年前から全社的に無意識の偏見をテーマにしたトレーニングに取り組んできました。このトレーニングにはいくつかの段階があります。

一段階目は、無意識の偏見に気付くための「アンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)・トレーニング」です。研修を受けた社員がファシリテーターになって講義する形式で、対象は全社員です。

例えば、社内の誰かが何気なく発した言葉が、実は無意識の偏見に基づいていて、人を傷つけてしまうことがあります。傷ついた人が我慢すると、周囲の誰も気に留めず、外からは一見、何も起こっていないように見えてしまう。この「誰も課題に気づいてない」という点が危険なのです。

悪意がなかったとしても、言われた当人は社内で自分らしさを発揮できなくなり、周囲の人達も無意識のうちに、その発言を職場の共通認識としてしまう。これは組織のパフォーマンスにとって大きな損失です。

この無意識の偏見について様々なケースがあることを知ることを学ぶ。それが、1つ目の段階です。

二段階目は、無意識の偏見に対して行動を起こすための練習を行う「バイアス・バスティング」です。これは2年ほど前から行っています。職場の偏見は当事者同士だけでは解決できないことが多く、当事者以外の周囲の人が気付き、行動を取ることが重要です。ディスカッションやロールプレーを交えながら、「自分ならどのように行動を起こすか」という実践練習を行います。

「フレッシュな発想が欲しいから若手を採用」は偏見

例えば上司が「今度の新企画では、フレッシュなアイデアが欲しいので、チームに新しい風を吹き込んでくれるような20代の若手を採用しよう」と主張したとします。このとき、上司が口にした「20代=フレッシュ」といった無意識の偏見に気付き、自分がみんなの前で直接上司に指摘できる状況と、そうではない状況があります。

直接言葉で上司に指摘することは難しいことが多い。であればどうすればいいのかを学びます。

例えば、上司にこんな問いかけをするのも一つの方法でしょう。「この新企画で求められるスキルは何か教えてもらえますか?」と。このポジションに求められる職務は何かという事実にフォーカスすることで、「若さと新しい視点というのは必ずしも関連するわけではない」と上司を含め、その対話を聞いていた周囲の社員も無意識の偏見に気付きます。

このような方法で何気ない無意識の偏見に基づく発言に対し、皆で「自分ならどうするか」を具体的に考えるのです。行動の取り方は人や状況によって様々で正解はありませんが、行動を起こすということの重要性を理解するように心がけています。

行動の取り方は、人ぞれぞれ違っていていい

―― 山地さんはアジア圏の国々のダイバーシティー推進を担当されていますね。各国でもトレーニングを行っていると思うのですが、日本社会における無意識の偏見は、他国と比較して強いと感じますか。

どこかの地域だけで無意識の偏見が強く出るということはないと思います。無意識の偏見というのは人間であれば誰もが持ってしまうものです。どのような部分で無意識の偏見が出るかという特徴や傾向はあると思いますが、日本だけが著しくバイアスが強いということはありません。

―― トレーニングはどのように運営されているのでしょうか。

最初にファシリテーターの希望者を募り、ファシリテーターになるためのトレーニングを受けてもらいます。また、ロールプレーやディスカッションでは、社内で実際に起きた事例を使用します。ファシリテーターは「シナリオバンク」と呼ばれるシナリオ集から、参加者に関係性の高いものを選んで使用します。グーグルでは人事が主導してトレーニングを実施するだけでなく、社員同士が教えて学ぶというカルチャーがあります。

定時退社の男性に「今日は何かあるの」と聞いていないか

―― ささやかなことに日ごろから気を付けるようにすれば、深刻な状況というのは生まれにくいでしょうし、ささやかなことほど簡単に実践できるからいいですね。

誰にとってもその人らしさを発揮できる環境を皆で作るためにはどうすれば良いかを考えることから始めると良いかもしれませんね。

例えば、定時に退社する男性社員が同僚に「どうしたの。今日は何かあるの」と聞かれたら、その男性も特別な理由を考えなければと思うかもしれません。男性が定時に帰宅しても本来とがめられる理由はないはずで、その質問はひょっとしたら「男性は女性より長く働けるに違いない」という無意識の偏見に基づいているかもしれないのです。まずは自分の常識に疑問を持つことで、働き方の視点が少し変わるかもしれません。

誰にとっても、その人らしく働きやすい環境づくりを醸成するために、企業としてできることがあれば一つでも多く実践する必要があるでしょう。個人や働き方の多様性を認めれば、一人ひとりの生産性も高まります。

よかれと思って偏見を口にしている人に気付いてもらう

―― マタハラや長時間労働に関して、まだ偏見が多い日本で、それを取り除くために有効なファーストステップは何でしょうか。

悲しいことですが、周囲に対して、偏見を一方的に押し付けている人もいると思います。中にはそれが偏見であることに気づかずに、よかれと思って発言してしまっている人もいます。

善意から心ない発言をしている人には、その無意識の偏見にまず気づいてもらう必要があるでしょう。明らかに悪意ある人を責めるより、まずは、善意ある人に気付いてもらい、全員の意識を少しずつ底上げしていくことが先決ではないでしょうか。

問題ないと考えている企業でも、「自分達の中にあるダイバーシティーはなんだろう」と考える機会を増やしていくことはできます。すぐに実践できるので、まずはそこから始めていただきたいですね。

(ライター 水野宏信)

[日経DUAL 2016年3月16日付記事を再構成]