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ヒットのひみつ

「菌活」で腸内環境改善を 胎児の健康にも影響 日経BPヒット総合研究所 西沢邦浩

日経BP総研マーケティング戦略研究所

2016/3/17

PIXTA
日経BPヒット総合研究所

エンターテインメント、トレンド、健康・美容、消費、女性と働き方をテーマに、ヒット案内人が世相を切るコラム「ヒットのひみつ」。今回のテーマは、「母子の菌活」。お母さんの腸内環境が生まれてくる子供に受け継がれ、将来の病気リスクなどにも関わることが分かってきました。婚活、妊活に続いて、今後は菌活にも注目が集まりそうです。

「便秘のせいか肌の調子が悪い」、「みんなと同じように食べているはずなのになぜか私は太りやすい」――。それはもしかしたら腸内環境のせいかもしれない。

実際、腸の便秘部位で発生したフェノールという物質が肌の細胞まで届き、肌を守るバリア機能を低下させて肌荒れを起こすことや、高脂肪食を取り続けることで太りやすい腸内環境に変化する可能性があることなどが分かってきている。

しかし、それどころか、親の腸の状態が生まれてくる子供にまで受け継がれるとしたら?

解析技術の進歩で、腸内細菌とそれが作る代謝物質などの働きを詳しく分析できるようになり、腸内環境が私たちの健康に及ぼす影響の大きさが解明されてきた。

人間の体を構成する細胞約37兆個(よく言われている60兆個という説はほぼ否定されているのでご注意を!)よりはるかに多い、100兆を超える数の細菌が私たちの腸の中にいる。この細菌の群れを腸内細菌叢(さいきんそう)と呼ぶ。

これらの細菌の種類の多様性や、どんな菌群が趨勢を占めるかなどによって、太りやすさ、病原菌からの防御力、生活習慣病リスク、さらにその人のストレス耐性やメンタルにまで影響が及びかねないことが分かってきた。

さらに問題なのが、腸内細菌叢の影響は本人だけでなく、その親から生まれ来る子供の健康や人生まで左右しかねないことを示唆するデータが相次いで出てきていることだ。

これから子供をもうける予定の家庭では是非とも「菌活」の実践をお薦めしたい。 

■食物繊維不足で腸内細菌が激減

腸内細菌のエサになる食物繊維をたくさんとっていたのに、ある時点からぐんと少ない食事にして7週間過ごしたところ、腸内細菌の種類が約6割減り、その後再び食物繊維リッチな食事に戻しても3割強の腸内細菌は失われたままだった、という研究が2016年1月にネイチャー誌に発表された。

さらに、低食物繊維食で過ごしている親から生まれた子供だけでなくその後何世代にもわたって、多様性を失った“貧しい腸内細菌叢”が受け継がれていく可能性があるというのだ[注1]。

これはマウスを用いた研究だが、摂取する食物繊維量の多寡によって、ヒトの場合も腸内細菌叢の多様性に大きな差が出ることを各種の研究が明らかにしつつある。

2016年2月に発表された、中央アフリカ共和国の狩猟民族および農耕民族と米国人を比較した研究によると、米国人の腸にいる菌の種類は狩猟民族や農耕民族の3分の1程度だった[注2]。

構成人員の多様性(ダイバーシティー)に劣る組織や社会は柔軟性が低く弱いので、もっと女性活用を行ったり、異能の人材を用いたりしようという取り組みが見られるが、これは人間社会に限った話ではない。腸でも同じことが言えるのだ。

腸内細菌叢の多様性が低い人はアレルギーや肥満になりやすいといった報告は多い。また、細菌叢の多様性が低い乳児では1型糖尿病といった免疫疾患の発生リスクが高いとする研究もある[注3]。

■妊娠期間に行いたい「菌活」

では、生まれてくる子供のために親が取り組みたい「菌活」とは何だろう。

まず、心がけたいのが食物繊維リッチな食生活だ。

先に挙げたネイチャー誌の研究では、「腸内細菌のエサになる食物繊維」が重要としているが、その典型が水溶性の食物繊維だ。食物繊維というと野菜のイメージが強いが、野菜に多いセルロースは硬い不溶性の食物繊維で、腸内細菌のエサになりにくい。

では、日本人が日常生活に取り入れやすい水溶性食物繊維は何か?

下に、100g当たりに含まれる水溶性食物繊維が多い代表的な食品を挙げたが、海産物では総じて海藻類に多い。昆布は加熱料理して食べた場合はもちろん、しっかり出汁をとることでもアルギン酸という水溶性食物繊維が大量に溶け出す。陸のもので注目すべきは、何といっても主食に混ぜて毎日食べ続けることができる大麦だろう。大麦に含まれる水溶性食物繊維はβ-グルカンという種類だ。

昆布で出汁を引いて料理を作り、麦ご飯を食べるという食生活、つまり1960年代頃までどこの家庭でも普通に営まれていた食生活こそが、腸内の有用菌を増やす食物繊維リッチライフだったのだ。

水溶性食物繊維が多い食材 ヒジキ、青のり、昆布、ワカメは日本水産学会誌;67,4,619-622,2001、その他は日本食品標準成分表より

次に心がけたいのは、強いストレスが長く続く状態を避けること。

オランダで行われた、母体の妊娠期間のストレス度と赤ちゃんの腸内細菌叢を調べた研究では、妊娠中にストレスや不安度が高く、ストレスホルモンといわれるコルチゾール値が高かった母親から生まれた赤ちゃんの便を分析したところ、病気の原因になることもある菌を含むプロテオバクテリアという種類の菌が多く、ビフィズス菌や乳酸菌が少なかった。さらにこの細菌叢はその後のアレルギー発症などにも関連していたという[注4]。 

赤ちゃんは産道を通って生まれてくるが、母親が受けたストレスは腸内細菌叢ばかりか膣を含む産道の細菌叢まで変化させてしまうようだ。マウスの試験だが、妊娠期間中に継続的にストレスを受けることで産道の細菌叢が悪化し、免疫物質も減った母親から生まれた赤ちゃんでは、特にオスで脳神経の形成に必要な物質の量が少なくなる傾向が見られ、発達障害を引き起こす危険性があった[注5]。

妊婦のストレスを下げるには、家庭や企業、社会の支えが欠かせない。マタハラは言うまでもなく、厚生労働省が推進している「マタニティマーク」を付けていることでいやな目にあったという声が新聞等で取り上げられるほど非寛容なところがあるこの国は、妊婦にとっても生まれてくる子供にとっても、まだまだ環境改善が必要だろう。

少しでも妊婦がストレスを軽減できる場やプログラムの充実を望みたい。

■赤ちゃんや乳児のための腸ケア

早産で生まれた子や帝王切開で生まれた子は腸内細菌叢の発達が未成熟だとする報告があるが、食物繊維不足の母親から生まれた場合なども含め、あまり良くない腸内細菌叢になりかねない赤ちゃんに対し、するべきことは何だろうか。

母乳に含まれている糖が、赤ちゃんの腸内細菌叢を整えるのに重要な役割を示すというのは以前から指摘されていることだが、最近の研究で、母乳に多いオリゴ糖の中でも特にシアル酸という糖が付いたオリゴ糖をとると腸内細菌叢が整い、子供の健康な成長が促進されるという報告が続いた[注6]。

人工乳育児でも、シアル酸が含まれている、「ビーンスターク すこやかM1」(ビーンスターク・スノー)といった商品があるので心配な向きは選択肢に加えるといいだろう。

腸内環境が良くないと思われる赤ちゃんに対し、生後すぐ、本来新生児に多いロンガム種のビフィズス菌や乳酸菌などを投与するのも有効なようだ。

先に、腸内細菌の多様性が低い子供では1型糖尿病発症リスクが高かったという研究を引いたが、この疾患の発症に関与する遺伝子タイプを持つ赤ちゃんに、生きて腸に届く乳酸菌類を投与したところ、生後27日目までに投与された場合、糖尿病の発症リスクが66%に抑えられたという報告がある[注7]。 

また、たとえ栄養不足の状態に置かれても子供の成長を助ける可能性がある乳酸菌や喘息発症を抑える腸内細菌の探索も進んでいる[注8]。

このような有用菌が薬やサプリメントとなって、子供たちを助ける日も遠くないかもしれない。

小さい子供に対する抗生物質の投与にも気を付けたい。抗生物質は病原菌とともに多くの腸内細菌も死滅させる。

フィンランドで行われた2~7歳を対象にした研究によると、生後2年以内にある種の抗生物質を投与された子供では、腸内細菌叢の多様性が失われてビフィズス菌や乳酸菌といった有用菌類が減少し、喘息や肥満のリスクが上がっていた[注9]。

実際、筆者の長女は生後半年で風邪をこじらせ肺炎を起こして入院したが、そのときに投与された抗生物質が一因になって発症したと思われるアトピー性皮膚炎で苦しんだ。

その当時は、抗生物質にやられず腸まで届くビフィズス菌・乳酸菌製剤があることも知らず、そのような薬を使って長女の腸内環境を守ることには考えも及ばなかったのが悔やまれる。

耐性乳酸菌製剤には「ビオフェルミンR散」(ビオフェルミン製薬)、「ラックビーR散」(興和)などがあるので、抗生物質が処方された折に、医師に一緒に出してもらえないか相談するといいだろう。

本稿ではお母さんの腸内環境がいかに赤ちゃんに影響を与えるかを見てきたが、急速に進む研究により、赤ちゃんが元気な一生を送る土台となる健康な腸内環境を得るための方策が次々に見出されつつある。

案ずるより、主治医などに相談し、母子で取り組める「菌活」を始めよう。

[注1] Nature;529,212-215,2016
[注2] Cell Reports; 14, 1-12, 2016
[注3] EBioMedicine;3,15-6,2015、Cell Host Microbe;11,17(2),260-73,2015 ほか
[注4] Psychoneuroendocrinology;53,233-245,2015
[注5] Endocrinology;156(9),3265-3276,2015
[注6] Am J Clin Nutr.;102(6),1381-1388,2015 Cell; 164(5),859-871,2016
[注7] JAMA Pediatr.;170(1),20-28,2016
[注8] Science;351,6275,854-857,2016 Sci Transl Med.;30,7(307),307ra152,2015
[注9] Nat Commun;7,10410,2016
西沢邦浩(にしざわ・くにひろ)
日経BPヒット総合研究所 上席研究員・日経BP社ビズライフ局プロデューサー。小学館を経て、91年日経BP社入社。開発部次長として新媒体などの事業開発に携わった後、98年「日経ヘルス」創刊と同時に副編集長に着任。05年1月より同誌編集長。08年3月に「日経ヘルス プルミエ」を創刊し、10年まで同誌編集長を務める。早稲田大学非常勤講師。
[参考] 日経BPヒット総合研究所(http://hitsouken.nikkeibp.co.jp)では、雑誌『日経トレンディ』『日経ウーマン』『日経ヘルス』、オンラインメディア『日経トレンディネット』『日経ウーマンオンライン』を持つ日経BP社が、生活情報関連分野の取材執筆活動から得た知見を基に、企業や自治体の事業活動をサポート。コンサルティングや受託調査、セミナーの開催、ウェブや紙媒体の発行などを手掛けている。

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