事務職は負け組か 総合職の女性に格下扱いされて河合薫の「女性のリアル人生相談」

日経ウーマンオンライン

2016/2/19
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健康社会学者の河合薫さんが、読者の皆さまから寄せられたカイシャやオシゴトにまつわる悩み事について回答する、リアル人生相談の連載。今回は、総合職の女性に格下扱いをされた事務職の女性のお悩みです。

【自分の仕事に“誇り”が持てなくて、悩んでいます】
私は事務職として働いています。責任ある仕事も任され、やりがいもあります。でも、総合職の女性から「事務職はユルくていいよね」とか「いつまでも女の子扱いでうらやましい」といつも格下扱いされて。イヤミを言われるたびに、モチベーションが下がります。
総合職に比べたら薄給ですし、男性社員と張り合う仕事内容でもありません。そういう現実を思うと、これまたモチベーションが下がってしまって……。
このまま働き続けたい。でも、その一方で「事務職は負け組なのかも……」と思うこともあります。
河合さん、どうしたら事務職でも“誇り”を持って働けますか? 教えてください。
(総合商社勤務 30歳)

カワイ:誇り…ね。世の中、どれだけの人たちが、“誇り”を持って働いているのかしらね。

ニケ :こんにちは、進行役のニケです。誇りですか…う~ん、私はあんまり考えたことないので、アルようなナイような……。でも、この女性にイヤミをいう総合職の人たちは、「私、総合商社の総合職です!」って、ものすごく誇らしげに名刺とか配ってそうだし。誇りがありますよね。いかにもバリキャリ~。

カワイ:そういうのは、“偽りの誇り”。社会的に評価されている会社や世間から「すごい!」と思われている仕事に就いている人は、確かに鼻高々だったり、プライベートでも仕事の名刺を配ったりする。でもね、それは「○○商社」とか「総合職」という属性の評価を、自分の評価と勘違いしてるだけ。そんなモンは誇りでもなんでもない。ただの“勘違い”です。

ニケ :うわぁ~。今日は厳しいっすね(冷汗)。

カワイ:私が大学を出た後、国際線のスッチーになったって話は、ニケさんにしたことありますよね?

ニケ :はい! ANAですよね。当時、CA(キャビンアテンダント)ってあこがれの職業だったですよね~。

カワイ:子供がなりたい職業でも、常にベスト3に入ってました。私も大学生のときにシンガポール・エアラインに乗って、スチュワーデスさんがメチャクチャきれいで、5カ国語くらいペラペラで。それでCAにあこがれて、当時、勢いのあったANAのCAになりました。

ところが、初フライトで「こんなはずじゃなかった」って、ものすごくガッカリして……。

何気ない一言に救われた

カワイ:誇りもへったくれもない。スッチーって、最低の仕事だと思いました。

ニケ :相談者の女性みたいに、総合職にいびられたんですか~?(苦笑)

カワイ:新人のCAの仕事は、ほとんどが肉体労働だったの。お客さんが乗り込むまでに、スリッパやヘッドフォンを300席もある客席すべてにセットする(現在ではスリッパは廃止)。機内のすべてのトイレ掃除をやり、トイレットペーパーや化粧水をきれいにセットし、新聞を折る、雑誌を飾る、レモンを花形にセットする…。

食事のサービスは、まるで“運動会”。「お肉にしますか? お魚にしますか?」って、ひたすら配る、配る、配る。サービス終了後には、お客様が一人トイレに入るたびに掃除し、映画上映中はピンセット片手に客席の灰皿の吸殻を一つひとつ取り出し(今は全席禁煙)、機内のゴミを拾って回る。気圧の関係で機内ではお酒に酔う人が多いので、トイレで嘔吐物の掃除をしなきゃ…で最悪でした。

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「なんでこんなこと私がやらなきゃいけないわけ?」という仕事ばかりで。なんで「スッチーなんかになっちゃったんだろう」って後悔の嵐。そのとき大学の同級生に言われたことを思い出したの。「スッチーなんて、しょせん肉体労働だろ? 体力があれば誰でもできるんだよ」って。

ニケ :わあぁ~、ず、ずいぶんですね! でも、それってねたみなんじゃないですか? あるいは、薫さんが「私、国際線のスッチーになりました!」って自慢げに振る舞っていたから、ギャフンと言わせてやろうと思ったとか。

カワイ:どちらかと言えば、後者でしょうね。ただ、確かに実際のスッチーは「肉体労働」だし、「体力があれば誰でもできる」。彼の言う通りなんです。

ニケ :え~っ、そうは思わないけどなぁ~。まっ、いずれにせよ、CAの仕事に誇りを持てなかったから辞めちゃったってことですか?

カワイ:おそらく、あの一言に出合わなければ、ストレスでボロボロになって、サッサと辞めていたでしょうね。

「キミたちのかわいい笑顔が、全日空を支えてくれているんだよ」

って、あるスタッフに言われたんです。

その何気ない一言のおかげで、私は退職を決意するまでの4年間、明るく、元気に働けました。人間って、ちょっとした一言に救われるっていうか、勇気付けられるものなのよね~。

トイレ掃除も、吸い殻チェックも一生懸命やるようになったし、食事のサービスでも、「お肉柔らかいのでおいしいですよ!」とか「少しお塩を振るといいですよ」とか、一言添えてサービスするようになって。

そしたらお客さんが降りていくときに「楽しかったよ」「ありがとう」って声をかけてくれたり、一緒に映った写真をアルバムにして送ってくれたり。

そういうお客さんのメッセージに元気をもらって、「またがんばろう!」「お客さんを笑顔にできるスチュワーデスさんになろう!」って、心から思うようになった。

たぶん“誇り”って、こういうコトをいうんじゃないのかな。誰かに認められたいとか、評価されるためにやるんじゃなくて、自分の仕事の先にいる“人”のことを思って仕事する。

たった一人でもいいから、笑顔になる人がいると信じて仕事する。そう信じて働き続けることが、誇りであり、大事なんだと思いますよ。

ニケ :誇り……。うん、なんか私、反省……。すみません……。ん? アハッ! 私、誰に謝ってるんだ?

…っていうか、やっぱりそれでも頭くる! 総合職の女ども! モチベーションが下がる気持ち、分かるなぁ~。

カワイ:“ちくわ耳”になればいいのよ(笑)。総合職の女性にとっては「しょせん事務職」。そう思ってるんだから、言わせておけばいいのよ。

カワイ:総合職の彼女たちからしたら、事務職は「ユル~い」し、「女の子扱い~」なんでしょ。それも一つの“事実”でいいじゃない。事実なんて10人いたら10の事実があるんだから。

相談者の女性は、彼女のことをきちんと評価した上司がいるからこそ、「責任ある仕事を任されている」んですよね。そこには「キミはちゃんとやってるね」という“価値あるメッセージ”がある。「キミの笑顔が支えてるんだよ」っていうメッセージと一緒。ちゃんと認めてくれている人がいるのよ。

その人のメッセージを信じなくてどうする? 彼女がやるべきことは、“事務職の仕事をきちんとやること”。詳しい仕事内容は分からないけど、伝票処理や書類の作成でも、その書類を待っている人がいるわけでしょ。その人が笑顔になるような仕事をすればいいの。

たった一人でも、「助かった! ありがとう!」って言ってくれる人がいたらいいじゃない。そういうメッセージをもらったときは、鼻高々に喜びなさい!

ニケ :でも…お給料が総合職より低いんですよ…。

カワイ:市場の価値と仕事の価値は別。例えば、お掃除の方だって、誇りを持って働いている人はいます。そういう人たちの賃金は、総合職のお姉さんたちと比較にならないくらい低いでしょうね。でも、お掃除の仕事に価値がないか? っていったら、そんなことはない。

マンションやオフィスをきれいにしてくれる“お掃除のオバさん・オジさん”がいるからこそ、快適に暮らせたり、会社で快適に仕事できたりするわけでしょ? 商社の総合職の仕事より掃除の仕事のほうがよほど日常に直結していて、私たちは価値を感じやすいわよね。

ニケ :そ、そうですね…。

カワイ:だったらお掃除の方に、「いつもきれいにしてくれて、ありがとうございます!」って声をかけなさい。

有意味感(sense of meaningfulness)という概念があって、これは「自分のやっていることは意味がある」という感覚をいいます。“誇り”も有意味感と同じです。くだらないイヤミをいう総合職のお姉さんのことをアレコレ悩むより、「いつもきれいにしてくれて、ありがとうございます!」って。アナタが“価値あるメッセージ”の送り手になればいいじゃない。

ニケ :わ、私は…誰から価値あるメッセージをいただけるのでしょうか…?

カワイ:ニケさんも、いつもありがとう。アナタのツッコミで、この人生相談の連載は成立しています。はい! 価値あるメッセージ、以上! ちゃんと送りましたよ! どう? 元気出た?

ニケ :なんか猫だましにあったみたいですけど…。でも私、褒められて伸びるタイプなんで、薫さん、ヨロシクお願いします!

河合薫(かわい・かおる)
1988年、千葉大学教育学部を卒業後、全日本空輸に入社。気象予報士としてテレビ朝日系「ニュースステーション」などに出演。2004年、東京大学大学院医学系研究科修士課程修了、2007年博士課程修了(Ph.D)。産業ストレスやポジティブ心理学など、健康生成論の視点から調査研究を進めている。長岡技術科学大学非常勤講師、東京大学講師、早稲田大学非常勤講師などを務める。

[nikkei WOMAN Online 2016年1月29日付記事を再構成]