残業や転勤で社員が成長? 家庭を犠牲、転職の種に
池田心豪
男女 ギャップを斬る
中央大学大学院の佐藤博樹教授が主宰するワーク・ライフ・バランス&多様性推進・研究プロジェクトの成果報告会が11月20日にあった。今年のテーマは「女性が活躍できる職場を目指して」。分科会で議論された「転勤」「労働時間」「仕事と介護の両立」「ポジティブ・アクション」「管理職の役割」それぞれの観点から、全体会議で女性活躍に向けた課題が議論された。有益な指摘が様々あったが、女性だけの問題でなく男性を含む働き方の問題として議論されていたことが印象に残った。
転居を伴う転勤や長時間労働は、育児や介護を担う女性だけでなく、男性にとっても問題になり始めている。介護問題が男性に広がりつつあることは前に指摘した。子育てとの関係においては男性の育児休業にばかり目が向きがちだが、その後の働き方の問題も切実である。
最近話を聞いた男性がかつて勤めていた会社は育休に積極的であり、その男性も育休は取った。だが直後に転居転勤を命じられた。妻が復職したら単身赴任になる。これを機に彼は転職活動を始め、現在は転勤のない会社で働きながら妻と日々の家事・育児を分担している。同じく子育て期の別の男性は恒常的な長時間労働から逃れるために異動願いを出し、それがかなわなかったときに備えて転職活動をしていた。このような話を何人もの男性から聞いた。
これまでも単身赴任や長時間労働に対する問題意識が男性になかったわけではない。しかし、これを打ち消す強力な考え方が日本の企業にはある。日本的雇用慣行のもとで経済情勢の変化に対応しながら雇用を守るために人事異動や残業は不可欠という考え方である。さらに残業や転勤をいとわずに働き、仕事の経験を積むことによって社員が成長すると考えている企業もある。
だが、それも程度問題であろう。男性が心の中で不満に思うだけでなく、転職という行動に表れ、これが広がっていくなら、企業にとって看過できない問題になる。
女性だから、男性だからということではなく、残業や転居転勤のそもそもの必要性を問い直す姿勢で働き方を見直す時期に来ているといえるかもしれない。
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