PTAの任意加入 広めなければいずれ問題が起きる

PTAを無くす議論より、今あるネットワークをより良い形でどう維持するか

―― 私は正反対のことを考えていました。私はPTAが子どもの教育に寄与している現場を見たことがない。むしろ、長年住んでいる住民が主導する地域行事への強制参加などで、子どもの教育に割く時間が削られているのではないかと考えるほどです。

「ソーシャルキャピタル(社会関係資本)とPTAを含む市民活動には一定の正の相関がある」という研究結果もありますが、どうも実感からは離れているという気もします。

森川 いくつかの研究結果が示すように、ソーシャルキャピタルによって少なくともプラスの影響があるとするならば、「PTAを無くす」という方法ではなく、「各学校の保護者ネットワークを、より良い形でどう維持するかを考えること」のほうが大切だと思います。

―― 私も「保護者ネットワークを、より良い形でどう維持するか」に関心があります。でも、現状では、保護者ネットワークをPTAが分断し、学校や行政と結託しているというのが実感なので。そこの認識の違いは何でしょうね。

森川 PTAがあるからこその問題と、PTAがなくなっても消えない問題があると思います。保護者ネットワークの仲間はずれの問題は、PTAがなくても起こりうる。その一方で、ソーシャルキャピタルの議論でいえば、活動に熱心になればなるほど、ダークサイドが生まれるともいわれています。いわばPTAの活動が生み出すダークサイドです。

凝集性の高くなった大きな組織はどうしてもそこからこぼれ落ちるダークサイドが生まれます。ダークサイドを生みにくくするには、活動が熱心になることによって凝集性が高まるのは仕方ないにしても、反対に凝集性が低くなる方向のものごとを進める試みも必要です。

―― それは可能なのでしょうか。

森川 例えば、会社でいえば、ビジョンや大きな目標を掲げて組織がまとまればまとまるほど収益性は上がる傾向があります。ただ凝集性が高まると、「グループシンク」のような病理現象が生じやすいなどのデメリットがあります。そこで、意図的に会社の中に目標や文化が違う組織を複数走らせておいて、計画的に交流させるというマネジメント方法があります。

これをPTAに応用すると、仕事で忙しいなどでPTA活動に参加できない保護者のために、休日活動できるネットワークをつくり、PTAと同時に活動を走らせながら、行事などの機会でネットワーク同士を交流させるというやり方もありますよね。

PTAの周辺には、凝集性の高すぎるネットワークがかなりの数あると思います。PTAの範囲にとどまる必要もなく、質の違う熱心なネットワークと交流していけばいい。ただつながっている、ただ関わっている、といった弱いネットワークをPTAのそばにつくっておくことも効果的でしょう。

やはりPTAという「箱」がなければ成り立たないという現実もある

―― 森川さんが退任する2年後以降にも、そうした考え方を根付かせていくにはどうしたらいいと思いますか?

森川 「任意加入である」「活動を強制してはいけない」といったことは、横浜市P連の中では今当たり前に話されていますので、後退することはないと思います。

この取材を受けている理由でもあるのですが、「PTAの任意性」の話は自分の中ではもう終わらせたいんです。PTAは任意加入であり、活動は強制できないということは明白な事実です。その事実をふまえたうえで本来の保護者のネットワークが、公教育や社会に対してできることを議論していきましょう。

―― なるほど分かります。PTAが任意加入だなんて当たり前なので、その話はもうおしまいにしたいです。私も。そのうえで、「保護者のネットワークが、公教育や社会にできること」というのは魅力的なテーマです。といいますか、素直にそれらを考えられる場になってほしい。

森川 そのために、結論としてPTAを変えたほうがいいのなら、それで構わないんです。

PTAは「箱」に過ぎません。「箱」がなくても、いざというとき、保護者が「自分たちが全保護者の元を回って意見をまとめる」というくらいに意識と折衝能力が高ければ、PTAという「箱」は要らないのかもしれません。これは企業活動にしてもそうでしょう。世の中の一人ひとりが会社に頼らないで稼ぐ力があれば、会社という「箱」は要らないかもしれません。

しかしやっぱり「箱」がなければ成り立たないという現実もあります。「箱」を壊すのは、意図を持ってやろうと思えば簡単だと思います。でもあえて壊さないで「箱」として残し、中身を変えていくことは大切だと思うのです。

―― 何年か後にこの記事を見て「こんなことが議論されていたんだね」と懐かしく思えるくらいに進化させていただければと思います。ありがとうございました。

川端裕人
1964年兵庫県生まれ。東京大学教養学部(科学史専攻)卒業後、日本テレビに入社。科学技術庁、気象庁などの担当記者として、宇宙開発、海洋科学、自然災害などの報道に関わる。97年退社。98年『夏のロケット』(文藝春秋)で小説家デビュー。小説やノンフィクションなど幅広く活躍する。2008年に『PTA再活用論―悩ましき現実を超えて―』(中央公論新社)を出版。発起人として立ち上げたサイトに「素晴らしいPTAと修羅場らしいPTA」がある。2015年7月21日(火)にはTBSラジオ「荻上チキのSession22」に登場。「ここがヘンだよ、PTA!」と題してトークを展開。(写真:鈴木愛子)

(ライター 阿部祐子)

[日経DUAL 2015年10月2日付記事を再構成]

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