ラグビー日本代表のメンタルコーチが指南 心の整え方
自信を持ちたいなら、行動を変えることが大切
「自信がない自分を変えたいなら、日々の行動を変えること。理想の自分をイメージして、何をすれば近づけるかを考え、実行していく。その繰り返しで、自信は生まれていきます」
そう話すのは、元ラグビー日本代表のメンタルコーチを務めた荒木香織さんだ。
自信がない──。それはまさに、4年前にエディー・ジョーンズ氏が監督に就任した当時の、日本代表の姿だった。
過去のW杯での勝利は1回だけ。「4年後に勝てる自信なんて、誰もなかった。代表に招集されても『どうせ勝てない』と、断る選手すらいたんです」
最初に取り組んだのは、そんな「寄せ集め」たちに誇りを持たせることだった。選手たちと方法を考え、注目したのが、国際試合の前に歌う『君が代』だ。
「強豪国の選手たちは、試合前に胸を張って大声で国歌を歌っている。一方、日本チームは外国出身の選手も多く、当時は下を向いてボソボソと歌っていた。これでは勝てません」
そこでリーダー格の選手が中心となり、『君が代』を学ぶミーティングを開いた。日本語とローマ字で歌詞を書き、意味を確認。大声で歌う練習もした。「2年目の国際試合で、自分たちだけでなく外国人コーチまでが肩を組んで歌っているのを見たとき、選手たちは『おおっ』と思ったそうです。誇りを実感できた瞬間でした」
同時に、物事の受け止め方を前向きに変えるため、言葉の使い方もトレーニングした。
相手が失敗したときは責めるのではなく、「次はこうしてほしい」と提案する。成功したときは「今のはよかった」などと、前向きな言葉を掛ける。「これを習慣づけた選手たちは、壁にぶつかったときも『できない』ではなく、『どうすればできるのか』と前向きに考え、行動できるようになりました」
さらに、荒木さんが重視したのは、選手たちの身の回りの整頓。脱いだ靴はそろえる、飲んだペットボトルは片づける、ロッカーは整頓する…。「ラグビーの試合では、混沌とした展開のなかでも規則を守り、失点につながるミスや反則をしないことが重要。けれど、普段の生活でできないことが、試合でできるわけがありません」
規律を守ってミスを減らし、よい結果につなげていく──。W杯の1年前には国際試合で連勝。W杯の南アフリカ戦での勝利は奇跡ともいわれたが、「勝てる自信はあった。4年間努力を積み上げてきたのだから」と、荒木さんは振り返る。
それでも不安に襲われる選手には「今できることに集中しよう」と助言。「不安を感じるときは、意識が将来に向いている。そうではなく、今に集中して、できることを実行するんです」。
例えば、五郎丸歩選手のキック前の動き「プレ・パフォーマンス・ルーティーン」も、「今に集中する」ためのもの。「試合相手、試合の流れ、芝の状態…何ひとつ自分では変えられない。けれど、あの動きだけは自分でコントロールできる。動作に集中することで、不安や心配を取り除き、成功率を高めることができるのです」
働く女性も自信を持ちたいなら、「今できること」に集中してみる。そして、自分の行動を少しだけ変えてみる。その先に、W杯での日本代表のような、自信に満ちあふれた自分が待っているかもしれない。
[日経ウーマン 2016年1月号の記事を再構成]
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
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