夏のオーディション、ライバルは「YouTuber」
日経エンタテインメント!
学校が夏休みとなり、今年も様々なオーディションが開催されている。求める人材や選抜方法など各社の新人戦略を見ると、最近はオリジナル動画で人気のYouTuberや、自身のファッションをインスタグラムで紹介する読者モデルといった、ネット発の人気者が増えていることが影響を与えているようだ。
モデルや女優など、毎回ジャンルを決めて募集する老舗の「ホリプロタレントスカウトキャラバン」。40回目となる今年は、「#kawaii」をキーワードに掲げる。ポイントはツイッターのハッシュタグを表す「#」だ。
実行委員長を務める同社プロダクション二部の阿部七絵氏は、「発信力の高さを重視したい」と話す。「けん玉が上手でも歴史が大好きでもいいが、何か得意分野があり、かつ自分をうまく伝える能力がこれからは必要。想定するのはバラエティで活躍できる即戦力ですが、SNSが広がった今では他のジャンルも同じ」(阿部氏)との考えからだ。
今回は初めて、スマートフォン(スマホ)などを使ったウェブからの応募のみに変更。「応募した方が、自身のツイッターやフェイスブックなどでどうアピールするかも見ていきたい」(阿部氏)としている。
「YouTuberなど、従来の枠に収まらないスタイルで活躍する人が出てきたことで、幅広いジャンルの才能を様々な切り口で探す重要性が高まった」と、多様化の影響を話すのは、ソニー・ミュージックエンタテインメントで新人開発・育成を手がけるSDグループの長谷川愛子氏。最近はバンドやシンガーだけでなく、ゲーム実況者や映像作家、男性劇団などの育成にも着手。数年前に年2~3本だったオーディションは、年10~15本へ急増したという。
この夏は、同社では初のグラビアオーディションを開催中だ。壇蜜など30代で活躍するグラビア系タレントも多いため、年齢を15歳~30歳に設定。「10代のフレッシュな存在はもちろん、30歳を前に芸能界で活躍できるなら水着もいとわない、芯の強い人にも会ってみたい。本人の資質次第では、バラエティや女優、歌などの出口も考えていく」(長谷川氏)と言う。
グランプリは決めない
「数百人から数千人のフォロワーを持つYouTuberやニコ生主(注)は増えたが、日本中、世界中から憧れられるビッグアーティストは育っていない。人気者が細分化しているからこそ、圧倒的な存在感のカリスマが必要」と話すのはエイベックス・グループ・ホールディングスのアーティスト開発育成統括部長・紙上養一氏。定額制聴き放題サービスの「AWA」や「LINE MUSIC」がスタートし、ベテランと新人が横一線で勝負できる環境も整いつつあると判断。同社が得意としてきた女性アーティストを探す「avex GIRL 'S VOCAL AUDITION」を開催中だ。
これは鈴木大輔、菊池一仁といったヒットメーカーが全国の会場に出向き、全応募者の"声"を審査する大規模なもの。さらに、「グランプリを決めない」のも特徴だ。紙上氏は「今回は20~30人、場合によってはもっと多くの人にチャンスを与えたい」と話す。狙いは可能性を持った原石を磨くこと。二次審査を通った参加者は各作家とマンツーマンで作品を作りながら、CD発売やサブスクリプション(定額制)サービスのみでのデビューなど、最善の方法を探っていくという。
YouTuberらネットを使って自力でファンを獲得した人気者の増加は、芸能プロダクションやレコード会社にとって、その存在意義を問われる面もある。オーディションによる選抜後、育成や活動場所の確保などで各社が存在感を示せるか、注目される。
注…「ニコニコ生放送」を使って放送するユーザー
(日経エンタテインメント! 山本伸夫)
[日経エンタテインメント! 2015年8月号の記事を再構成]
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
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