残業時間 減らすには 裁量労働、拡大論議へ

実際に働いた時間ではなく、事前に決めたみなし時間分の賃金を支払うのが「裁量労働」だ。次の国会では裁量労働の対象拡大を盛った労働基準法改正案の審議が始まるだろう。ホワイトカラー向け企画業務の裁量労働は2000年に一部法制化してはいるが、導入企業は13年で0.8%しかなく、使い心地はよくわからない。残業・長い労働時間を減らし、労使ともに満足する形にするにはどうすればいいのか。社員と企業に聞いた。

会社の体質改善とセットで

「図面のクレームを減らす方法はないか、効率よく仕事はできないか常に考える」。大日本コンサルタントで橋梁の保全を担当するインフラ技術研究所主幹、浅野雄司さん(48)は裁量労働導入後の意識変化をそう話す。

佐藤総合計画は裁量労働で働く人たちが一体感を失わないよう、会議・談話スペースを大きく広げた(東京都墨田区の本社)

仕事の進め方が微妙に変わった。業務の中心は図面づくり。以前は速くつくるのが一番とする風潮が強かったが、修正の要望も多く、直し作業で労働時間が長かった。今は「きっちり時間と人をかけて作図し、ノークレーム・ノーミスを目指す」。

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同社が企画業務で裁量労働を課長級以上の専任職130人に導入したのは11年7月だ。みなし労働時間は1日9時間15分で、所定労働時間に1時間30分足してある。総務部長の畑田宣久さんは「仕事の効率化を促し、当時非常に長かった労働時間を減らすことを狙った」と説明する。

東日本大震災後の仕事が急増した時期に重なった。制度の導入だけでなく、派遣技術者を増員し、ノー残業デーの社内広報を強化する対策を打った。畑田さんは「まだ労働時間は長めだが、震災で急増してもおかしくないのに少し減った」と話す。意外なのは裁量労働でない若手の残業がより減ったこと。浅野さんらリーダーの口癖が「早く帰れ」になった効果のようだ。

日立造船は専門業務に続いて、2000年から企画業務で裁量労働を運用する。執行役員の森本勝一さんは「当時は造船不況で赤字決算。裁量労働をはじめとする成果主義で会社を立て直すことを考えた」と話す。この15年で造船から撤退し、環境機器への業態転換に成功した。裁量労働の運用で気を使うのは「仕事の与え方と社員の健康状態のチェック」だ。

裁量労働の対象は1800人のホワイトカラーのうち、大卒入社の4年目程度で就く資格や係長級などの約600人。1日のみなし労働時間は8時間で、実際の平均労働時間9時間と比べ短い。その分、基準月収の15%を手当として払うシステムを設けている。ただ、全員が15%を受け取るわけではない。

裁量労働は時間管理がない分、社員は自らの都合に合わせて自由なペースで仕事を進められる。だが仕事の量は調整できない。部門や個人ごとに負担感の差や不満が生じる。そこで管理者が15%の手当総額を原資に、部門の労働時間と個人の成果を勘案して個人ごとの支給率を7~20%超まで差をつける。管理者は仕事を与える段階でバランスに注意し、それでも生じた負担感の差を、手当で再度調整するわけだ。

健康管理では会社にいる時間と所定労働時間との差が月40時間を超えた場合、「健康についての問診票を産業医に出すよう必ず管理者が指示する」(人事グループ長の児玉章盛さん)。疲労が認められれば尿検査などに進む。

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建築設計事務所、佐藤総合計画(東京・墨田)は専門型による働き方改革と、職場環境を良くする改革を12年から同時に進めている。みなし時間は所定より1時間多い8.5時間。取締役の笠井隆司さんは「若手の自由時間を増やして主体性を育て、設計提案力を上げたい」と話す。

同社が徹底したのは社員との対話だ。14年には部門ごとのワークショップを繰り返し、効率的な働き方を共に考えた。時間外を圧縮、個人の時間を持つことの大切さへの理解は早かった。以前は当然だった休日出勤が影を潜め、午後10時以降残っている社員もかなり減った。「まだまだ残業は多い」と笠井さんは話すが、手応えはあるようだ。

労基法改正案の国会審議では、裁量労働に「企業への問題解決型営業」を加える点が焦点になるだろう。社員に大量の業務を押しつけるブラック化が心配されるからだ。

この記事に登場した3社は、労務費の定額化という経営メリットのつまみ食いだけでは全体の成功に結びつかないと考えている。むしろ裁量労働導入は全社の体質改革の一環で、他に様々な改善策を同時並行で始めている。

日立造船が裁量労働の成否を「仕事の与え方と健康管理」にかかっていると考えていることは示唆に富む。3社とも導入前の労使の意思統一に相当な手間と時間をかけている。労使が時間外の削減など同じ視点に立つことが、必要条件だろう。(礒哲司)

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