ベストアルバム新定番、若手は「5年目」が基本
値付けや選曲基準が変わったベテランアーティストによるオールタイムベストが増える一方で、若手による初のベストアルバムの作り方は大きな変化はない。デビューから5年などの周年に、シングルヒットを網羅してリリース順に収めるというスタイルが今も主流だ。
2016年2月に初のベスト盤『E.G. SMILE‐E‐grils BEST‐』を発売したE‐girlsも、デビューから4年間でリリースしてきたシングル15曲を収録し、初めて彼女たちのCDを買う層に分かりやすい作りになっている。
従来からのファンにも訴求
しかし不変のスタイルをベースにしながらも新たな試みも施している。それが2曲の新曲と、同梱するリミックス盤だ。制作を担当するエイベックス・ミュージック・クリエイティヴの小野展稔氏は、「ベストをリリースするからここで活動が一段落ではなく、常に進化しているというメッセージを持たせるために新曲は欠かせなかった。世界中の人気DJたちが手がけたリミックス盤は、彼女たちの真骨頂であるダンスミュージックに特化した作品。これまでの全シングルを収録したベスト盤は最近E‐girlsに興味を抱いてくれた方に向けていますが、リミックス盤はずっと応援してくれている方に新たな魅力を感じてもらえる内容」と、そのコンセプトを語る。
『E.G. SMILE~』は、ベスト盤とリミックス盤2枚組の「ベストCDパック」に、ミュージックビデオのDVDまたはブルーレイディスクを加えたパック、さらにそれらに100ページの写真集とライブツアーのDVDまたはブルーレイディスク2枚を追加した「コンプリート・パック」の5バージョンが存在。ダンスパフォーマンスが魅力の彼女たちならではの付加価値を提示する。
一方、初のベスト盤を次のステップに進むためのきっかけにするアーティストもいる。例えば、西野カナは2010年の切ない恋心をテーマにした『会いたくて 会いたくて』などで「配信の歌姫」として知名度を高め、13年に発売した2枚の初ベスト盤を合計60万枚以上売り上げた。それ以降は『Darling』や『トリセツ』などで新たにコミカルな一面も見せ、若いユーザー中心の配信市場のみならず、幅広い世代にファンを増やしている。
リミックス&ビデオ付きでグループの魅力をアピール
15年末に3年連続で『NHK紅白歌合戦』へ出場したE‐girls。明るくポップで親しみやすい楽曲とメンバーの個性を生かしたファッショナブルな衣装やダンスで人気を集める彼女たちが、デビューから4年分のシングルなどを網羅した初のベストアルバム『E.G. SMILE ‐E‐girls BEST‐』を発売。3月からは本作を携えて3度目のアリーナツアーを予定する彼女たちのベスト盤に込める思いを聞いた。
――初のベスト盤にはどう関わりましたか?
Shizuka まずはメンバーとスタッフさんと、初めてのベストなのでシングルを発売した順番に並べた分かりやすいものにしようと決めました。そして単なる「ベスト」ではなく、E‐girlsらしさを込めたタイトルをみんなで考えました。これまでファンの皆さんから「どんなときも笑顔なのがE‐girlsらしさだね」と言っていただくことが多かったので、私たちを象徴する言葉として「SMILE」と決めました。
――本作で思い入れのある曲は?
佐藤明美 『Follow Me』は、キャッチーなサビや一緒に盛り上がれる振りが多くの方に刺さった。E‐girlsを代表する曲です。
藤井夏恋(かれん) 『CANDY SMILE』はCMで耳にしたことのある方が多いのではと思います。アルバムタイトルテーマの「笑顔」がたくさん詰まった作品ですし、カラフルでポップというイメージが定着したきっかけになりました。
SAYAKA 『E.G. Anthem ‐WE ARE VENUS‐』は、E‐girlsがDream、Happiness、Flowerというグループを中心に成っていることを紹介する曲です。このベストで初めて私たちを知る方たちに、より理解を深めてもらえるとうれしいですね。
ダンスにも注目してほしい
楓 すべてのミュージックビデオを同梱する(ミュージックビデオパックとコンプリート・パック)のも、パフォーマーの私としては注目してほしい。『Diamond Only』のビデオは(女性に人気のブランド)「サマンサベガ」さんのCMとコラボして、最高にかわいくガーリーなE‐girlsを見ていただけます。衣装をまねしてライブに来てくださるファンの方もいて、私たちが発信するものが届いてるなと実感できた1曲です。
藤井萩花(しゅうか) E‐girlsは明るくてキャッチーという印象が強いと思いますが、新曲『DANCE WITH ME NOW!』は史上最強に振りが難しく、強く激しいんです。新しいパフォーマンスの形が見えてきたと感じました。
Shizuka もうひとつの新曲『出航さ!~Sail Out For Someone~』で、武部柚那(ゆずな)がボーカリストとして復帰しました。この曲には、アルバムを通して伝えたい、私たちの歴史や笑顔に秘められた物語などが詰まっているんです。
――ベスト盤をリリースする意義は何でしょうか?
Shizuka 私たちはライブを大切にしているグループなので、1人でも多くの方に見に来てほしい。ライブ映像を収録した(コンプリート・パックのみ)のもその気持ちの表れです。(2015年末の)『紅白歌合戦』などで私たちを見て、初めて興味を抱いてくれた方々に今の私たちのすべてを知ってもらう1枚となれば。そして、春から始まる3度目のアリーナツアーに足を運んでもらうきっかけになったらうれしいです。
改めてアルバムを通して聴くと、もっと誰もが知るヒット曲がずらりと並ぶベスト盤にしたかったという思いも正直あります。でも、いつかは今作を超えるようなベストを出したいという次の目標もできました。
(日経エンタテインメント! 伊藤哲郎、ライター 臼井 孝、橘川有子)
[日経エンタテインメント! 2016年3月号の記事を再構成]
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