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がん治療、あなたの医師選びは間違っている

2015/7/6

日経Gooday(グッデイ) カラダにいいこと、毎日プラス

その言葉は、ある日不意に言い渡される――「がん」。次の瞬間、多くの人は「死」を初めて実感し、我が人生を改めて振り返る。今は日本人のおよそ半分が、なんらかのがんにかかる時代。がんをきっかけに診察室で繰り広げられる人間模様とともに、がん治療の最前線を歩み続ける森山紀之・東京ミッドタウンクリニック健診センター長がつづる、現代人に贈る生き方の道しるべ。

■「ランキング本」を手にセカンドオピニオンを求める患者

「最初にかかった病院でがんと診断されたのですが、こちらの病院の方が有名なので」

かつて国立がん研究センターに私が勤務していた間、こうした理由で患者がひっきりなしに訪れてきました。そのほとんどがセカンドオピニオンを求めて来院しているのですが、面白いことに、必ずといっていいほど「病院ランキング」や「病院実力比較」といった類いの記事を手にしています。なかには、「この記事の中からだと、どこがお薦めでしょうか?」といった意見を求められることすらありました。

自分の身の委ね先を選ぶ指標として、各メディアから発表されている「病院ランキング」などを頼りたくなるのは、無理からぬことでしょう。どんな人でも、自分ががんだと分かれば、「最新の治療を受けたい」「有名な先生に執刀してもらいたい」という思いに駆られるもの。最初にがんの診断を受けた病院が、たとえランキングで2位になっていたとしても、「1位の病院だったらもっと……」といった気持ちにもなるのもよくわかります。

■「今の病院で治療を受ければ大丈夫ですよ」

ランキングの基準については、特段おかしいと感じるものはなく、「歴史がある」「規模が大きい」「専門医の数が多い」「症例数が多い」「最新の医療設備が整っている」といった病院が上位を占めている傾向があります。しかし、医者である私から見れば、1位も5位も10位も、医療の設備や受けられる医療に大きな違いはありません。特に「早期がん」についてであれば、極端な話、「どの病院を選んでも、専門を標ぼうしていれば、ほとんど変わらない」と私は考えています。セカンドオピニオンを目的に訪れた早期がんの患者に対しては、そのほとんどに「今かかっている病院で治療を受ければ大丈夫ですよ」とお伝えしていました。

もちろん、例外はあります。発見されたがんが進行がんで「ステージ」が進んでいたり、膵がんや胆管がん、さらに肝臓の門脈周辺など、血管が複雑に張りめぐられさている部位に見つかったりした場合などは、その治療に高い実績を上げている病院や医師を選ぶことも想定して慎重に検討していきます。状況が難しいケースのがんだったとすれば、そのときの主治医をはじめとして、セカンドオピニオンを求められた医師も、最善の策を一緒になって考えてくれるはずです。

■場合によっては、「腕」は特段重要ではない

病院の医療設備に違いがなく、そのうえ治療に関してもそれほど差が出ない。読者のみなさんはなんだか「肩透かし」をくらったように感じるかもしれませんが、実はがんにかかったときにみなさんが本当に望んでいることは、「いい医師と巡り会えること」ではないでしょうか。

いい医師とひと口に言っても、その考え方は人それぞれでしょう。執刀技術の高さ? 豊富な臨床経験? 知名度? 人柄の良さ? もしかすると、出身大学や海外留学の経験を重視する人だっているかもしれません。

患者の立場からすれば、多くの人が第一の条件に挙げるのは「腕がいいかどうか」だと思います。意を決して手術を受けるのであれば、上手な医師に執刀してもらいたいと願うのは、とても当たり前のことです。

一般的には、その分野に強い「専門医」をはじめ、医療現場などで後進の指導に当たる「指導医」といった肩書を持つ医師にかかることをお勧めしています。昨今、病院のホームページなどには、勤務する医師の治療実績や経歴、専門領域が記載されているものも増えてきました。これを手がかりの1つにしてみるといいでしょう。

一方、「腕」を、医師探しの上での第一条件から外すという考え方もあり得ます。例えば胃がんは、発見された時点では、統計的にその70%は「早期がん」です。医師として消化器系の分野に携わる者であれば、早期がんを手術する程度の最低限の技量は、ほとんどの医師が有しています。すべてのがん手術がどれも高い技術を求められるわけではありません。冒頭のエピソードでも触れましたが、治療成績が良好な部位の早期がんの場合、みなさんが心配するほどの「腕の悪い医師」はそうそういませんので、どうか安心して担当の先生に任せてください。

なお、がん治療の現場に長年携わっている私の経験からいうと、「医師の腕」と「出身大学」はほとんど関係がないと言っていいでしょう。受験の偏差値が高い大学に合格したことと、医師としての技量や適性は別物だからです。

■別の医師にかかった方がいい場合とは

がんは、一度発症すると、検査から手術後の療養まで、治療期間が長くなることも少なくありません。必然的に、主治医との付き合いも長くなりがちですし、場合によっては一生の付き合いになります。ですので、最初の段階で、医師と患者が良好な信頼関係を築けるかどうかが、がん治療を根気よく続けていくための大切な条件の一つになります。これまで多くの患者と接してきて、医師に対して「不満」や「不信」を抱いたまま治療を続けていると、やがて“がん難民”になってしまうなど、良好な結果を生んでいないと感じるからです。

長く付き合うという前提に立つと、残念ながら、疑問符がつく医師が少なからずいるのも事実です。例を挙げてみるならば、次のような4つのタイプです。

良好な信頼関係を築けない可能性がある医師の4つのタイプと言動
1.患者の疑問に丁寧に答えず、「自分の言うこと聞け」という雰囲気で威圧する
2.「自分は実績をたくさん積んできた」と、過去の実績をやたらと強調する
3.がんの状態を詳しく説明もしないで、「私に任せれば大丈夫」のひと言で片付ける
4.リスクの十分な説明もなく、「手術で治しましょう」と半ば強引に誘導する

長期にわたる可能性があるがん治療は、とりわけ、患者と医師との協働作業の側面が強いと言えます。にもかかわらず、上記のような言動が目立つ医師は総じて、協働作業であるという意識が希薄で、つらい立場に置かれている患者への想像力に欠けています。

もしも、あなたが主治医に対して、何か不安を感じたり、どこか不満を抱いたりしているのであれば、自分の大切な体を安心して任せられるわけがありません。もちろん、自分の感覚や勘だけで判断することは避けていただきたいのですが、まずは自分が抱えている疑問や質問、そして心配していることでも構いません、どんなことでも主治医に向けてみてください。患者は医療に詳しくないのは当然です。だからこそ、その道のプロであるはずの医師に聞く。

上に挙げた4項目にいくつも該当する医師ならば、思い切って病院も医師も変えることをお勧めします。

(まとめ:平林理恵=ライター)

Profile
森山紀之(もりやまのりゆき)
東京ミッドタウンクリニック常務理事
1947年、和歌山県生まれ。千葉大学医学部卒。76年に国立がんセンター放射線診断部に入局。同センターのがん予防・検診研究センター長を経て、現職。ヘリカルスキャンX線CT装置の開発に携わり、早期がんの発見に貢献。2005年に高松宮妃癌研究基金学術賞、07年に朝日がん大賞を受賞。主な著書に「がんはどこまで治せるのか」(徳間書店)。

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