技術革新、進化するスキー板 山頂・初心者でもOK
「バックカントリーに興味があるんです。格好いいじゃないですか」。東京都千代田区のスポーツ用品店「ici club神田」で、男性会社員(48)がスキー板に目をやりながら真剣な表情で話した。
バックカントリーとは、山頂付近まで登って人の手が入っていない雪山を滑るスキー。高地からの雪景色や変化に富んだ地形を楽しむことができ、欧米を中心に流行している。
ゴールドウインが展開するブランド、フィッシャーの「RNG」シリーズは、同社初のバックカントリーに特化したスキー板だ。新雪はスキー場の雪よりも柔らかく、通常のスキー板では雪に沈んで進めない。
そこで通常のスキー板よりも40%ほど幅を太くし、雪面との摩擦抵抗を大きくした。スキー板を履いたままでも斜面を簡単に登ることができ、滑走時は浮力を維持したまま軽々と進む。
一方、初心者には難しいのがターンだ。堅くて曲がりにくい板が転倒しにくいとされる。競技用の板は芯材の上下をチタナールというアルミ合金で挟むなどして強度を高めているが、重くなって足への負担が大きいといった問題がある。
軽さと堅さの両立に挑んだのが、ヘッド・ジャパン「INSTINCT」だ。原子1つ分の厚さしかないのに、硬度は鋼の約200倍という素材「グラフェン(シート状炭素分子)」を使っている。2004年に発見されたばかりの炭素原子の結合を使った新素材。同社はスキー板の表面下にグラフェンを敷いて強度を確保し、芯材を削って軽量化を実現した。
「曲がる板はよくない」という業界の定説そのものを覆そうとしているのが、アメアスポーツジャパンのアトミック「D2」シリーズだ。板を2枚重ねる「アッパーデック」システムを採用。柔らかい素材を使った板に、カーボン素材の堅い板を重ねて安定性を持たせた。この板が背骨のような役割を果たし、高速のターン時でも安定性と強度を確保する。
スキー板の表面のグラスファイバーをストレートからクロス状に変更することで、さらに強度を高めた。トップ部分からテール部分にいくほど厚みが増すテーパードサイドウォール構造でより加速がしやすくなった。
金具の部分にスキー板がたわんだ際に自動的にブーツのヒール部分を押し上げるランプテック機能を搭載した。中~上級者向けの板で、「急な斜面でも理想の姿勢をキープでき、正確なターンをすることができる」との声が寄せられているという。
スキーが爆発的に流行したのは1990年代にかけて。ici club神田副店長の釣巻健太郎さんによると、当時スキーを楽しんでいた若者が現在は親となり、子供を連れてスキー場に戻ってきているという。
「最近のスキー板は軽くて乗りやすいのは当たり前で、どれもプラスαの魅力がある。久しぶりの方は驚くかもしれない」とも釣巻さんは話す。驚異的な進化を遂げたスキー板から、自分の好みにぴったりの「ゲレンデの恋人」を選んでみてはどうだろうか。
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日本生産性本部(東京・渋谷)の「レジャー白書」によると、スキー人口は1993年の1860万人をピークに減少が続き、2014年には480万人まで落ち込んだ。もっとも、前年比では横ばいとなり、関係者の間では今後回復に転じるとの期待が広がっている。
スキーが盛んな欧州でも標高数千メートルの高山でしか雪が降らない地方が多いが、日本では低地でも降雪があるため、気軽にスキーを楽しめるとされる。このため、最近はスキー目的の訪日観光客も増えている。
(企業報道部 宇都宮想)
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