変わりたい組織と、成長したいビジネスパーソンをガイドする

会員登録をすると、編集者が厳選した記事やセミナー案内などをメルマガでお届けしますNIKKEIリスキリング会員登録最新情報をチェック

 地方に住みながら土地の魅力を発信する外国人の若者が目立つ。原動力は愛着や好奇心だ。急増する訪日外国人や移住希望者に訴えかけようと、自治体などが登用する動きが広がっている。外からの新鮮な目は、地元の住民に刺激を与えている。

自治体が採用、細やかに発信

奈良県の観光情報施設「猿沢イン」が7月、奈良市の猿沢池そばにできた。県観光PRアンバサダーのブライアン・バイアーさん(29)は毎朝オートバイで出勤する。奈良は社寺や仏像が有名な古都だが、バイアーさんは「もっと奈良の自然のすばらしさに目を向けてほしい」と力を込める。

「奈良の自然に目を向けてほしい」というブライアンさん(右)=11月下旬、奈良公園で

「奈良の自然に目を向けてほしい」というブライアンさん(右)=11月下旬、奈良公園で

自然に恵まれた米コロラド州の出身で、来日して約6年がたつ。新潟県に住み、多くの観光地を回って外国人向け旅行サイト「ジャパン・トラベル」に記事を書いてきた。バイアーさんのぜひとも関西に住みたいという思いと、これまでの手腕に奈良県がほれ込み、同県初の観光アンバサダーに7月に就任した。

就任後、ジャパン・トラベルだけでも80本以上の記事を載せた。滝に打たれ、修験道の修行に参加し、体験をつづる。奈良市周辺だけでなく、吉野や十津川、洞川温泉といった県南部を積極的に回る。「鹿が歩く奈良公園もいいが、南部には文化と自然が共存している場所や行事が多い。外国人にとって魅力があふれている」と話す。

「ガソリンスタンドのレンタルスクーターのサービスがお得で便利」などと細かい目のつけどころも持ち味だ。「冬本番に向けて奈良にスキー場があるということを、ぜひ知ってもらいたい」

住民から我が町を見に来て、足を運んでとかかる声が増えた。その一つ、橿原市の古い町並みが残る今井町ではジャズや書道を織り交ぜたイベントに参加した。今井町町並み保存会の若林稔会長(74)は「私たちが狙ったミスマッチの面白さを純粋に楽しんでいた。紹介記事は外国人の反響がとても多かったようで、我々にとっても自信になった」と話す。

◇           ◇

「佐渡に来たら遊漁船がおすすめですよ。今ならアオリイカ釣り。私はまだ3回しか釣りあげたことがありませんけどね」。11月に東京・池袋であった離島PRイベントで、李佳●(たまへんに隣のつくり、り・かりん)さん(32)は新潟県佐渡島の観光や暮らしを来場客に熱心に説明していた。

佐渡の暮らしをPRする李さん(11月、東京・池袋で開いたアイランダー2015で)

佐渡の暮らしをPRする李さん(11月、東京・池袋で開いたアイランダー2015で)

中国・長春市の出身だ。都市部の若者らが地域活性化に取り組む地域おこし協力隊員として2年前から佐渡に住む。中国の名門、清華大学で環境工学を学び、その後、東京大学に留学した。シンポジウムで4年前に佐渡を訪れると、トキが生きる豊かな自然や島の人たちの温かさに触れ、何度も通った後に島で暮らすことを決めた。

全国では現在約1500人の地域おこし協力隊員が活動中だ。大半は日本人だが、最近は長崎県新上五島町や香川県小豆島町などに外国人が着任した。佐渡市は「外国人だからではなく、地域が求めている人材だった。世界遺産を目指す島にプラスになると期待している」(地域振興課)。

李さんは島の伝統芸能、鬼太鼓の女性向けの体験企画を始めた。地元住民の家で一緒に料理を作り、祭りの準備を集落の一員として手伝う。派手な鬼太鼓の踊りだけではなく、裏で支える女性たちの仕事の魅力に目を向けた。

李さんは「自分が島に来た時、鬼太鼓で歓迎してもらったうれしさが企画のきっかけ」と話す。リピーターの参加が目立つ。来年5月には4回目を予定する。若者の交流を増やし移住などにつなげたい考えだ。

◇           ◇

仏リール市出身のジュリア・イニサンさん(27)は自治体国際化協会(東京・千代田)で働く。自治体が海外の若者を外国語の指導助手などとして招くJETプログラムを手掛ける団体だ。7月まで2年間、高松市で国際交流員として日仏交流に奔走した。今は交流員向けに研修内容を考え、支援体制づくりを担当する。

高松市の観光大使であるイニサンさんは東京に移ってからも、たびたび高松市に足を運ぶ。男木島を舞台にした映画の仏語訳や、来年パリで開かれる四国ウイークの企画づくりに協力する。「高松は茶や盆栽など伝統文化が多彩。レベルの高い職人と身近に交流できるのが魅力です。将来はまた香川に戻って働きたい」と力を込める。

外国人客向け観光のコンサルタント、やまとごころ(東京・新宿)の村山慶輔社長は「最初はアニメやドラマといったクールジャパンをきっかけに日本に留学や観光で来る若者が多い。地方の居心地のよさや文化の多様さを発見して住み続ける人が増えている」と話す。

同社の求人サイトに登録する外国人は10月末で約720人と半年で2.6倍になった。自治体国際化協会のJETプログラムの15年の参加者数は4786人で4年間で約1割増だ。地元密着の外国の若者が地方に元気をふき込む場面は増えそうだ。

村山さんは「外国人は地域にいろいろな気づきを与えてくれるが、住民自身が継続して地元の魅力をまもり、新たな働きかけをする姿勢が欠かせない」と話す。

(高田哲生)

新着記事

Follow Us
日経転職版日経ビジネススクールOFFICE PASSexcedo日経TEST

会員登録をすると、編集者が厳選した記事やセミナー案内などをメルマガでお届けしますNIKKEIリスキリング会員登録最新情報をチェック