新国立の白紙撤回で深刻化 ライブ会場の2016年問題
日経エンタテインメント!
今も世間を騒がし続ける、新国立競技場の建設問題。2012年11月にザハ・ハディド氏のデザイン案が採用決定後、13年10月には1300億円の総工費が3000億円にまで膨らんでいることが発覚。予算の削減が叫ばれるなか、今年7月に安倍晋三首相が一転「白紙に戻す」と宣言した。現在は、「新国立競技場整備事業の技術提案等審査委員会」を中心に話が進められている。8月14日の会合では、基本的な方針が示され、「原則として競技機能に限定」「屋根は観客席の上部のみ」と発表された。
これに心中複雑なのは音楽業界。当初の案では「様々なイベントに対応できる開閉式の屋根」となっていただけに、新国立競技場を将来的には全天候型のコンサート会場として期待していた関係者は少なくなかったからだ。しかも原則、競技機能に限定されるため、音響などコンサート会場としてはかなり未知数な部分が多い。せめてもの救いは、観客席の上に屋根が設置されることで、音の広がりが抑えられることぐらいだ。
2014年、56年の歴史に幕を閉じた国立競技場の場合、騒音問題がネックとなり、最終年を除いて、年に1組程度のアーティストしかコンサートを開催できなかった。1985年に国立競技場で初めてコンサートが行われた際には、約15キロ離れた調布の方からもクレームの電話が来たのだという。それ以降は音の上限を90デシベルに制限するなどの対策を講じてきたが、国立競技場は全く屋根がなく、観客席にも高さがないという構造のため、音が横方向に拡散しやすく、根本的な解決策を施すことはできなかった。
今回、新国立競技場がそうであったように、2016年10月東京・味の素スタジアムの横に完成する1万人クラスの体育館など、関東エリアに新しい会場が出来上がるたびに、音楽業界からは熱視線が向けられる。というのも、年々増加傾向にあるコンサートに対して、会場の供給が間に合っていない実情があるからだ。関東エリアの多くの施設が、来年の初頭から東京オリンピック対応ほか、それぞれの事情で改修工事に入るため、会場不足の深刻度が一層増し、「2016年問題」とも呼ばれている。
なかでも深刻なのは、2016年2月~5月の4カ月間。3万7000人の収容人数を誇る、さいたまスーパーアリーナと、1万7000人収容可能な横浜アリーナの両施設の使用できない時期が重なるのだ。それらに向けた対策について、コンサートプロモーターズ協会・今泉裕人氏は、「アーティストによっては、北関東などの規模の小さめな会場で2日間開催するなどの工夫が見られる。しかし結局はしわ寄せによって、その規模の会場も不足してしまう」と言う。
地方のスポーツ施設の活用
会場不足は、20年の東京オリンピックが終わるまで関東エリアでは慢性的に続くため、地方の大型スタジアムなどの活用がカギになってくる。日本スポーツ振興センター・古泉修氏は、「静岡のエコパスタジアムや大阪の長居スタジアムなどのスポーツ施設も、収益率の高いコンサート会場として使用することで収支を合わせたいという思いがある。そのような施設でコンサートの成功が続けば、日本各地にも広がっていくのではないか」と語る。
20年には東京・有明に、東京オリンピック用の、収容人数1万5000人の「有明アリーナ」が完成する。この施設も東京オリンピック後はコンサート使用が見込まれるなど、会場不足問題も20年を機に緩和されるだろう。しかしそれまでの間は、音楽業界も様々な対応が求められそうだ。
(ライター 中桐基善)
[日経エンタテインメント! 2015年10月号の記事を再構成]
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