高級エステサロンのよう、とは言い難いが、サバンナの泥水だまりでイボイノシシのグルーミングをするカメの姿をカメラが捉えた。
南アフリカのヒュニュウェ=イムフォロジ公園で、2匹のアフリカヨコクビガメの一種(Pelomedusa galeata)が、イボイノシシ(Phacochoerus africanus)の体についた寄生虫を取って食べているところが初めて撮影された。爬虫類や両生類の学会誌『Herpetological Review』2015年9月号に掲載された報告では、陸上であれ水中であれ、カメがほかの動物の掃除をするという記録はほとんどないという。
米クリーブランド自然史博物館の鳥類学者アンディーと、同博物館の野生生物資源管理者であるミシェル・レイティーのジョーンズ夫妻は、2月に休暇で南アフリカを訪れていたときに、偶然カメとイノシシの奇妙な交流を目撃した。
ジョーンズ夫妻が水たまりに入っていくイボイノシシを見ていると、2匹のカメが泳いで近付いていったという。「カメたちがイノシシのまわりで円を描くように泳ぎ、皮膚にかみつき始めたのです。思わず目を見張りました」
体を低くして泥水に深く沈んだイノシシは、10分間もその姿勢を保っていた。顔に吸着しているダニをカメに吸い取られても身動きもせず、好きにさせていたのだ。それどころか途中からさらに深く水に沈み、背中にとまっている吸血バエも取ってもらっていた。
「珍しい光景だとは思いましたが、こうした行動の記録がほとんどなかったとは知りませんでした」と夫妻は言う。
かゆいところはございませんか?
今回の報告には関与していないが、南アフリカにあるポートエリザベス博物館の名誉学芸員で爬虫類の専門家であるビル・ブランチ氏も、このような行動はめったに見られないと言う。
ブランチ氏によると、これまで淡水にすむカメが大型動物の体に付着したダニや寄生虫を食べている事例はほとんどなく、アフリカスイギュウとサイにくっついていたのが報告されているのみだそうだ。「それにカメ以外に、大型脊椎動物の体についたダニを定期的に掃除する爬虫類は思い当たりません」
カメがグルーミングをする報告がほとんどないのは、イボイノシシを含むアフリカの大型哺乳類は、陸上でウシツツキなどの鳥に定期的に寄生虫を掃除してもらっているせいかもしれない。ウシツツキ、掃除魚、掃除エビなど掃除行動で知られる動物たちは、相利的なパートナー関係を進化させてきた。掃除をする方は餌にありつくことができるし、される方はわずらわしい寄生虫を除去してもらえるというわけだ。
しかしブランチ氏は、今回のケースはカメがたまたま餌を見つけたにすぎず、カメとイノシシの間に共生関係が確立している証拠にはならないのではないかと考えている。
アンディー・ジョーンズ氏は、季節も関与しているかもしれないと言う。写真が撮影された2月は乾季で、水たまりが小さくなり、カメの食料が減っていた可能性がある。「腹をすかせたカメたちは、どんなところにとまっているハエでも食べるでしょう。頭のいい哺乳類はこのことを覚えていて、ハエやダニに悩まされているときに、カメのいる場所にやって来るのかもしれません」
いずれにしろ、イボイノシシにとってカメと一緒に泥風呂に入るのは癒やしのひとときかもしれない。
(文 James Owen、訳 三枝小夜子、日経ナショナル ジオグラフィック社)
[ナショナル ジオグラフィック ニュース 2015年10月14日付]