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独、「女性監査役3割」の挑戦 来年1月から義務付け

2015/11/7

 大企業に監査役の30%以上を女性にすることを義務付ける制度がドイツで2016年1月始まる。通称「フラウエンクオータ(女性クオータ制)」。ドイツ経済を支えてきた男社会にどんな風穴を開けるのか。挑戦を追った。

人材紹介会社では女性登用の相談が相次いでいる(デュッセルドルフのロバート・ウォルターズ・ジャーマニー)

 「女性幹部を増やすにはどうすればいいのか」「適任者を探してほしい」。英国系人材紹介大手のロバート・ウォルターズ・ジャーマニー(デュッセルドルフ)にこんな相談や求人依頼が相次いでいる。依頼主の大半はドイツの大企業だ。国内に適任者がいないときは「隣のスイスで探すこともある」とニック・ダネット社長は語る。

 ドイツ連邦議会(下院)が3月、大手企業に監査役の30%を女性にすることなどを義務付ける法案を可決した。監査役会は日本と違い、取締役の選任・解任などの権限を持つ。法成立以来、企業はこぞって女性の幹部登用に動き出した。

 対象はまず従業員2千人超の大手上場約100社だ。16年1月以降に選ぶ監査役から適用する。すでに達成したのはドイツ銀行や通信大手のドイツテレコムなどにすぎない。ドイツ経済研究所によると14年の上位200社の監査役会の女性比率は2割弱だ。

 経済界には「女性比率を強制的に定めても(男性中心の現状を打破する)根本的な解決にならない」(ドイツ使用者連盟)との声が根強くある。それでもメルケル政権が踏み切るのは、幾度となく策を講じても女性登用がほとんど進まなかったからだという。

 日本は来年4月、従業員300人超の企業に女性の採用や管理職比率などの現状と目標を盛り込んだ自主計画の開示を義務付ける。女性枠の設定を荒療治の手段と捉えるか、副作用を気にするのか。日独双方の企業社会に判断が迫られる。

■ダイムラー、独自に罰則規定 自然体では「目標達成2068年」

柔軟な働き方ができるダイムラー(シュツットガルト)

 独ダイムラーは国に先駆けて2000年から女性の幹部登用に取り組む。20年までに管理職以上の女性比率を現状の14%から20%に引き上げる目標「202020」を掲げる。他社と大きく違うのは、計画通り女性を登用できなかった責任者のボーナスを減額するなど独自の罰則規定を設けた点だ。

 06年に罰則付きの必達目標に改めた。最初の5年間は状況が変わらず、「自然体でいつ目標を達成できるか計算すると、68年までかかると分かった」(チーフ・ダイバーシティー・オフィサーのウルズラ・シュワルツェンバルト氏)からだ。

 管理職がフレックスタイム勤務などを実践し、部下が柔軟に働けるよう業務を工夫した。今は女性の3割強が短時間勤務をし、子育てがあっても幹部候補を目指せる環境が整ったという。監査役の女性比率は25%と来年始まるクオータ制の30%は射程内に入った。

 気になるのは取締役会だ。同社初の女性取締役として11年に就任して以来、法令順守の体制を築いてきたクリスティーネ・ホーマンデンハルト氏が、不祥事で揺れる独フォルクスワーゲンの法務担当取締役に来年1月就く。ダイムラーでの任期は17年2月末まで残っていた。取締役の女性比率は8人中1人の12.5%と、すでに社内目標を達成していただけに、後任人事が注目だ。

■空港運営フラポートの戦略 女性活躍策は人材獲得策

女性が力を発揮できる職場は男性や外国人が働きやすいと語るフラポートの取締役、ギーゼン氏(フランクフルト)

 「時間に制約のある女性が力を発揮できる職場は、男性や外国人にとっても働きやすい」。フランクフルト国際空港をはじめ国内外の空港などを運営する独フラポートのアンケ・ギーゼン取締役はこう語る。「若い世代や外国人は柔軟に働けるか否かが会社選びで重要になっている」。女性の活躍推進を人材獲得策と捉える。

 時間や場所を選べるフレックス勤務は煩わしい手続きを簡素化し、2万人超の社員の3分の1が利用する。社員の平均勤続年数は男性19.5年に対し、女性17年と差が縮まっている。取締役一歩手前の上級管理職の女性比率は18%、中間管理職で28%に増えた。

 数値目標を前倒しで達成したのは、国内外で事業展開する独不動産系金融機関、アーレアル・バンクだ。17年6月末までに監査役の女性比率を30%に設定したが、すでに33.3%。取締役は25.0%、中間管理職は21.4%とすべて超えた。

 秘策の一つが女性の幹部候補だけを集めた研修だ。対象は30代半ばから40代半ばで、男女一緒の既存の研修を開く傍ら、08年から始めた。

 女性幹部のロールモデルが少ない職場では女性のリーダーとしての力を培う機会が少なくなりがち。「そんな女性社員のリーダーシップを身につけるのを支えるため」と女性取締役のダグマル・クノペック氏は語る。

■「適任者なく男性」は禁止

 ドイツの監査役会は業務執行には直接携わらないが、社長を含む取締役の選任・解任などの権限を持つ。監査役は株主総会が選ぶ人と、従業員や労働組合が選ぶ人で構成する。16年からは双方に30%の女性選出を義務付ける。未達の場合でもノルウェーのように解散命令などの罰則はないが、女性の適任者がいなくても男性は就けず、「空席を維持しなければならない」(TMI総合法律事務所の葉玉匡美弁護士)。

 これとは別に「上場企業または従業員500人超」の約3500社には監査役会や取締役会、その2層下までの管理職の女性を増やす数値目標と達成期限を設定することも義務付けた。達成できなかった企業は理由などの公表が必要になる。ドイツ産業連盟(BDI)のハイコ・ウィレムス氏は「女性がもともと少ない産業や企業があり、一律の数値目標を強制するのは逆効果」と話す。

 数値目標をめぐっては日独とも賛否両論ある。一橋大学大学院のクリスティーナ・アメージャン教授は「企業のイメージ戦略のためではなく、自社が競争力を高めるためにやるのでなければ意味がない」と指摘する。

(編集委員 阿部奈美)

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