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 認可保育園への2016年春入園を勝ち取るため、子どもを持つ保護者らの「保活」(保育園を探す活動)が始まった。今年は待機児童が5年ぶりに増加しただけに、親の焦りも強い。待機児童問題に振り回される保護者や企業、自治体の今を2回にわたって紹介する。まずは企業が従業員の保活をサポートする動きを追った。
三菱地所が企画した保活セミナー。新米のママとパパが熱心にメモを取る(東京都千代田区)

三菱地所が企画した保活セミナー。新米のママとパパが熱心にメモを取る(東京都千代田区)

「ここではダメだ。引っ越そう」。会社員のAさん(28)は保活戦略を見直した。3月に出産、来年4月に育児休業から職場に復帰予定だ。自宅は待機児童が全国最多の1182人(15年4月1日時点)に上る東京都世田谷区。出産直後から認可保育園に限らず近所の保育施設をくまなく回ったが、いずれも待機児童が50人を超えていた。想像以上の厳しさだった。

世田谷区も定員拡充に努めている。だが成り行きに身を任せているだけではリスクが高すぎる。9月に世田谷区に見切りを付け、千葉県流山市に引っ越した。子育て支援に力を入れているとの噂を聞きつけたからだ。「夫婦とも地方出身で親に頼れない。保育園に入れなければ仕事に復帰できない」と不安そうに語る。

厚生労働省が9月に発表した「保育所等関連状況取りまとめ」によると、今年4月1日時点の待機児童は全国で2万3167人に上った。5年ぶりの増加だ。今春「子ども・子育て支援新制度」が始まり受け入れ定員は大幅に増えたが、就労希望の保護者がそれをさらに上回った。今月から多くの自治体で来春入園の申請受付が始まった。何としても入園を果たそうと、保護者は活発に動いている。

「保活は情報戦。保育園を見学するだけでなく、自治体窓口で有用な情報を得ましょう」。10月中旬、東京駅を見下ろすオフィスビルで保活セミナーが開かれた。参加した8人の男女は講師の助言を書き留める。8月に子どもが生まれたばかりの男性(34)は妻に「行ってきて」と頼まれて参加した。セミナーで自宅近辺の保育リポートを受け取った。「かなり厳しい。妻は来年4月に復帰すると言うが大丈夫だろうか」と戸惑う。

セミナーは東京のビジネス街・丸の内や大手町に複数のオフィスビルを所有する三菱地所が企画した。参加者はテナント企業の社員だ。「『社員が無事復職できるか心配』といった悩みをよく聞くようになった。保活支援は入居企業への重要なサービス」(開発推進部新機能開発室)

預け先が見つからず予定通りに職場復帰できなければ、会社の人員計画も狂う。保活は個人的な問題では済まされない。エスビー食品は14年に対策を強化した。外部の専門家がマンツーマンで相談にのる「保活コンシェルジュ」を14年6月に導入し、今年4月には東京都板橋区に事業所内託児所「バジリッコ保育園」を開設した。

出産しても働き続ける女性社員が増え、毎年十数人が育休を取る。その大半は子どもの預け先が見つからず、予定通りに職場復帰できない状況がここ数年続いていた。「ブランクが長くなるほどキャリア形成にマイナス。保育園が決まるか否かで貴重な人材を失いたくない」(ダイバーシティ推進室)

エスビー食品の「バジリッコ保育園」。仕事の合間に娘を見に来た池田美穂さん(左から2人目、東京都板橋区)

エスビー食品の「バジリッコ保育園」。仕事の合間に娘を見に来た池田美穂さん(左から2人目、東京都板橋区)

通勤ラッシュの時間に子連れで電車に乗らなくてはいけないなど事業所内託児所にもデメリットはある。だが社員にとっては認可保育園がダメでも預け先を確保できる安心感は大きい。池田美穂さん(34)は今年6月から長女(1)を預けている。「娘は病弱で、任せられる場所が見つからず一時は退職も考えた。片道1時間の通勤は大変だけれど、その分、子どもと過ごせる時間が増えたと思えば苦にならない」と話す。

冒頭で紹介したAさん。引っ越しも落ち着き、流山市で保活を再開した。だが残念ながら同市も待機児童は49人(今年4月1日時点)。希望する園は厳しい状況だと知った。育休明けは短時間勤務をする計画だったが選考に不利だと聞き、フルタイム勤務での復帰に切り替えようかと思案している。「入園のために子どもとの時間を犠牲にしなければならないなんて。何か変」。預け先が決まるまで、保護者の疑心暗鬼な保活は続く。

◇             ◇

「認可園に固執しないで」、マザーネット・上田さんに聞く保活戦略

「化粧はせずに悲壮感を醸し出す」。認可保育園に子どもを入れるための「秘策」が保護者の間でまことしやかに語られる。大手企業を対象に「保活コンシェルジュサービス」を提供するマザーネット(大阪市)の上田理恵子社長は「行政の窓口に足しげく通い、情報収集を綿密に。担当者に顔を覚えてもらい味方につけたい」と助言する。

多くの自治体は入園の優先順位を決めるために保護者の状況などを点数化している。短時間勤務者よりフルタイム勤務者、三世代同居より核家族に高い点数を付ける。採点基準は自治体ごとにまちまち。自己採点は意外と間違いも多い。「自分の点数がどのくらいか。担当者に直接聞いてみるといい。親切な担当なら、点数を上げるポイントも助言してくれる」

今春から子育て新制度がスタート。マンションの一室などで低年齢児を預かる小規模保育など、保育の受け皿は多様化した。上田さんは「認可保育園に固執せず、どんな保育サービスがありどう違うのかを調べ、見学して確認すること。保活に勝つには視野を広げるのも大事」と強調する。

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