シニア、地域の子育て担う

地域の子育て支援で活躍するシニアが増えてきた。子育てが一段落した女性が協力するイメージがあるが、最近では男性の姿が目立つ。世代間の交流はシニア本人の生きがいになる。研修の機会があることも、一歩踏み出す後押しになっている。

研修で男性も一歩

11月下旬の土曜日、東京都港区の子育てひろば「あい・ぽーと」で、シニア男性による遊びの時間が始まった。絵本の読み聞かせに合わせてダイナミックに体を動かしたり、歌をうたったり。30分はあっという間だ。「子どもはこの時間が大好き。ほぼ毎回通っている」。1歳の子どもを連れた母親(40)は話す。

ダイナミックな読み聞かせに子どもたちの歓声が上がる(東京・港の子育て広場「あい・ぽーと」)

遊びの時間を担うのはNPO法人あい・ぽーとステーションが2013年に養成を始めた「子育て・まちづくり支援プロデューサー」たちだ。

「定年前後の男性」を対象に計10日間の講義と実習があり、16年1月からは第4期の養成が始まる。メンバーは読み聞かせや一時預かり、イベントの企画運営などの有償活動に参加する。3期生の野本幸雄さん(67)は「子どもに物づくりの楽しさを伝えたい」と工作などでも活躍する。芹田利夫さん(68)は「子どもの目線に立ち、一緒に楽しむようにしている」と話す。

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なぜ男性限定なのか。「フリーマーケットの際に商品を見事に展示したり、経理の力を生かしたり。職業人として培ってきた知識や経験は地域にとって大きな財産。なにより、じっくりと子どもと向き合う人間力がある」と代表理事の大日向雅美恵泉女学園大学教授は話す。

子育てを支援したい住民と、支援を受けたい住民とをつなぐ自治体の「ファミリー・サポート・センター」でも男性の姿がある。

新宿区の元公務員、沢川菊雄さん(66)は6月から支援する側の「提供会員」になった。まだ件数は少ないが、幼稚園からの迎えなどの活動をしている。

現役時代は仕事中心だったという沢川さんが、なぜ提供会員になったのか。妻がすでに会員で、自宅で子どもを預かっていたことが大きいが、それだけではない。

「職場で子育て中の女性から『近所の人に助けてもらった』という話を聞いてきた。『女性の活躍』には支援がさらに大事になる。自分は送迎で支援しようと思った」

実際、一口に子育て支援といっても、求められる内容はさまざまだ。女性労働協会(東京・港)の全国調査によると、ファミサポでは以前は保育施設の開所前後の預かりが最多だったが、14年は保育施設への送迎が最多になった。親子が集うひろばの活動や、小学生への支援などもある。

人口の多くを占めるシニア世代が何か自分にできることはないかと考え積極的に参加すれば、地域の大きな力になる。

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もちろん育児経験のある女性にとっても久しぶりだし、男性にとってはほとんど初めてということが多い。支援について学ぶ場は重要だ。ファミサポの場合、研修の内容は地域によって異なるが、新宿区では全4日間の講義がある。

今年からは子育て支援の担い手を増やそうと、国の「子育て支援員」の制度が始まった。仕事として子育て支援に携わりたい人を想定しており、基本研修と分野ごとの専門研修がある。新たに始める入り口の一つになる。

子育て支援員の研修も始まった(千葉県松戸市)

千葉県松戸市は学童保育やひろばなどの人材を育てようと、10年から独自に研修をしてきた。10月からの支援員研修には、若い世代に交じって、シニア世代の姿がある。元会社員の男性(70)は「孫と接しているうちに、地域の子育てのことを知りたいと思った。自分の社会参加にもなる」。修了後は、学童保育に携わりたいという。

66歳の女性は「保育士の資格はあるが、ずっと専業主婦だった。書道が得意なので、それも生かしたい」と話す。

「子育てする人にとって地域の支えは重要か」。内閣府の13年の調査で「とてもそう思う」と答えた人は57%いた。細かく見ると、男女ともに60代、70代が他の世代より高かった。その思いを実際の活動につなげていけるよう、自治体やNPOなどには後押しの工夫が求められる。

近所のあいさつから

地域の支援が必要な背景には、子育て環境の変化がある。祖父母らの助けが受けにくい核家族が増え、近所づきあいが急速に薄れているのだ。

三菱UFJリサーチ&コンサルティング(東京・港)は2014年、未就学の子どもがいる親を対象に、地域の中で子どもを通じた付き合いがどれくらいあるか調査した。02年と比べたところ、「園の送り迎え等であいさつする人がいる」という母親が88%から57%に、「悩みを相談できる人がいる」が74%から44%に減るなど、子育て世帯が孤立しがちなことが浮き彫りになった。

矢島洋子主席研究員は「共働きの子育てには保育所だけでは足りないし、専業主婦の育児への負担感は重い。ファミリー・サポート・センターや親子が集うひろば事業など、親族に代わり、柔軟で親身になる支援が必要だ。高齢者も大事な担い手となる」と指摘する。

実際にどんな支援ができるかは、シニア本人の適性もあるだろう。ただハードルを高く考える必要はない。

「『赤ちゃんの泣き声で迷惑をかけているのでは』と不安になっている母親は多い。近所の赤ちゃんの名前を覚えて『○○ちゃんおはよう』と挨拶する、『頑張っていますね』と親をねぎらう。そんな声かけだって十分な子育て支援だ」。NPO法人孫育て・ニッポン(東京・中央)の棒田明子さんはこう指摘する。

「子育て世代とつながりができれば、シニアにとっても住みやすい地域になるはず。気負わず、まずはできることから始めてほしい」と話していた。

(編集委員 辻本浩子)

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