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午後3時半、学童保育の子どもたちが待ちに待ったおやつタイムを過ごす(東京都中央区のリックキッズ水天宮校)

午後3時半、学童保育の子どもたちが待ちに待ったおやつタイムを過ごす(東京都中央区のリックキッズ水天宮校)

小学生の放課後の居場所である学童保育に、3年生で通い続けられなくなる例が出始めている。新1年生の利用が増えて定員がいっぱいになり、すでに通っている上級生を預かれない。共働きの親には大きな試練だ。習い事で高い月謝を払い別の居場所を作るか、不安だが自宅で留守番させなくてはならないか。保育園探しの苦労が終わり一息ついたはずの親には新たな緊急事態で、悲鳴が上がる。

整備追いつかず 自治体により対応バラバラ

「まさか娘が『肩たたき』にあうなんて」。東京都在住の会社員、Aさん(39)は困惑を隠せない。小2の長女(8)が通う学童保育に、4月以降は通えないと通知が届いたのだ。

保育需要の高まりは小学校入学後も続き、新入生の学童保育の申し込みが増えている。Aさんが通わせる学童は小1から小3を預かる。授業が早く終わり、放課後の時間が長い新1年生の利用を優先するため、小3があふれた。

来年度の新入生は例年より多く、学童保育に入れない子供が出るかもしれないという噂は聞いていた。それでも政府は昨年、子供・子育て支援新制度で学童保育の充実を打ち出したばかり。「国は小6まで学童保育に通えるようにすると言っていたのに……」。自宅で留守番させるにはまだ不安がある。かといって同じ時間だけ習い事に通わせると、かなり費用負担が増える。Aさんは頭を抱える。

新制度が始まる前、多くの自治体の学童保育は小3までしか通えず、預け先を失うことは「小4の壁」と呼ばれた。Aさんは本格的な放課後の居場所探しは娘が小4になる1年後の問題と考えていた。新制度のおかげで学童保育に長く通えそうと期待を膨らませていただけに、落胆は大きい。

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厚生労働省によると、学童保育を利用できない児童は15年5月時点で前年より6996人増の1万6941人と過去最多になった。都道府県別に見ると、東京都が同1295人増の2814人と最多。埼玉県(同463人増の903人)、愛知県(同282人の582人)と続き、都市部で増えている。

受け入れ施設数も2万2608カ所と過去最多だが、登録児童数は初めて100万人を超え、5年前より26%増えた。利用者の増加の速さに、受け皿の整備が追いついていない。

東京都文京区は15年度に学童保育の待機児童が20人を超えた。このため親が育児休暇をとっている子供の預かり取りやめに踏み切った。母親が産休入りし、出産月の2カ月後末までに復職しない場合、子供が学童保育を退室になる。保育園ではよくある「育休退園」の学童保育版だ。

15年秋に第2子を出産した同区の会社員、B子さんの長男(7)は、新ルールで強制退室となった。「息子は学童保育が気に入っていたのに。職場復帰のために下の子の保育園探しと学童保育の確保を並行しなくてはならない。子育て支援どころか国や自治体に邪魔されているようにしか思えない」と憤る。

東京都内で13の民間学童「リックキッズ」を運営するM&Sコミュニケーションパートナーズ(東京・江東)の森本潤代表取締役は「積極的に民間学童を希望していなかったものの、通っていた学童を出された人の申し込みは全体の2割ほどに及ぶ」と明かす。

多くの自治体の学童保育は月額数千円程度で利用できるが、民間学童だと数万円かかる。リックキッズの場合、入会金や年会費に加え、長期休暇のない月の基本料金(午後7時まで、税抜き)は週1回の利用で1万290円、週5回だと4万2840円だ。それでも背に腹は替えられないと駆け込む。前述のB子さんは「自宅近くの民間学童を予約した」。

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保育園探しの先に、新たなハードルが現れるのはなぜか。少子化政策に詳しい日本総研の池本美香主任研究員は「学童保育の運用は市町村任せで、対応がバラバラだから」と指摘する。例えば低学年で学童待機児童が出ている自治体は、高学年の受け入れを始めない。

解決策はないのか。東京都板橋区は15年度、放課後対策事業「あいキッズ」を区内の小学校52校全てに整備した。従来の学童保育を引き継いだ「きらきらタイム」(午後5時から7時)に定員はなく、親の就労要件などを満たせば利用できる。国の新制度と歩調を合わせ、6年生まで利用可能にした。在校生の約14%が登録し、平均人数は59.6人。待機児童はゼロだ。

「全ての児童が使う午後5時までは無料で、その先は受益者負担」(同区教育委員会の木内俊直学校地域連携担当課長)の考え方から、学童保育時代に一律4800円だった月額利用料を引き下げた。5時から6時まで2700円、7時までなら3900円(おやつ代含む)だ。

国が打ち出した放課後子供総合プランを体現する自治体の一例と言えるが、同事業開始から全校整備までに6年を費やした。社会福祉法人や企業、NPOなど運営は民間に委託し、子供向けに多様な活動メニューを提供する。

ニッセイ基礎研究所の土堤内昭雄主任研究員は「高齢者ら地域の大人たちが関わること。公園など学校以外の施設を活用して放課後の子供の居場所整備をすること。学び、遊べる場づくりにはまだまだ解決案はある」と話す。

(南優子)

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