四国旅客鉄道(JR四国)が2014年7月に導入した「伊予灘ものがたり」の開発キーワードは「海を魅せる」「ゆったりとした時間」「レトロモダン」「柑橘類」。地元の生活や文化、歴史に触れるとともに、柑橘類に代表される地元産品を味わえる列車だ。
車両外観は、伊予灘のクライマックスである夕日を連想させる「茜色」と、太陽や柑橘類の輝きを表す「黄金色」を基調とした配色だ。シンボルマークも夕日とオレンジで、「茜色」から「黄金色」へのうつろいを表現する。
内装はクラシックな褐色の木肌に、洋風のソファー、和風建築の障子をイメージした窓のデザインを組み合わせるなど、和と洋を調和させた懐古調のデザイン。1号車「茜の章」は、和座椅子の畳席を設けるなど、より「和」のテーストを強調。2号車「黄金の章」は、バースタイルのダイニングカウンターをもつモダンなインテリアだ。
リンゴ、梨、桃、ブドウなど、さまざまなフルーツに恵まれた福島県。地元フルーツを使用したオリジナルスイーツや、ドリンク類を味わえる「走るカフェ」が東日本旅客鉄道(JR東日本)の「フルーティアふくしま」だ。
車両外観は赤瓦や黒漆喰壁、あるいは明治大正時代の西洋モダンの建築物が織りなす沿線の独特な街並みと、雄大な自然との調和を表現している。また、建築外板に使用されるような質感表現を車両デザインに取り入れた。
内装は明治大正時代の近代建築や会津塗の質感を基本としてデザイン。2両編成で、「カフェカウンター車両」は車両全長にわたる大きなカウンターに、自由に利用できるカウンター席を設定することで、車内での多彩な過ごし方を提供する。
「越乃Shu*Kura」(JR東日本)は、地酒王国・新潟が誇る「酒」をコンセプトとした列車だ。Shuは「酒」、Kuraは「蔵」、*は「米・雪・花」を意味する。
新潟県内の地酒の利き酒や地元の食材を使ったおつまみを提供するほか、車内でジャズまたはクラシックミュージシャンによる生演奏や酒に関わるイベントを開催する。
車両外観は伝統色の「藍下黒(あいしたぐろ)」という青みを帯びた黒に白を組み合わせ、凛とした「新潟の風土」をイメージした。1号車は「らくらくボックスシート」「展望ペアシート」「くつろぎペアシート」の3種類の座席を用意し、旅のスタイルによって選ぶことができる。2号車はイベントスペースとなっており、酒樽をモチーフにしたスタンディングテーブルを設置。生演奏やイベントが開かれる。
西日本旅客鉄道(JR西日本)が2015年10月から北陸地方で運行を開始したのが「花嫁のれん」の愛称を持つ観光列車だ。花嫁のれんとは、嫁ぐ娘の幸せを願って親が持たせる嫁入り道具の1つで、北陸の旧加賀藩に伝わる風習。この愛称が示すように、花嫁のれんでは車両全体を北陸の和と美を感じさせるデザインにした。
例えば、列車内の通路に日本庭園の飛び石をイメージしたじゅうたんを敷いたり、半個室の座席に石川県繊維協会の協力で選定した友禅のコレクションを用いたりした車両を開発した。内装は輪島塗の図柄で表現、椅子を独特な紅色でデザインした。
第3セクターののと鉄道による「のと里山里海号」は、「能登の里山里海が織りなす風景と旬の味を楽しむ、ぬくもりと懐かしさを感じさせる観光列車」。
車両外観は、素朴さの中の上品さを表現した「日本海ブルー」とえんじ色のカラーリング。内装は、能登の伝統工芸や天然素材を活用。伝統工芸品を各所に配置し、工芸品を鑑賞できるギャラリースペースを設けた。
2両編成で「里山車両」はオレンジ色を基調とし、「里海車両」は青を基調とする。座席は七尾湾向きの席とボックス席を用意。土日祝日に運行する「ゆったりコース」では、七尾─穴水間の33.1kmを約70分かけてゆっくりと走り、ビューポイントでは徐行・停車する。
(日経デザイン 大山繁樹、ライター 笹田克彦)
[日経デザイン 2015年9月号の記事を再構成]