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街づくりや子育て支援といった地域活動に参加する男性が独自の肩書の名刺をつくり、活用している。なじみのなかった地域活動デビューに、企業社会で身についた仕組みを持ち込みながら、ユーモアを交えてとけ込もうという作戦だ。

ビジネス様式取り込み

「おおさか歩き案内人」の名刺を渡す奥村武資さん(右、大阪市中央区のまちライブラリー)

「おおさか歩き案内人」の名刺を渡す奥村武資さん(右、大阪市中央区のまちライブラリー)

「はじめまして。おおさか歩き案内人の奥村です」「これはご丁寧に。珍しい肩書ですね」

6月下旬、大阪市中央区のショッピングセンター内にある交流スペース「まちライブラリー」受付の奥村武資さん(56)は、来館者に笑顔で名刺を差し出し館内の説明を始めた。

2月に関西テレビ放送の系列会社を55歳の役職定年で退社した。ほどなくして、まちライブラリーの受付アルバイトと、自称おおさか歩き案内人の二足のわらじをはいた。「案内人」とは週末、大阪の繁華街であるミナミなどで地元の人にもなじみがないようなスポットを、一緒に歩きながら紹介する仕事だ。収入はわずかだが、愛する大阪の文化を発信する地域活動だ。

「名刺は私のことを知ってもらう第一歩」。自前で印刷店へ200枚注文、料金は3000円だった。地域で人脈を広げるのに欠かせないという。「退職前、会社でセミナーがあり、組織で培ったものを捨て、個人として地域で活躍してほしいといわれた。その時は余計なお世話と思った」と笑う。

最近、周りを見渡すと、「男の料理を提案します」といった独自の目を引く肩書を名刺に盛りこんだシニア男性が多いことに気づいた。「定年だからといって、会社組織の風土を全否定する必要はないんだと思った」

退職後の男性の中には現役時代の肩書が忘れられず、企業文化とは無縁の地域活動になじめないことがよくある。だが、奥村さんらの名刺は現役時代の名刺と意味合いが違う。会社という背景なしに、自分が何者なのか、何をしたいのかを訴えかけるものなのだ。

東京都世田谷区に住む松岡正治さん(81)は新しい肩書を思案中だ。65歳の定年から個人名と住所、電話番号を記した名刺は作っていた。だが、肩書がないと社会に対してコンプレックスを感じていたという。

4月に農学博士の90歳男性と出会った。「彼の名刺に『山造り承ります』という肩書があった。荒れた山の再生をするという事だという。感銘を受けた」と振り返る。自身の趣味は俳句と読書だ。「地域の句会や読書会で、ひとひねりした肩書を披露したい」と意欲をみせる。

「練馬イクメンパパプロジェクト(ねりパパ)」は東京都練馬区で子育て支援活動をする30~40代パパの民間団体だ。週末、区内の公民館や児童館で絵本を読んだり、子どもと遊んだりする主要メンバー12人はそれぞれ代表、副代表、執行役員、監事の肩書を持つ。あえて企業の役員構成を意識した。

代表の森健也さん(41)は「肩書は活動のモチベーションを上げる。メンバーにも責任感をもってもらおうと思い肩書を設けた」と話す。ただ昇進降格の競争はないそうで、遊び心を交えた肩書だ。

横社会の地域活動に、名刺や肩書といった縦社会の文化を持ち込む日本の男性たち。「人物本位である欧米の地域活動のあり方とは異なってもいい」と、精神科医でシニアのライフスタイルに詳しい大阪樟蔭女子大学教授の石蔵文信さんは話す。

地域活性化など数多くのボランティア団体で活動するシニア男性を見てきたが「男は総会をいつ開くか、会則はどうするかといった組織づくりが大好き。それがやる気につながり実際の活動がうまくいくならそれでいいのでは」という。ただし、「地域活動の団体は上下関係のない組織が大前提。要はみんな部長でいい」と強調する。

やりたいこと、肩書に凝縮を

新たなシニアライフを提案するコンサルタント会社、アリア(東京・中央)の松本すみ子社長は、男性だけでなく女性シニアにも自己紹介用の名刺づくりを勧める。「名刺の真ん中に自分の名前を大きく印刷したり、ハッキリ分かるようにしたりしてほしい。自分を知ってもらう姿勢が大事」と話す。

肩書は何でもいい。「よくあるのは郷土史家と地域文化研究家。これならだれにも迷惑をかけないし、地域に溶け込みやすい」。自分が地域活動でやりたいこと、やってみたいことを考えて肩書に凝縮すれば、周囲の理解が進み、自身も前向きになれるという。

やりたいことが見つからない人は「ただいま模索中」という肩書だっていいそうだ。「今の自分をさらけだせば、そこから話の輪が広がる。具体的な肩書ができれば、後で名刺を差し替えればいい」とアドバイスする。

(保田井建)

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