大手キャリアから格安SIM乗り換え、5つの注意点
格安SIMや格安スマホには、大手の通信会社に対して幾つかのデメリットが存在する。本連載の第1回でも少し触れているが、詳しくチェックしてみよう。
注意1 格安SIMに乗り換えるとキャリアメールが使えなくなる
格安SIMでは、NTTドコモ、KDDI(au)、ソフトバンクが提供する独自のメールサービス、いわゆる「キャリアメール」が使えない。大手の通信会社を解約すると同時に、キャリアメールのメールアドレスも失われてしまうのだ。
そのため、格安SIMでメールを使うには、GmailやYahoo!メールといった無料のメールアドレスや、インターネットプロバイダーのメールアドレスを利用することになる。なかには楽天モバイルやmineoのように、独自のメールアドレスを発行する格安SIMの通信会社もある。
しかし、格安SIM独自のメールアドレスは、キャリアメールではPCメールとして扱われる。そのため、キャリアメール側の迷惑メールフィルターに引っかかってしまい、相手にメールが届かないことがある。Gmailなどの無料メールアドレスも含め、送信相手には電話やSMS(携帯電話番号でテキストメッセージを送受信する機能)、時には口頭で、格安SIMでのメールアドレスを周知しなくてはならない。周囲にキャリアメールを使っている人がいる場合は注意が必要だ。
注意2 手続きやサポートはウェブ中心 初期設定も自分で行う
大手の通信会社は全国に店舗を構えている。店舗では新規契約や機種変更の手続きをはじめとする窓口業務や、使い方のレクチャーや修理対応といったアフターサポートを提供している。
一方、格安SIMの通信会社では店舗を持たないところが多く、契約手続きやアフターサポートは、ウェブサイトや電話窓口での応対が主となる。スタッフが対面で応対してくれる大手通信会社の店舗とは違い、届いたSIMカードの初期設定は基本的に利用者自身が行うことになる。
使い方でわからないことが出てきても駆け込める店舗がないため、取扱説明書やウェブサイトのQ&Aを参照するなどして、ある程度は自力で解決しなければならない点も覚悟しておく必要がある。
ただ最近では店舗で手続きができる格安SIMの通信会社も増えつつある。楽天モバイル、mineo、U-mobile、トーンモバイルは、都市圏を中心に直営店を展開。新規契約や電話番号を変えずに通信会社を乗り換えられる「携帯電話・PHS番号ポータビリティー」(MNP)制度の転入手続きを行ったり、使い方に関するサポートなどの業務を行ったりしている。
ビックカメラやヨドバシカメラのように、店頭に格安SIMの専門カウンターを設け、スタッフを常駐させている大手家電量販店もある。流通大手のイオンリテールも、全国のイオン店頭で格安SIMと端末をセットにした「格安スマホ」を販売。直営店や大手家電量販店にアクセスしづらい地方における貴重な選択肢となっている。
注意3 使い始めるまでに日数を要する場合も。MNPは要注意
大手の通信会社では店頭で新規契約の手続きができるので、その日のうちに新しいスマホを使い始められる。
ところが、格安SIMや格安スマホの場合はウェブサイトから新規契約を申し込むため、契約者のもとにSIMカードや端末が届くまで、短くても1~2日、長い場合は1週間前後も日数が掛かってしまう。
特に困るのは、電話番号を変えずに通信会社を乗り換えられるMNP制度を利用して、格安SIMに乗り換える場合だ。乗り換える場合には、転出元の通信会社から転入先の通信会社に電話番号が移されるのだが、このタイミングが問題となる。
格安SIMの通信会社は、SIMカードを発送する前に電話番号を移し替える。すると、転出元のSIMカードは解約の扱いとなるため、格安SIMのSIMカードが届くまでの間は、通話も通信も一切できなくなってしまうのだ。
こうした問題は、先に紹介した店舗で手続きができる格安SIMを選べば解決できる。また店舗を構えない通信会社のなかには、MNP制度で電話番号を移し替えるタイミングを利用者がコントロールできるようにしたところもある。
具体的には、MNP制度を利用して転入を申し込んだ利用者に、電話番号を移し替える前のSIMカードが発送される。SIMカードを受け取った利用者は、専用のウェブサイトや電話窓口を通じ、自ら番号の移し替え手続きを行うのだ。
この場合、通話や通信が利用できない時間を数十分以内に抑えられるので、店頭で手続きをするのと同程度の時間で乗り換えられる。近くに利用できる店舗がなく、オンラインでMNP制度の転入手続きをする人は、格安SIMの通信会社が案内している手続きの流れをチェックして、番号を移し替えるタイミングを確認しておこう。
注意4 大手の通信会社から端末を引き継げる場合と、引き継げない場合がある
スマホは高価な電子機器だ。例えばApple(アップル)のiPhone 6sは、一番安いモデルでも9万3744円で販売されている(AppleのオンラインストアにおけるSIMフリー版iPhone 6s 16GBモデルの価格)。
大手の通信会社では端末代金の分割払いが一般的で、月額料金に対する割引サービスもあるものの、そう簡単に買い替えられる商品ではない。幸い、格安SIMでは大手の通信会社で使っていた端末を引き継げる場合がある。
というのも、格安SIMは、大手の通信会社が持つ基地局などの設備に相乗りしてサービスを提供しているからだ。同じ設備を共有している通信会社同士なら、端末も共有できる場合がある。
具体的には、NTTドコモとauから格安SIMに乗り換える場合、引き続き端末を利用できるケースが多い。特に格安SIMの大半が相乗りしているNTTドコモからは、端末を引き継ぎやすい。ただ、端末によっては格安SIMを利用できない場合がある。実際に引き継げるかどうかは、格安SIMの通信会社が公表している動作確認済み端末の一覧を参照してもらいたい。
なお、筆者が確認した限りでは、ソフトバンクの端末で動作が確認されたことを公表している格安SIMは見当たらなかった(2015年5月から義務化された「SIMロック解除」の手続きを行うことで利用できる可能性もあるが)。
注意5 格安スマホには機能の少ないものが多い
あらかじめ格安SIMがセットされた格安スマホの最大の魅力は価格の安さだ。「P8lite」(ファーウェイ製、メーカー直販価格3万888円)や「ZenFone 2 Laser」の5インチ画面・16GBモデル(ASUS製、メーカー直販価格2万6784円)といった2万~3万円の価格帯が主流だが、最近は2万円を切る価格でも使い勝手の良い製品が登場しつつある。
大手の通信会社で販売されているiPhone、Xperia、Galaxyなどの人気端末と比べ、格安スマホは半額や3分の1程度の価格で購入できる。だが、価格だけに気を取られてはいけない。格安スマホは価格が安いぶん、使える機能も限定的だからだ。
例えば、国産スマホでおなじみのおサイフケータイ機能も、格安スマホでは利用できないことが多い。格安スマホでは海外メーカー製の安価な端末が採用されるケースが多いためだ。おサイフケータイを支える「FeliCa」という非接触型ICカードの規格は日本独自のものであるため、日本の大手通信会社から発売されるモデルを除き、海外メーカー製のスマホには搭載されない。そのため、海外メーカー製のスマホが中心の格安スマホでは、おサイフケータイが使えないのだ。
おサイフケータイ機能だけでなく、防水や防じん、ワンセグ、赤外線通信機能といった、大手の通信会社で販売されている端末では見慣れた付加機能の多くが、海外メーカー製の格安スマホにはほとんど備わっていない。
こうした付加機能を利用したければ、国内メーカー製の端末を採用した格安スマホを選ぶことになる。例えば、富士通製の「arrows M02」(実売価格3万円前後)やシャープ製の「AQUOS SH-M02」(実売価格4万円前後)には、おサイフケータイ、防水、赤外線通信機能といった付加機能が備わっている。
だが、国内メーカー製の格安スマホは海外メーカー製のものに比べ、付加機能が多いために価格も高い。格安スマホ選びでは、「安さ」と「機能」のどちらをより重視するのかという視点も必要だ。
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次回は、実際に格安SIMや格安スマホに乗り換えると、どのような手続きや操作が必要になるのかを紹介する。
(ライター 松村武宏)
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