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子どもが急に熱を出したけれど大事な仕事があって休めない――。風邪やインフルエンザが流行するこれからの季節は共働き家庭には試練の時期だ。特に負担が大きいのは働くママたち。病児保育のサービス探しや周りの社員に負担をかけるのをどう和らげるか。企業の対策の動きが広がってきた。

日立ソリューションズは昨年4月、子どもが熱を出して病児保育所やベビーシッターに預けて勤務した社員に、利用費の半額を補助する取り組みを始めた。補助の上限額は年5万円だ。

同社のシステムエンジニア、村井睦子さん(31)は9月下旬のシルバーウイークの休み明け直後、熱を出した1歳の次女を病児保育所に預けてから仕事に向かった。これまでも何度か制度を使っている村井さんは「金額の面以上に、会社が育児中の母親社員にも期待していることを感じられるのが励みになる。しっかり働いてから子どもを迎えに行った」と話す。

ママ社員の活躍には病児保育の充実が欠かせない(東京都世田谷区の病児保育所ハグルーム)

ママ社員の活躍には病児保育の充実が欠かせない(東京都世田谷区の病児保育所ハグルーム)

昨年は22人が補助制度を使い、今年は8月末時点で12人が利用した。同社は「休める時は休んで子どもを看病してもらい、必要な時に最大限能力を発揮してもらえれば」と導入の狙いを話す。

大手企業だけではない。インターネットや映像などのコンテンツ企画・制作を手掛ける社員約100人のブレイン(東京・渋谷)は4月から、子育て社員が訪問型の病児保育のサービスを利用できるようにした。訪問型とは自宅に専門の保育スタッフを派遣し子どもの面倒をみること。

祖父母らの子育て支援を受けられないママ社員から導入を求める声が上がったことがきっかけだ。宮下乃利男常務は「中小企業にとって社員一人ひとりの存在感や役割は大きい。復帰後の女性社員にも活躍してもらえる仕組みだと感じた」という。

同社はNPO法人、フローレンス(東京・千代田)の訪問病児保育を利用する。会社が入会金、月会費を負担し、社員は利用料の割引も受けられる。フローレンスは3年前からこうした法人プランの取り扱いを開始し、現在の契約数は30社を超えた。

子どもの病気に対応した柔軟な働き方ができる企業も増えている。

東京海上日動火災保険は子どもの看護でも在宅勤務ができるようにした。これまでは管理職や一定の役職者だけだったが、1月から小学校3年生までの子どもを持つ親全員に対象を広げた。利用した30代の女性社員は「朝起きて子どもに熱が出ていても上司に電話で報告すれば在宅勤務でいい。便利で、とても助かる」と話す。

大京グループは4月から従来は1日単位だった子どもの看護休暇を、半日でも有給で取れるようにした。小学校に入学する前の子どもを持つ親が対象だ。同社は「病児保育所や祖父母の家へ子どもを預けに行くため、半日だけ休むときに使える」と説明する。

Q「子どもの病気のための休みが多い。本人も引け目を感じているようだがどうフォローしたらいいか?」

A「上司から一度でも渋い顔をされたら非常に休みづらくなる。『子どもが第一』と言ってもらったことでとても安心したという声があります」

千趣会が作った「両立支援マニュアル」は育休から復帰後の社員について、上司向けのQ&Aを載せている。同僚向けマニュアルもある。

同社には病児保育への補助制度があるが、「育児経験がなかったり知識がなかったりする社員に、小さい子どもを持った親の状況をしっかりと理解してもらうことが大切」と強調する。

都内のある大手企業では「社内ではそれぞれの部署でカバーすればいいという意見もある。病気の子どもを預けてまで母親を働かせるというマイナスの企業イメージを持たれるのではないか」との声が上がる。ただママ社員の活躍を後押しするために、支援の仕組みを打ち出す企業は今後も増えそうだ。

政府は2020年に病児・病後児保育所の利用人数を現在の約3倍の延べ150万人まで引き上げる計画だ。

全国の病児保育施設でつくる全国病児保育協議会(東京・新宿)の稲見誠会長は「最近になって企業から活動への問い合わせが増えている。病気の子どもの健康をいかに守るかという福祉の視点を一番に考えながら、ママたちが働きやすい環境づくりに関係者が一体で取り組む必要がある」と話す。

「ケアは母親」父親の8倍

ほとんどの保育園は子どもの熱が37.5度を超えると受け入れない。その時、圧倒的に負担が集中するのが母親だ。日本病児保育協会(東京・千代田)の5~6月の調べによると、62.7%は母親が休みを取って子どもの世話をしている。

インフルエンザのように、ほかの子どもに感染させないために熱が下がってからもしばらくは保育園に登園できない例は多い。通信会社に勤める40代の女性は「1週間近い休みが立て続けにあった時は、もう仕事を続けられないと悩んだ」と打ち明ける。

川崎医療福祉学会誌の2010年の論文では、子どもの病気の時に退職を考えたことがあると回答した女性会社員は52%。なかでも病気が多い3歳児以下を持つ母親への支援が必要になる。

日本病児保育協会の調査では父親が休みを取って面倒を見る比率は7.8%どまり。

ただベビーシッター派遣などを手掛けるポピンズ(東京・渋谷)によると「企業で説明会を開くと参加者の半分以上が男性という例が多くでてきた」という。母親と父親が同じように子どものケアにかかわる仕組みづくりが行政や企業には求められている。

(高田哲生)

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