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10月1日には多くの企業の就職内定式が控える。しかし今年から経団連に加盟する企業の選考開始が後ろ倒しとなり、この時期に2次募集を始めた企業もある。このため「まだ希望が通るかもしれない」と就職先を決めきれず活動を続け、内定先や選考中の企業に辞退を告げない学生が増えている。辞退をハッキリ伝えて就職活動を終わらせる「辞退活動=辞活」への注目が高まっている。

東洋大学の就職・キャリア支援課は内定先を決めきれないと迷う学生にもアドバイスをする

東洋大学の就職・キャリア支援課は内定先を決めきれないと迷う学生にもアドバイスをする

「内定辞退を電話で話すと、企業に怒られるのではと気が重かった。だからメールで伝えた」。都内の私大4年生のAさんは昨年6月から就職活動を始め、年内には外資系3社から内定を得た。本命は決めたものの迷いがあり、約4カ月は内定を持ったまま何もせず。今年4月にやっと2社へ辞退メールを送った。

すると1社の人事担当者から電話がきた。「なぜあなたはウチを選ばなかったのですか」。思い直すよう説得を受けたが、怒鳴り散らされるようなことはなし。「ほっとした。将来、転職するようなことになったら候補として考えたい」(Aさん)

「大学名入りの履歴書や証明写真など2次面接に必要な書類が間に合わず、面倒になって連絡せずに面接へ行かなかったことは多い。企業から何回も電話がきたけれど、出なかった」。都内の別の私大に通うBさんは1年近く就活を続け、8月にようやく金融機関への就職を決めた。「中小企業でもなければそこまで迷惑はかからないと思っていた」(Bさん)。志望順位の低い企業には連絡せず、自分の中で勝手に就活を取りやめても悪びれない。

今後のご活躍を心よりお祈り申し上げます――。就活生は企業の不採用通知メールを「お祈りメール」、メールもなく不採用となるのを「サイレントお祈り」と呼ぶ。売り手市場が鮮明な今年の就活では、学生側が連絡をせずに面接や内定を辞退する「サイレント辞退」が目立った。

「内定式への出欠のメールをしても返信がなく、電話にも出ない。なんとか学生に連絡がつきませんか」。都内のある大学の就職相談窓口のキャリアセンターには、複数の企業から問い合わせが入った。大学が当の学生たちを何とか捕まえると、そのうちの1人は「辞退と伝える際に怒られるのではと思って連絡しづらく、意図的に電話に出なかった」と話したという。

就職情報のマイナビ(東京・千代田)によると、8月末までの内々定保有者のうち、選考の途中で面接などの辞退の経験がある学生は6割以上で、そのうちサイレント辞退をしたのは3割以上に上る。

「ただ、学生に悪意があるわけではない」とマイナビ編集長の吉本隆男さんは話す。就活が長期化して、企業は内定後に働き始めてからの希望を聞く懇親会や面談を手厚く開くようになった。人情として断りづらいと感じる素直な学生が多い。そこで面接や内定を辞退する段になって、追い込まれて「連絡なし」を選んでしまう。

例年は大手企業の採用が落ち着いた後に、中小企業の採用が本格化していた。今年は大半の大手企業の選考時期が後ろ倒しとなり、中小企業などは例年通りの時期に活動をしたため、採用時期が逆転した。大手志向の学生は8月以降に内定を出す大手企業の選考まで活動を続け、結局辞退が相次いだ。大手であっても採用予定枠を2割ほど下回る企業もある。

就活支援サービスの人材研究所(東京・港)の曽和利光社長は「企業だけでなく、他の学生の機会を奪っていることにまで想像力を働かせてほしい」と話す。5~6社の内定を持ったまま就活を続ける学生もいる。行く可能性のなくなった時点で、すぐに電話すべきだと曽和さんは説く。

ただ「長期化とはいえ、大手の内定は8月初旬に集中した。なんだかよく分からないうちに決めてしまった学生も少なくないのでは」(曽和さん)。就職先をじっくり選べたはずだが、意外にも決める時間は短かったようだ。曽和さんは「ミスマッチの可能性も例年以上に高いかもしれない」と危惧する。

中央大学キャリアセンターの池田浩二課長は「本来は直接会って断るのが筋だが、内定辞退の際に酷い目に遭うという噂や都市伝説を信じている学生が意外と多い」という。SNSやインターネットの就活掲示板で出回るのが、人事担当者から熱いコーヒーをかけられたといったエピソードだ。「それが本当でも、クリーニング代の賠償請求をすればいい。君が内定を断ることは法律で認められた権利だと学生に話すと、安心して電話をする」(池田さん)

「内定をとった後にこそ、人事部に頼んでOB・OG訪問をしてみては」と提案するのは東洋大学の就職・キャリア支援課の中村健司課長だ。

複数の内定先で迷っていて、自分なりの結論を出しても背中を押してほしいと相談しに来る学生はこれまでもいたそうだ。売り手市場で、もしかしたらあの企業にもチャンスがあるという今年の状況だからこそ、素直な心持ちで内定先各社の先輩に就職後の自分を想像するための決断材料を集める活動に協力してもらう。サイレント辞退でなく、あえて内定後に時間をかける「辞活」を考えてみよう。(小柳優太)

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