京都国際映画祭は芸術色濃く 日本の歴史を見直す
日経エンタテインメント!
吉本興業などが参加する映画やアートのイベント「京都国際映画祭2015」が2015年10月15日から4日間、京都の14会場で開催された。
映画祭のキャッチコピーは「京都は、変や乱が好きハート」で、「伝統と革新が共存する京都において、京都の皆様、京都を愛する皆様と一緒に楽しみ、参加し、新たな文化を創り上げることを目的として、アジアを含む全世界に向けて発信し、未来へとつながる映画祭を目指す」(吉本興業)と言う。
祇園甲部歌舞練場で開かれたオープニングセレモニーには約800名の出席者が参列。レッドカーペットにゲスト37組154人が登場した。期間中の上映作品数は65本で、来場者数は約27万人。2014年の第1回(10月16日から4日間)は約4万人だったが「会場数の増加と多様なイベントを準備したことで動員が伸びた」(同社)。
吉本は毎年春に沖縄県で「沖縄国際映画祭」も実施しているが、映画上映だけでなく、音楽ライブやガールズファッションショーなど何でもありの様相を呈しているのに対し、京都国際映画祭は、より映画やアートの色が濃い。
■古都から映画の技術を紹介
その背景には、京都国際映画祭が始まるに至った、次のような歴史がある。戦後、京都が映画集積地であった頃、松竹、大映、東映、と邦画の4分の3、年間150本余りが京都の撮影所で作られていた。当時の映画記者クラブの発案で、1954年に「京都市民映画祭」がスタートした。その後、撮影所の東京移転などが増えるにつれ、年度作品の表彰は日本アカデミー賞が引き継ぎ、同映画祭は77年に終了。その後、97年に始まった「京都映画祭」を継承しつつ、元松竹の奥山和由氏がゼネラルプロデューサーとなって「京都国際映画祭」として復活した。
同映画祭では、映画界の将来を担っていく新人の発掘も行うが、京都にある、ものづくりの伝統工芸、時代劇の衣裳、美術、刀剣、殺陣の様式、小道具、大道具、時代考証学など"日本遺産"としてのアーカイブを継承するのが中心的なコンセプトだ。そこで、「京都市民映画祭」から続いてきた、裏方を表彰する「牧野省三賞」を残し、役者の殿堂入りともいうべき三船敏郎賞を新設。今年の牧野省三賞は、黒澤明監督の作品でスクリプターを務めた野上照代氏が受賞。「三船敏郎賞」は、名優・仲代達矢が受賞した(写真)。
今ならまだ、黒澤明や小津安二郎の作品を撮影した当時の生き証人からの聞き取りもでき、こういう地道な作業がクールジャパンオリジナルの発掘になる。「映画祭を復活させる上で、"歴女(れきじょ)ブーム"など、歴史を愛する人たちが増えていることに大きく後押しされた」(中島貞夫監督・京都国際映画祭実行委員長)。
奥山氏は「昨年来、この映画祭を通じて、監督、女優を兼ねる杉野希妃や、香港の鬼才、スカッド監督らと出会えたことなど、人材の発掘という意味でも、大きな成果が出ていると思う」と語る。
開催中の10月17日には、TOHOシネマズ二条で特別上映作品としてシェイクスピア原作の『夏の夜の夢』(2014年)が上映され、上映後の舞台挨拶では、吉本興業が初めて海外の映画作品を配給するという発表をした。その第1弾となる配給作品は、同じくシェイクスピア原作の『マクベス』(写真)で、2016年の初夏公開予定だ。
(ライター 麻生香太郎)
[日経エンタテインメント! 2015年11月号の記事を再構成]
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