ビジネスウエアがカジュアル化し、自転車通勤者も増えるなか、“ビジネスシーンで使えるリュック”が注目を集めている。そのなかで頭角を現してきたのが、海外デザイナーズブランドとアウトドアブランドだ。
海外デザイナーズブランドのラップトップリュック(ノートPCの収納を前提に作られたリュック)は、シンプルながら個性的なデザインなのが特徴だ。その筆頭といえば、フランス生まれの「コート・エ・シエル」。ブランド名は知らなくても、“巻き貝を思わせる立体的で風変わりなフォルムのリュック”といえば、ピンとくる人も多いだろう。
コート・エ・シエルは2008年にパリで設立されたブランド。アップル社公認のスマートフォンケースなどを作っているペイパーレイングループのデザインチームが手がけている。アップル製品に対応したPC関連アクセサリーを中心に、実用性とデザイン性を融合させた斬新なアイテムを提案している。
日本に本格上陸したのは2010年。看板モデル「ISAR(イザール)」の独創的なデザインが話題となり、「1年目からファッション市場で受け入れられた」と、日本での代理店を務めるアンバイ(大阪市)の冨士松大智社長は話す。「バックパックのスポーティなイメージとは異なるモードな雰囲気があるので、キレイめな着こなしに合わせることができる。ちょうどファッションシーンがモードに向かっていくタイミングと重なった」(冨士松社長)という。
コート・エ・シエルは販路を「ビームス」「エディション」などの人気セレクトショップにあえて絞っている。それにもかかわらず、「独特なデザインが目に留まるので、それ自体に広告効果がある」(冨士松社長)。持っている人が広告塔となり、広まっていった。当時はPCを外に持ち出す人が増え、ラップトップリュックを探していたファッション感度の高い人たちにヒットしたのも大きいだろう。
日本の購買層は男性が7~8割だという。欧州の人の体型に合わせて作っているのでバッグサイズが大きく、PC収納部分には厚いウレタンが入るなどカバン自体も通常のデイパックなどに比べるとやや重い。ちなみに「パリの男性は普段からカバンを持ち歩く習慣がなく、フランス発信ですが販売はアジアが強い」(冨士松社長)という。日本限定モデルやセレクトショップ別注モデルが数多く展開されているのも納得できる。
コート・エ・シエルのデザイナーに直撃!
ひと目でそれと分かる、コート・エ・シエルの独特なフォルムはどうやって生まれたのだろうか。それを探るべく、デザインを手がけるアルノー・エミリー氏にインタビューを敢行。デザインの秘密に迫った。
――コート・エ・シエルが独自のバッグを生み出せる理由を教えてください。
アルノー・エミリー氏(以下、エミリー):私はもともと科学を学んでいて、「理論→疑問→確認」というソリューションが好きでした。コート・エ・シエルのバッグもそのアプローチの繰り返しでデザインしているので、通常のデザイナーの物作りとは違うと思います。さらに私はアートを愛する人間なので、アーティスティックかつサイエンティフィックにデザインしていったら世の中にないものができた、ということではないでしょうか。
――バッグをデザインするうえで意識していることは何ですか?
エミリー:私はバッグを肌と同じだと思っています。また、背負っているものを体の一部と考えれば、バッグ=着るものともいえます。ですので、デザインはシンプルに、表面はフラットで裁断や縫製が最低限であることを意識しています。
――看板モデル「ISAR(イザール)」のデザインが生まれた経緯を教えてください。
エミリー:「一枚布からバッグを作ろう」というのがもともとのアイデアです。イザールを見ていただくと、縫製を極力していないのが分かると思います。ファブリック(生地)を裁断・縫製しないでバッグが完成するかどうかを試みました。日本の風呂敷の考え方にとても似ていると思います。フォルムをファブリックで作るということにこだわったデザインです。
――日本での人気をどのように思っていますか?
エミリー:日本の方々が私のデザインするバッグを一番理解してくれていると思っているので、東京・原宿にコート・エ・シエルの旗艦店ができたことは理にかなっています。私自身、日本のデザイナーたちが作るものに、とても響くものがあります。実は来日した際、何人ものコート・エ・シエルのユーザーを見ましたが、みんなとっても素敵でした!
――日本市場を意識してデザインしている部分はあるのでしょうか?
エミリー:パリでは、コート・エ・シエルのバッグは、「日本のブランドでしょう?」なんて言われたりしているんです。私のデザインしたバッグは「日本っぽい」と言われて、「これが日本っぽいんだ!」と思ったものです。ただ、先に述べたように、私のデザインはいつも科学者的アプローチから入るので、最初のコンセプトから最終的なプロダクトになるまでのプロセスに興味があります。市場のニーズだけではプロダクトは作りません。
――今後の展望、新たにどのようなバッグを考えているか教えてください。
エミリー:変形バッグなどをリリース予定です。バッグをお使いいただく方が自分で自在に表現できる、トランスフォームできるバッグです! 私はこの仕事を仕事だと思っていないので、アイデアがいつもあるんです。楽しみにしていてください!
(日経トレンディネット 津田昌宏)
[日経トレンディネット 2016年2月1日付の記事を再構成]