スマートウォッチは時計としてスマートでなかった

「ツイッターの伝道師」「金髪のジャーナリスト」として知られるジャーナリスト津田大介氏。実は"大のガジェット好き"でもある津田氏が、"気になるモノ"に迫る連載で、最初に取り上げるのはカシオ計算機のアウトドア用スマートウォッチ「Smart Outdoor Watch WSD-F10」。前編はアウトドアという用途を選んだ理由を追究したが、後編では「スマートウォッチなのに時計としてスマートではないこと」に対するカシオの解決策を聞く。

今までできていたことを大切にする姿勢

スマートウォッチの「使う用途やシーンがまだはっきりしていない」という課題に対して、G-SHOCKブランドで世界的に認知されるカシオが、アウトドアを提案したのはある意味、自然な流れだった。開発した同社の新規事業開発部企画管理室・坂田勝室長は、さらにもう一つの課題を見いだしていた。それが「スマートウォッチなのに時計としてスマートではないこと」だ。

ジャーナリストの津田大介氏(写真:大橋宏明 以下同)
アウトドアで使えるスマートウォッチとして開発されたカシオ「WSD-F10」

端的な例をひとつ挙げる。筆者はApple Watchユーザーなのだが、Apple Watchを使い始めて一番困っていたのが、放っておくとすぐに画面が暗転してしまうことだ。今回のような取材や打ち合わせの途中で時間を確認するためには、パッと腕を振り上げたりボタンを押したりしないといけない。いきおい大げさでいかにも「時間を確認している」動作になってしまうのだ。しかしそうするとほぼ100%の確率で、打ち合わせ先や取材相手から申し訳なさそうに「あ、お時間は大丈夫ですか?」と言われてしまう。ただ、そっと時間を確認したいだけなのに、それができない。それは「時計」としては致命的な欠陥だ(もちろん、Apple Watchは単なる時計ではなく、ほかの部分で便利な機能がたくさんあるからこそ、筆者も使い続けているわけだが……)。腕を上げて時間を見るという動作がここまで相手に気をつかわせてしまうとは実際に使ってみるまで気づかなかった。

カシオの「Smart Outdoor Watch WSD-F10」で一番気になるのはこの部分だ。これも放っておくと暗転してしまうのだろうか。

坂田勝氏(以下、坂田)「弊社として、スマートウォッチに感じたもうひとつの課題が、そうした実用レベルの視点です。今のスマートウォッチは、充電の持ち、耐久性、防水性、視認性、どれをとっても腕時計にかないません。ましてや、多くのスマートウォッチが、時間を見るために腕を振ったりボタンを押さえたりしなければなりません。スマートという言葉を冠したウォッチとして考えると、いままでできていたことができなくなるのは、時計&エレクトロニクス機器メーカーである弊社にとって大きな課題だと考えました」

WSD-F10の企画を担当した新規事業開発部の坂田勝さん

解説を聞いていると、5秒ほどでWSD-F10の文字盤が薄暗い表示に変化した。しかし、時間を見るには支障ない。今までの時計と同じように、チラッと目線を走らせるだけで時刻がわかる。時計では当たり前にできることが当たり前のようにできることがとてもありがたい。今までの時計でできていたことを大切にするという姿勢は、まさに、Apple Watchと思想の違うところだ。

坂田「それは、アンビエントモードというバックライトの輝度を落とした省電力状態です。秒針がなくなって、1分間に1回更新します。側面のホームボタンを1回押しても同じ表示になります。この状態で、電池の持ちは1日以上です。ホームボタンを2回押すと、シアターモードという秒表示のあるモノクロ液晶表示になります。ただし、この状態でもスマートウォッチの機能は動いています。さらに、スマートウォッチ機能を完全に落として時計だけで使うタイムピースモードなら1カ月以上。使いたい状況にあわせてパワーマネジメントできるようになっています」

この画面が通常モード。さまざまなデータが表示されている
バックライトの輝度を落とした省電力状態。秒針がなくなって、1分間に1回更新する
スマートウォッチ機能を完全になくして時計だけで使うタイムピースモード。このモードなら1カ月以上電池が持つという

……約1カ月とはすごい。もっとも、それなら所有している「スマートではない時計」を装着すればいいような気もするが。時間を確認するだけなら持っているスマートフォン(スマホ)でもできるわけで……。

本体でデータ計測する利点

ここで、重要なことを確認しよう。表示される計測数値のデータは、スマホのアプリケーションのものをWSD-F10に呼び出しているのだろうか。それともG-SHOCKのように本体にセンサーを搭載しているのだろうか。それが気になった理由は、iPhoneやApple Watchに内蔵されているコンパス機能が不正確で不満があるからだ。スマホ側のアプリデータを表示するだけだと、データ精度がアプリに準拠してしまう。

坂田 「WSD-F10の場合、GPS(全地球測位システム)はスマホのGPSを使っていますが、圧力(気圧/高度)センサー、加速度センサー、ジャイロセンサー、方位(磁気)センサーを本体に内蔵しています。手元で計測した数値を、スマートウォッチならではの機能で、多彩な表示ができるようにしています」

だとしたら、登山中に滑落するなどしてスマホと離ればなれになっても、手元で方位や高度を計測できる。そのうちサードパーティーが、遭難信号や緊急救助コールを発信するアプリを開発してくれるかもしれない。そうしたニーズは、高いのではないだろうか。

坂田「Android Wearですから、どんなアプリベンダーさんでもセンサーの値を読んで表示するアプリの開発をしていただくことができます。今後、できることを考えていただければ、と思っています。あえて用途を絞ったハードですから、新しいアプリ開発の切り口にしていただければ」

同社のカメラとコントローラーを分離して使えるデジカメEX-FR100と連携すればライブビュー画面を手元でみることができるという

カスタマイズはスマートウォッチの得意技

Apple Watchを買うまで、時計はずっとカシオユーザーだった。Apple Watchの前に使っていたのが、カシオのOCEANUS(オシアナス)。筆者が愛用していたのはOCEANUSの「Digital Analog Combination」で、アナログの針とデジタル表示の両方を持ったタイプだ。しかし現在は、発売されていない。

これは筆者のコダワリなのだが、それ以前の時計もずっとアナログとデジタルのハイブリッド型にしてきた。なぜなら、アナログの文字盤は残り時間がどのくらいか、相対的に見てわかる。一方、テレビやラジオの収録では、正確な時刻を秒単位で把握していないといけないため、アナログの針のある文字盤に、デジタル表示も一緒にでる時計が必要だったのだ。

Apple Watchを買ってからは、液晶表示をアナログの文字盤にして、左上にデジタル表示を出すスタイルで使ってきた。しかし、秒単位の表示がでないのが不満だった。

坂田「文字盤のデザインは、カスタマイズすることで解決できると思います。カスタマイズはスマートウォッチの得意技ですから。用意されているデザインの中には、昔ながらのG-SHOCK風などもあります。もっとほかのデザインを探したければ、Google Playなどに、4000種類以上のウォッチフェースが、用途やファッションにあわせてユーザーやベンダーから提供されています」

この点も、Apple Watchとの大きな差だ。Appleの場合は、むしろエルメスと組んで"Apple Watch Hermes"を発売したように、ベンダーや文字盤デザインを限定することで高級感を保つ戦略を取っている。

●今回のまとめ●

Apple Watchを使う前は、スマートウォッチが本当に必要なのか疑問だった。しかし使い始めてみると、意外に充電のストレスはない(普通に使っていれば2日間弱は持つし、スマホを充電するときに一緒に充電するので充電が切れることはほとんどない)し、アプリを選んで通知できる機能は予想以上に便利だった。スマホでいちいち確認しなくても、必要な通知をカスタマイズしておけば、絶対に逃したくない緊急連絡に手元で気づく。やはりスマートウォッチは、あれば便利なものだ。しかしApple Watchで、通知以外になにかアプリを使うかというと、自分はあまり使っていないことに気がついた。

通知機能については、WSD-F10の場合、OSはAndroid Wearだが、iPhoneアプリやiOSとの連携も考えられていた。アップル側の仕様で、スマホのアプリケーション連携はできないが、通知機能はほぼ同じ。そして、時計本来の機能と、気圧やコンパスなどのセンサーでは、一歩先んじている印象だ。

なにより今日、一番印象的だったのは、レスポンスが早くて、動作がキビキビしていたこと。Apple Watchの動作は、もっさりしていて遅い。聞くところによれば、CPUはiPhone4sと同じだそうだ。Apple Watch上で何かアプリを操作しようと思っても待ち時間が非常に長くイライラさせられる。なので筆者は通知以外でApple Watch上でアプリを操作することはない。その点、WSD-F10はどのアプリもサクサク動く。「スマート」と名乗るからには、これくらいキビキビ動作してくれないと困る。

スマートウォッチの将来展開は、スマホと同じようにキラーアプリの登場にかかっているとされる。このWSD-F10のように、明確な使い方と、高い実用性を兼ね備えたハードが登場したことは、新しいアプリやサービスが生まれる大きなきっかけとなりそうだ。

アウトドアユーザーでなくとも、黒のバージョンなら普通にビジネスで使えるだろう。アウトドアを趣味としない筆者が第1弾を購入するかどうかは正直微妙なところ。ぜひ第2弾としてビジネスユースに絞り込んだ製品を検討してほしい。

(編集協力 波多野絵理)

津田大介(つだ・だいすけ) ジャーナリスト/メディア・アクティビスト。「ポリタス」編集長。1973年東京都生まれ。早稲田大学社会科学部卒。大阪経済大学客員教授。京都造形芸術大学客員教授。テレ朝チャンネル2「津田大介 日本にプラス+」キャスター。フジテレビ「みんなのニュース」ネットナビゲーター。一般社団法人インターネットユーザー協会(MIAU)代表理事。株式会社ナターシャCo-Founder。メディア、ジャーナリズム、IT・ネットサービス、コンテンツビジネス、著作権問題などを専門分野に執筆活動を行う。ソーシャルメディアを利用した新しいジャーナリズムをさまざまな形で実践。主な著書に『ウェブで政治を動かす!』(朝日新書)、『動員の革命』(中公新書ラクレ)、『情報の呼吸法』(朝日出版社)、『Twitter社会論』(洋泉社新書)、『未来型サバイバル音楽論』(中公新書ラクレ)ほか。2011年9月より週刊有料メールマガジン「メディアの現場」を配信中。
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