夫の看病で目覚めたヘルスケア事業 南場智子さん
(キャリアの扉)
DeNA会長
社長退任の発表は突然だった。2011年5月、モバイルサービスでトップを走っていたディー・エヌ・エー(DeNA)の創業社長、南場智子さんは記者会見で「夫の看病で(社長業に)全力を出せなくなった」と退任の理由を明かした。

コンサルティング会社でキャリアを積み、99年に起業した。05年に東証マザーズに上場。10年度には売上高が1千億円を超え、さらなる成長に向け海外戦略を仕掛けていた矢先、夫ががん告知を受けた。その瞬間「優先順位が仕事から家族へとガラっと変わった」。
非常勤の取締役に退くと、より良い治療と生活環境を求めて奔走した。闘病生活は新しい経験の連続だった。桜や月を見ては時間の有限さを知り、自然の営みに心が動く。「自分は別」と思っていた公私のバランスを取る生き方も「ストンと落ちた」。
一方で「どうして夫を病気にしてしまったのか」という自責の念に苦しんだ。「仕事ばかりで夫の健康をまったくケアせず料理もゼロ。何もしてこなかったことが、こんなにも人を惨めにするんだと知った」。同じ思いをする人を減らしたい。夫の体調が安定し復帰を考え始める中で、ヘルスケア事業への強い思いが芽生えた。
目を付けたのは、米ベンチャーが先行していた遺伝子検査だ。病気のリスクや体質などの情報を提供し、病気になる前の予防策を促す。13年春に常勤の取締役として復帰するとプロジェクトを始動。東京大学医科学研究所と提携し、14年8月、採取した唾液を送るだけでできる遺伝子検査サービス「MYCODE(マイコード)」を始めた。ウェブ上での健康管理支援や健康保険組合向けサービスも展開する。
「成功の確率を高めるためにできることは全部やる」。仕事への厳しさは変わらないが、変化もあった。「以前は局所局所で勝ちにこだわっていたけれど、今は短期的な成果にカリカリしなくなった。視野が広がり、精神的に強くなった」
離れてみると一層、DeNAというチームが好きになった。「IT(情報技術)で新しい価値を生み出し、世の中を変えたい」。チームで追う夢は、まだまだ終わらない。
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