朝ドラ『あさが来た』 ポジティブな脚本で心つかむ制作統括に聞いたヒットの5つのシカケ(前編)

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波瑠がヒロインを演じている連続テレビ小説『あさが来た』の快進撃が続いている。開始から視聴率は好調に推移し、これまでの最高視聴率は27.2%。週間視聴率は第6週目以降、23%以上をキープしている。多くの人を夢中にさせるこの作品はどのように作られたのか。前後編の2回で成功の秘密を探った。

2015年9月末に放送が始まったNHKの連続テレビ小説(以下、朝ドラ)『あさが来た』。近年の朝ドラに対する関心は高く、連日、視聴率やストーリーへの反響が報じられている。

『あさが来た』は、幕末生まれの実在の女性実業家・広岡浅子をモデルとした物語。おてんばで好奇心旺盛だったあさ(波瑠)が、嫁ぎ先の舅(しゅうと)をはじめ、経済界の重要人物たちとの出会いによって次第に商才を発揮していく。女性の社会進出がほとんどなかった時代にも関わらず、炭坑事業を皮切りに、商いの道へとまい進。銀行、保険会社を設立し、さらに日本初の女子大学を開設するなど、数々の事業を成し遂げる。

週間視聴率で23%以上をコンスタントに取っており、近年の朝ドラの中で好調さが際立つ。視聴率はビデオリサーチ関東地区調べ。平均視聴率は編集部調べ

放送がスタートしてからは、テンポの良いストーリー展開と、小気味よい会話劇が評判になった。魅力あふれるキャラクターを演じる俳優たちの力も強い。波瑠は、行動力があってパワフルなあさ役がはまり、女優としての魅力を日に日に増している。「なんでだす」「びっくりぽんや」の口癖や、少々言い過ぎたときに口をつまむ仕草もかわいらしい。三味線に興じてばかりで道楽者のあさの夫・新次郎役の玉木宏の存在もまた大きく、見事な所作で小粋なボンを華やかに演じている。その他、あさと対象的な人生を歩む姉・はつ役の宮崎あおいや、あさをビジネスの世界へと導く五代友厚役のディーン・フジオカら、登場人物それぞれにファンがつき、盛り上がりを見せてきた。

週間視聴率は16週連続で20%超え。過去10年の朝ドラ平均視聴率で最高となった『ごちそうさん』(13年)や『花子とアン』(14年)をしのぐ数字で推移している。

後半は、念願の銀行経営に乗り出し、女子大開設のために動き出す。同時に、難しい年頃にさしかかった子どもを持つ親としての苦労をあさとはつが味わっていく。家族がどのような到達点に行きつくかを丁寧に描いていくとのこと。4月2日の最終回まで、作品の勢いは続くか。期待が高まっている。

制作統括に聞いたヒットの 5つのシカケ

今回の朝ドラを制作するにあたり、ヒットさせるためにどのようなシカケを入れたのか。

NHKでは、年に2作制作する朝ドラのうち、秋スタートの後期の作品は大阪局で制作している。制作統括の佐野元彦氏は、14年6月に東京から大阪局に異動し、15年後期の朝ドラを担当することとなる。題材を探すために京都、神戸、大阪の図書館に2週間ずつ通い、出合ったのが原案本となる古川智映子の著書『小説 土佐堀川』だった。「実はこの本を読むまで、広岡浅子さんという人がいたことを僕も知らなかったんです。これまでドラマ化されていなかったことが不思議なぐらい、朝ドラにぴったりなヒロインだと思いました」

広岡浅子の人生をどう描くか。「朝、みなさんの背中をポンと押せるような、元気を与えられる作品にしたい」。その実現に向けて、狙いを持って取り組んだ5つの戦略があった。

朝ドラ初の幕末スタート、美しい着物で心をつかむ

最初に心配事として引っかかったのは、朝ドラ史上初めての幕末スタートになることだった。物語が明治に入るまでは、登場人物はちょんまげ姿になる。一般的な感覚では、“ちょんまげ=武士のもの、時代劇”というイメージが強い。

着物の素晴らしさも楽しみのひとつになるように、衣装担当に丁寧に準備してもらったという。雑誌などで着物特集が組まれるなど、高い関心が寄せられた

「朝の8時からふんぞり返ったお武家さんが出てくるのか、などと思われないように、心の通う町人さんの話だということを押し出すこと、夜に放送される時代劇とは違うタッチで、重くなりすぎないようにと意識しました」

また、ちょんまげの時代だからこその良さを生かすために、着物の衣装に力を入れた。これは、佐野氏が2008年に手がけた大河ドラマ『篤姫』の経験がヒントになっている。「『篤姫』のときは、薩摩の分家のお嬢さんがファーストレディーになっていくというドラマ性に引かれて作ったのですが、視聴者の方々からは、“見ごたえのある着物でした”という声がものすごく多かったんです(笑)。美しい着物の色味というのは、普段眠っている私たちの感性を呼び起こしてくれますし、見るだけで楽しい」。ビジュアルのプラス面を引き立たせることで、時代劇のマイナスイメージを払拭した。

朝ドラ執筆は2回目の大森美香に脚本を依頼

あさのお付きをしているうめと、白岡家が営む加野屋の大番頭・雁助は徐々に親密な関係になっていく。2人が幸せになってほしいとの視聴者の声が続々

両替商に嫁いだ女性が家業を復興していくという、見方によっては堅くなりがちな話を、心の通う温度を感じられるようなドラマにしたい。その思いから、佐野氏は14年の正月時代劇『桜ほうさら』で一緒に仕事をした大森美香に脚本を依頼した。

「登場人物をネガティブに書かないのが、大森さんの脚本の魅力。ポジティブなメッセージが詰まった、時にクスッと笑える面白さと温かみのある物語にするには、大森さんの力が必要だと思いました」

大森は『不機嫌なジーン』(05年)や『ブザー・ビート』(09年)など、恋愛ドラマにも定評がある。あさと新次郎の夫婦愛のシーンや、亀助(三宅弘城)とふゆ(清原果耶)、雁助(山内圭哉)とうめ(友近)といった番頭たちの恋も、「キュンとくる」と女性を中心に評判になった。「朝ドラは長い期間、日常的に放送されるものなので、視聴者の方もキャラクターに対して愛情を持って見てくださる。“この2人の間に何か特別な感情が起きたら”という楽しみをたくさん仕掛けていけるのも、朝ドラの醍醐味です」

朝ドラ執筆が『風のハルカ』(05年)に続き2回目だというのもポイントだった。ドラマは1クール3カ月が基本であり、放送期間の長い作品を書く機会は、朝ドラと大河ドラマ以外にはほとんどない。「朝ドラって、放送分数にすると、1年間放送する大河と同じなんです。その分量を書き続けられる力量が必要ですし、実際にお書きになられた方でないと分からない苦労というのもあるはずです。さらに、ヒロインの職業がどんどん変わっていくので、大量の資料も読まなければいけない。初めての幕末スタートという挑戦もある企画でしたし、朝ドラ経験のある大森さんだからお任せできたという部分は大きいです」

(以下、11日公開の後編に続く)

(ライター 内藤悦子)

[日経エンタテインメント! 2016年3月号の記事を再構成]

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