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 妊娠や出産を機に職場を解雇されたり、精神的・肉体的ないやがらせを受けたりするマタニティーハラスメント(マタハラ)が、安倍晋三首相が「根絶」を表明するまでに問題化している。ただマタハラ行為が労働法の積み重ねの中で、ほとんどが禁止されたり、不法行為となったりしていることはあまり知られていない。マタハラを法的にとらえ直してみた。
働く女性にとってはマタハラ対策の有無がワークライフバランスを決める

働く女性にとってはマタハラ対策の有無がワークライフバランスを決める

「アリタリア航空に雇い止めされた33歳の客室乗務員は、契約更新の上限とされる3年を超え、雇われ続けることを期待する十分な理由があった。再契約をしなかったのは、彼女が妊娠・出産したから」。地位確認などを求めて6月にアリタリア―イタリア航空を訴えた女性に代わり、所属労働組合、JAPAN CABIN CREW UNION書記長の酒井三枝子さんはそう指摘する。

根拠は労働契約法19条と、男女雇用機会均等法9条。労契法19条は有期で働く人の契約が終わった時でも、更新を期待する合理的理由があれば、契約を更新したと「みなす」新規定だ。均等法9条は結婚や妊娠・出産を理由とした不利益な取り扱いを幅広く禁止する、マタハラ対策の総本山のような条文だ。

アリタリア―イタリア航空人事部の担当者は女性が客室乗務員でなく機内通訳であるとした上で「契約を更新しなかったのは、飛行前ブリーフィングに遅刻したり、警告を受けたりしたことがあるなど、業務に不適格と判断したため。女性も合意していた」と反論する。「当社は2009年以降、18人が産休・育休を取っており、母親社員が活躍している。マタハラと決めつけられるのは遺憾だ」と否定した。

裁判所の判断結果にかかわらず、非正規で働く女性が5割を超える今、労契法と均等法の解釈がからむ同裁判は注目度が高い。

マタハラ行為は解雇や降格ばかりではなく、配置転換やいやがらせを含んで幅広く、統一した法的定義はない。労働法には妊娠や出産を理由として、会社が女性に不利益な扱いをするのを禁止した規定が数多くある。法律を重ね合わせると、妊娠・出産から育児休業後まで隙間なく禁止行為や不法行為を決めている。

出産前後の解雇に関しては労働基準法19条があり、産前6週間・産後8週間の休業期間とその後の30日間、解雇を禁止する。弁護士の中野麻美さんは「産前産後の経済的不安をなくすことが目的」と説明する。さらに均等法9条は、4項で妊娠中や出産後1年を過ぎない女性が妊娠・出産を理由に解雇された場合、それを無効にしている。

働き方にも強い保護をかけている。労基法65条は妊娠中の女性の請求があった場合、軽易な作業に転換させなければならないと定める。「妊娠中の健康と胎児の順調な発達のため、労働負担を軽くしなければならないことは確立した医学的知見」(中野さん)だからだ。

育児休業の取得も同じ。育児・介護休業法5条は働き始めて1年以上などの要件を満たせば、雇用の有期・無期を問わず育休取得の権利が生まれるとし、同6条で会社は原則的に拒むことができないとする。また10条は育休を取ったことを理由とした不利益な取り扱いを禁止している。

問題はこうした規定が企業の管理職に軽んじられていることと、規定を守らせる仕組みが条文によって強弱があることだ。労働基準法違反については司法警察権を持つ労働基準監督官が是正に動くが、均等法や育介法を守らせる立場の雇用均等室に強行権限はない。労働契約法に触れる疑いがあれば、個人で訴えを起こさなくてはならない。

厚生労働省は安倍首相のマタハラ根絶表明以降、新たな法制化の検討を始めている。雇用均等・児童家庭局の幹部は「今回の法制化検討では、マタハラを防止するため会社に何をしてもらうかが課題になる」と話す。来年の通常国会で育児・介護休業法と均等法に新条文を追加するなどの手法で、同時改正することになるだろう。

(礒哲司)

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