女性のキャリアと人生設計は、ヘルスケアと表裏一体
生き方まで左右する、女性ホルモンとライフサイクルの関係(2)
社会的要因に左右される女性のライフサイクル
女性のライフサイクルは社会的要因にも大きく影響される。特に妊娠・出産については、産むか産まないかの決定に社会的な要因が強く影響を与えており、自分で主体的に産む時期を決めて実行できる人は少ないという。
「出産をした人のおよそ半分は予期せぬ妊娠というデータがあります。そして予期せぬ妊娠をしたときに、パートナーの意見で産むか産まないかを決めている人が多い。周りの応援があれば産めるけれど、自分だけで『できたんだから産みます』と言うには相当勇気がいるのです」(種部さん)
一方で、なかなか妊娠しないことに対する社会の目に苦しむ人も多い。親や上司からのひと言に傷ついたり、不妊治療に対する職場の理解が不十分で時間をやりくりして婦人科に通わなければならなかったりする。
社会的問題としては、女性に対する暴力もある。身体症状・精神症状で受診する女性の中には、モラハラ、パワハラ、セクハラなどの被害に苦しんでいるケースが多いにもかかわらず、医学教育の中でこれらについて学ばないのは大きな問題だと種部氏は指摘する。
女性のうつも見逃せない。うつといえば中高年男性の問題がクローズアップされがちだが、有症率としては男性より女性のほうが多い。
特にライフサイクルの転機と重なる産後と更年期がうつになりやすいタイミングといわれる。労働者として、家族の健康管理をする母として、嫁として、娘として、さまざまな役割を担っている女性のうつは、社会的な要因へのアプローチなくして解決しない。薬で治療すればよいという単純なものではなく、複雑で難しい。
年代に応じたヘルスケアを考えよう
若い年代では、月経に関連したトラブルや妊娠・出産の時期にホルモンの影響で生じる病気がある。
更年期以降は、これまで働いていた女性ホルモンの減少などによって病気が出てくる。更年期には更年期障害、さらに老年期には女性ホルモンがなくなることにより動脈硬化性の病気(高血圧、高脂血症など)が増え、ひいては認知症にもつながる。骨粗鬆症から骨折、寝たきりになるリスクも高まる。
それぞれの年代によって、気をつけなければいけない健康問題は違ってくるため、年代に応じたケアが必要だ。
さらに社会的要因も絡み、問題をより複雑にする。女性の生き方が変われば病気の数も状況も変わってくる。本来はそれに応じた社会的ケアが必要だが、教育面でも、検診システム一つをとっても、ヘルスケアの仕組み自体が追いついていないのが現状だ。
こうした中、キャリアと妊娠・出産を含めたライフプランのはざまで悩む女性も多い。今、女性が産みたくても産めない原因の一つは、妊孕性(にんようせい)といって、妊娠・出産に適した時期が、社会で自立するためのキャリア形成の時期に重なることだ。
「女性が自信をもって生きるためには、キャリア形成もとても大切です。本当はどの段階でも産みたいときに産めるのが理想ですが、加齢とともに妊孕性は下がってしまう。もし子宮内膜症ができれば、妊孕性はさらに早く低下します。妊孕性とキャリアをトレードオフしなければならない状況にある。これは社会の問題です」(種部さん)
せめてキャリアアップの時期に病気にならないように、できるだけ健康な体を育てておかなければならないと種部さんは言う。
若いときからの健康管理・予防の視点が大切
若いときの健康が生涯影響を与えることは知っておきたい。特に14~16歳頃は、人生で使うための骨をつくるいちばん大事な時期なのだが、この時期にダイエットをして給食を残す子もたくさんいる。そして運動量も少ない。この時期に女性ホルモンがしっかりはたらいて体をつくることができないと、そのツケが更年期以降に出てくるのだ。
年をとったときにシャキッとして元気な人と、腰が曲がってよぼよぼしている人との違いは、実は若い頃の蓄えによるところが大きい。過剰なダイエットは禁物だ。
「女性の健康向上は日本の医療経済の問題にもつながりますが、国の政策は医療費削減には取り組んでも、予防に先行投資するという発想がありません。だからこそ個人が賢くなって、若い頃から予防する視点が必要です」(種部さん)
そして、女性にとって月経や病気のリスクと上手につきあうために、相談できる婦人科のかかりつけ医を見つけることもとても大切だ。ホルモンのことをよくわかっている産婦人科医の中でも、体のことだけでなく、人生プランをともに考え、相談にのってくれる医師を選びたい。
「医師を選ぶとき、女性ならではの口コミ、肌感覚は大事にしていいと思います。また、日本産婦人科学会の『女性のヘルスケアアドバイザー』プログラムの認定を受けているかどうかも一つの目安になります」(種部さん)
キャリアの面では、管理職に占める女性の割合が高まるなど、社会で活躍する女性が増えてきている。だが、単に女性管理職が増えた、あるいは単に病気がないというだけでは健康で幸せな生き方とは言えない。きちんと人生のプランを持って、自分の足で立って主体的に生き抜く「本当に健康な生き方」を目指そう。
この人に聞きました
女性クリニック We! TOYAMA 院長。平成2年、富山医科薬科大学医学部卒業。平成10年同大学大学院医学研究科修了。富山医科薬科大学附属病院、愛育病院等を経て平成18年より女性クリニック We! TOYAMA 院長。専門は生殖医療、思春期、更年期、性差医療・女性医療。思春期婦人科診療や性教育をはじめ、女性を取り巻く社会問題に関する啓発活動も積極的に行っている。
(ライター 塚越小枝子)
[nikkei WOMAN Online 2015年7月30日付記事を再構成]
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