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湯の街あわら 源泉かけ流しで「湯ったり」 北陸温泉紀行(下)~福井~

2015/11/30

北陸新幹線の金沢開業から約8カ月。新幹線がまだ来ていない福井県内で恐竜博物館や東尋坊とともに、にぎわいをみせる観光地の一つが県の北端、あわら市に位置する芦原(あわら)温泉だ。「関西の奥座敷」と呼ばれるようにこれまで関西の観光客が多かったが、新幹線の開業後は関東からも目立つようになった。

■まずは足湯で温まる

11月の休日、福井市内から、あわら温泉に向かった。福井駅からえちぜん鉄道の三国港駅行きに乗る。同鉄道は京福電気鉄道の福井県内の路線を引き継いだ第三セクターだ。40分ほど走ると、農地の中から温泉街の建物が姿を現す。かつてはアシが生い茂る沼地だったが、1883(明治16)年、灌漑(かんがい)用水を求めて井戸を掘った際に温泉が湧き出したという。周辺の農業地帯を見ると同温泉の始まりがうかがえる気がした。温泉街の最寄り駅、あわら湯のまち駅で電車を降りた。

まず目に入ったのが、足湯を楽しむことができる「芦湯」だ。あわら市が2014年4月に整備したばかり。パンフレットには、温泉街が大きな被害を受けた1956(昭和31)年の芦原大火より前の伝統的な建築様式にしたことが書いてある。建物もこだわっているようだ。午後5時ごろだったが、結構にぎわっている。浴槽は全部で5つあり、このうち1つに、足を入れてみた。徐々に体が温まってきて心地よい。隣に座った地元の主婦は「毎日、散歩の途中で寄るのが日課」と笑った。年中無休で無料。日帰り客の立ち寄り場所にもなっている。

温泉街の目の前にあるのが、えちぜん鉄道・あわら湯のまち駅
あわら湯のまち駅前に立地し、年中無休で料金は無料

宿泊先である「つるや」に到着した。温泉街を代表する旅館だ。入り口は風格のある構えで、昔ながらの温泉宿の雰囲気を感じさせる。本館は昭和に活躍した数寄屋建築の名棟梁(とうりょう)で知られた平田雅哉が設計・施工を手掛けた。大阪・高麗橋の「吉兆」、兵庫県城崎温泉の旅館「西村屋」といった昭和を代表する名建築を残した人物だ。

つるやの建物は数寄屋造りの名棟梁、平田雅哉が手掛けた

つるやの場合、建築中にあった芦原大火を乗り越えて完成した。貴重な建物だけに、大切に手入れをしているという。女将の平山佳子さんは「2つと同じ部屋はなく、戸の配置や障子の桟の形などもこだわったようです」と話してくれた。玄関から畳廊下が奥のほうに伸び、廊下に沿って客室がある。部屋の大きな窓から庭を望むと、すぐにリラックスすることができた。

風呂に入った。露天風呂を備えた大浴場だ。敷地内の3本の源泉を使ったかけ流しの湯という。源泉は80度とかなりの高温だ。熱交換させて温度調整をした後、加水や加温、循環させずに「かけ流し」で利用している。体が芯からあたたまる感じがした。

午後6時半ごろから夕食となった。食前酒として青梅の梅酒から始まり、カニとミツバとシイタケの旨酢あえなどの前菜、タイやホタテ貝柱などの向付、焼き物、煮物などと続いていく。あわら産コシヒカリの新米など福井県の食材が結構多い。後で知ったが、食器には越前焼の陶器、福井県鯖江に伝わる河和田塗りの器なども使っていた。伝統工芸が好きな人には目でも楽しめるようだ。

落ち着いた雰囲気の客室。和風の情緒を感じる
敷地内の源泉を使ったかけ流しの湯が特徴

清潔な部屋、料理のおいしさ、かけ流しの湯という温泉旅館の基本を忠実に守っている。派手さはないが、家族旅行でゆっくりすごすのにはぴったりするようだ。かつては企業の宴会などの利用が多かったが、今や個人旅行がほとんどという。

■源泉は74本、宿ごとに泉質・効能異なる

あわら温泉には74本の源泉があり、約30の宿泊施設ごとに泉質や温度、効能が異なる。それぞれ趣向を凝らしたサービスも売りだ。例えば、べにや。県の伝統工芸、越前焼の窯元の協力を得て、カニ焼き用の卓上七輪を開発し、客室内で使い始めた。炭を燃焼させる容器の外側にもう1つを重ねる二重構造で、客が目で焼き具合を楽しめるようになっている。べにやの奥村隆司社長は「数寄屋空間に合うデザインで、お客様に福井を代表する味覚である越前がにを楽しんでもらえれば」と話している。

旅館べにやが開発したカニ焼き専用の七輪

温泉街の歴史に詳しい、みのや泰平閣の美濃屋征一郎社長に会った。関西の奥座敷として明治時代からにぎわい、庭と料理、芸妓(げいぎ)を交えたうたげが特徴だったという。その後、1948(昭和23)年の福井地震、56年の芦原大火の被害を乗り越えた。「まさにフェニックス。当時の温泉旅館の経営者らの努力の上に今がある」と話す。近い将来、北陸新幹線が福井県内に延伸し、中部縦貫自動車道の全線開通が予定される。大都市圏との交通アクセスがさらに改善するが「風光明媚(めいび)な観光地はたくんさんあるだけに、サービスをさらに工夫する必要がある」とみている。

■「KANAZAWARA」でアピール

あわらの最近のキーワードは「KANAZAWARA(かなざわら)」。圧倒的な知名度を持つ金沢の名を借り、あわらの知名度を高めるための造語だ。昨年春に観光協会がつくったPR動画でお披露目となった。

ギターを弾きながら歌い出すのは福井県出身のシンガーソングライター、せりかな。あわらの知名度がないため、東京で出身地を問われると、金沢と答えるという自虐的な歌詞だ。その後で「KANAZAWARA」と連呼する。最後に「あわら市は金沢のすぐ近く。電車で40分、車で50分」というナレーションが流れる。

「KANAZAWARA」号は金沢からあわら温泉へのアクセスとなる

造語を考えたあわら市観光協会の前事務局長、島田俊哉さん。「ちょっと、金沢まで。北陸新幹線開業」という金沢の観光ポスターをみて「もうちょっとで、あわらだ」と直感し、2市のローマ字をつなぎ合わせたという。あわら市は今年9月から、金沢駅と温泉街を結ぶ1日1往復の無料バスの運行を始めた。名称は「KANAZAWARA」号だ。

あわら市によると、今年1~9月の温泉街の宿泊客数は約66万人で、前年同期比14.6%伸びた。このうち関東からの宿泊客は60%増の約8万人になった。造語の効果は定かでないが、新幹線でアクセスしやすくなったのが大きいようだ。

福井県から石川県にかけて、温泉地が点在する。おおむね20km圏内にはあわら温泉のほか、石川県の粟津、山代、山中、片山津の計5つの温泉がある。「五里五湯」ともいわれ、それぞれの温泉地で魅力がある。冬の北陸を訪ね、温泉のはしごを楽しむ旅もよさそうだ。

(福井支局長 石黒和宏)

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