探査機が間もなく冥王星へ、太陽系外縁の解明進むか
私たちは冥王星があることは知っていても、その実態について、現時点ではほとんど何も知らない。
だが、2015年7月14日にはこうした現状が一変する。NASAの無人探査機ニューホライズンズが約50億キロの旅を経て、この極寒の準惑星からわずか1万2500キロの距離にまで接近するのだ。いったい何が観測できるのか。唯一確実に言えるのは、冥王星が間違いなく人々を驚嘆させるということだ。
「私たちがこれまで思い描いてきた冥王星のイメージは、煙のように消えてしまうでしょう」。ニューホライズンズ計画の主任研究員アラン・スターンはそう語る。
惑星Xを発見せよ
冥王星はいまだに私たちにはよくわからない天体だ。ニューホライズンズが打ち上げられた2006年、冥王星は太陽系の惑星リストから外され、新たに「準惑星」に分類された。そもそも冥王星は発見される前から一筋縄ではいかない天体だった。
海王星の外側に別の惑星が存在する可能性は、1840年代には指摘されていた。20世紀初頭には、この未知の惑星を発見しようという競争が活発になる。海王星の発見から実に半世紀以上の歳月を経て、新惑星発見の栄誉を手にするチャンスだった。
米国の大富豪パーシバル・ローウェルは、この未知の天体を「惑星X」と名づけ、私財を投じて天文台を造り、惑星X探索の拠点とする。だがローウェルは1916年、惑星Xを確認することなく他界する。
やがて時がたち、1930年2月18日の午後遅く、当時24歳のクライド・トンボーがローウェル天文台で持ち場に就いていた。ブリンク・コンパレーターという光学装置を操作して、おびただしい数の星をつぶさに眺めていたトンボーは、あることに気づいた。6日間の間隔を置いて撮影した2枚の写真のなかに、位置が動いている小さな光の点があるのだ。彼は定規をつかむと、光の点の正確な移動距離を測った。別のカメラで撮影した写真にもこの光の点が写っていることを、拡大鏡で確認した。45分後、トンボーは確信した。ついに惑星Xを発見した、と。
新たな衛星発見や、原始太陽系の解明にも期待
冥王星と名付けられたこの惑星は、21世紀に入って「準惑星」に分類された後も、数々の謎を残したままだ。
冥王星とその衛星カロンの動きを観察した結果、研究者たちは冥王星の質量が地球の500分の1しかないことを突き止めている。1978年に発見されたカロンは、大きさが冥王星の半分近くあり、この二つの天体はいわゆる「二重星」を形成している。二つの天体は、その間にある共通の重心の周りを公転していて、ほかの四つの衛星を含めて、とても複雑な運動をしている。
天文学者たちは、冥王星の周囲にはほかにもまだ衛星があるのではないかと考えている。そのなかには、公転軌道が同じだったり、軌道が交差していたりする衛星や、自転軸に沿って優雅にくるくると回るのではなく、不規則に自転している衛星があるかもしれない。「そうした不可解な動きをする天体が見つかっても不思議ではありません」と、ニューホライズンズの探査チームに参加する研究者アレックス・パーカーは語る。
冥王星は準惑星であると同時に、海王星の軌道の外側に広がるカイパーベルト(無数の彗星や極寒の小惑星の故郷とされる、天体の破片が集まった円盤状の領域)にあるおびただしい数の天体の一つでもある。46億年前にできたこの天体の集まりには、原始の太陽系の痕跡が今も凝縮されている。
カイパーベルトの構造からは、太古の昔に巨大惑星の配置が大きく変動し、小天体がすごい勢いでそこらじゅうにはじき飛ばされたことがわかっている。研究者たちは冥王星とカロンの表面のクレーターを観測してカイパーベルトを構成する天体の数を推計し、その変遷を再現したいと考えている。この推計は大変難しい作業だが、巨大惑星の配置の変化が初期の太陽系を形成していった過程を解明するのに欠かせない。「太古のカイパーベルトはもっと巨大だったと私たちは考えています」とスターンは語る。
冥王星の探査により、地球の成り立ちの解明が進む可能性もある。生まれたばかりの地球は、水素とヘリウムから成るガスの層に包まれていた。この大気は数百万年かけて宇宙空間に散逸した。スターンによれば、冥王星は太陽系内で唯一、今も同様の現象が進行している天体なのだという。地球と冥王星の類似点はこれだけではない。研究者たちは冥王星の衛星カロンが、かつて月を生んだのとよく似た、天体同士の大衝突によって生まれたと考えている。
(文 ナディア・ドレイク、日経ナショナル ジオグラフィック社)
[ナショナル ジオグラフィック 2015年7月号の記事を再構成]
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