子どもの前で親は「ダメダメ」な姿を見せてもいい
夫婦共に働きながら子育てをしていると、「子どもに対して十分な時間をかけて向き合えていないのではないか」というジレンマを抱きがちだ。
でも、「共働きだからこそできる愛情表現がある」と専門家は口をそろえる。
子どもに質問されたら…何と答えていますか?
特定非営利活動法人スクール・アドバイス・ネットワーク理事長という立場で、学校教育と地域の連携によるキャリア教育を推進する生重幸恵さんは、「親が仕事を楽しみ、時に苦労しながらも仕事を通じて成長する姿をそのまま見せることが、子どもとの信頼関係を築く」と言う。
子どもにとって、親は最も身近な「大人のサンプル」であり、「社会人の先輩」。将来、自分も踏み出すことになる社会でもまれている先輩の背中を見ながら、多くを学び取っていく。
思春期の親子の信頼関係を助けるのが、子どもの親に対するリスペクトの感情だが、仕事を通じて社会とつながっている親の日常を子どもにも見せることで、「お母さんってすごい」「お父さんはいざというときに頼りになる」という発見につながるのだという。
例えば、平日の夜、宿題をやっていた子どもがふとこんな質問をしてきたとき。
「ねぇ、お母さん。社会の授業でさ、『最近の工場にはいろんな国の外国人が働いている』って習ったんだけど、本当かな? どこの国の人達が日本に来ているのかなぁ」
あなたはどんな答えを返すだろうか。
腕まくりして、知識や経験を総動員せよ
仕事で疲れていると、「ふーん。どこかしらね」と適当に流したり、「いきなり何のこと? 自分で調べなさいよ」と回答を放棄したりすることもあるかもしれないが、「ここは腕をまくって張り切るべきところ」と生重さん。
「知識や経験を総動員して回答する姿勢を見せてください。すぐに答えられなかったとしても、『お母さんの同僚で、工場の管理をやっていた人がいるから聞いてきてあげる。 2、3日待ってくれる?』と真剣に調べて子どもに返してあげてください。親が仕事を通じて獲得している人脈の豊かさ、知識や見識の広さと深さを垣間見ると、子どもは親を『頼りがいのある存在』と認識します」
疑問を解決してくれる人。それも、広いネットワークを駆使してベストな回答を見つけてくれる人。親がそんな存在であると認識した子どもは、何か困ったことがあったときの相談相手として親を信頼するようになるのだ。
この関係性づくりが、思春期の問題を未然に解決することにもつながっていく。同時に、「頼りがいのある存在」のバックボーンとなっている社会に対しての憧れや期待も膨らみ、将来のキャリア形成にも影響するだろう。
親が成長しようという意欲を見せるのは最高の教育
疑問解決人としての親自身も、「面倒臭い」と思わずに楽しむといい。「○○ちゃんのおかげでお母さんも工場の最新事情について詳しくなれたわ」と、自分自身の成長を喜ぶ言葉を口にしよう。
「『君がいなければ、親の私もここまで成長できなかった』という感謝の言葉は、子どもの自己肯定感を育てます。また、親がいくつになっても人として成長しようという意欲を見せることは、子どもにとって最高の教育であり、信頼を育てます」と生重さん。
親の働く姿、もっと、もっと見せてもいい
思春期の親子コミュニケーションについて調査・研究をする昭和女子大学現代ビジネス研究所研究員の臼田明子さんは、「親が働く姿をもっと子どもに見せるといい」と提言する。
自身が子育てを経験したオーストラリアでは、職場に子どもを連れてくることは珍しくなく、家族を職場に招くファミリーデーなどのイベントも盛んだったという。
「イベントを通して社員の家族同士がお互いに知り合いになる。このメリットはとても大きいですね。実際に小さい子がいる社員が、『ああ、こんな子がいるんだ』と皆に見てもらえれば、子どもが急病になって保育園から呼び出しを受けても、周りの社員の理解が得やすい。また、妻も子供も、父親がどんな仲間と働いているのかを見ることができます(もちろん、妻の職場についても)。ハードに働くビジネスパーソンが、保育所に子どもを迎えに行った後、子連れで職場に戻って仕事を再開することもよく見られた」と振り返る。
「日本では小学校高学年以降に職場体験を導入するケースはありますが、私はもっと小さいうち、乳幼児の頃から両親の職場を見学するような体験があってもいいと思います。子どもは豊かな感性で『親が働く姿』を感じ取ります。『自分が保育園で過ごしている間、お父さんやお母さんはこんなことをしているんだ』と子どもなりに理解するのではないでしょうか。その『納得』が親子間のコミュニケーションにとって大事だと思います」(臼田さん)
家庭の中でも、仕事の話は隠さずにどんどんしたほうがいいという。親が日ごろどんな仲間とどんな仕事に向き合って、どんな気持ちでいるのかということに、実は子どもはとても興味を持っている。
時には親もぐうたらに 家庭はリラックスできる場
「かといって、何もいつもスーパーマンのような完璧な姿を見せる必要は全くありません。むしろ、時にはダメダメな姿を見せたほうがいい」と生重さん。
くたくたに疲れた木曜日の帰宅後。何も作る気さえしなかったら、「お母さん、疲れたからご飯作らなくてもいい~?」と子どもに相談してみよう。親がいつでも気を張って頑張っていると、子どもだって疲れてしまう。頼りがいのある親が、自分の前でダラダラな姿を見せると、子どもはちょっとうれしくなるのだという。
「よーし、決めた。今日は散歩がてらお弁当を買いに行くことにしよう。あ、パパにも電話しよ。『今日はごはん作らないから飲み会いかが?』って」と、徹底的に怠けよう。
「大事なのはメリハリを見せること。仕事も家事も育児も100%手を抜かない親は、無意識のうちに『あなたも頑張りなさい』とプレッシャーを与えてしまうんです。家ではいつでもリラックスしていいのだと親自身が見せることで、子どもにとって家庭が安心できる場所になります」(生重さん)
考えてみれば、子どもだって学校や保育園で社会生活を送っている。親にはいちいち見せなくても、ちょっとしたハードルを日々乗り越え、緊張を感じる日も少なくないはずだ。
帰宅してなかなか宿題に手をつけず、おなかを出してゴロゴロと寝転がってばかりだとしても、それはきっと「解放」の印。「家では親も子もリラックスモードに。猫の親子のように一緒に丸くなるくらいでちょうどいい」(生重さん)。
親だって、毎日きちんとはしていられない。でも、いざというときは思い切り頼っていいぞ。
日常の中でそんなメッセージを伝えていくように心がけてみよう。
(ライター 宮本恵理子、イメージ写真 鈴木愛子)
[日経DUAL 2015年6月15日付記事を再構成]
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