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 仕事も通学も求職もしていないニートや引きこもりの若者を合宿させ、生活や仕事の基礎から教える「合宿型若者自立支援プログラム」が支援機関や自治体の間で広がっている。日々の生活の改善と就労支援を同時に進められる支援策として、ニートを抱える親たちからの期待も集めている。
合宿型プログラムで働くニートの若者たち(奥、横浜市の250にこまる食堂)

合宿型プログラムで働くニートの若者たち(奥、横浜市の250にこまる食堂)

30代後半のAさんは、横浜市の若者支援企業、K2インターナショナルジャパンの無期雇用スタッフとして働いている。K2が運営を受託している横浜市内の高校の学校給食に必要な食材を車で運んだり、同社が運営する「湘南・横浜若者サポートステーション」のイベントのスタッフになったりしている。

Aさんは実は30歳のころ、出口の見えない引きこもり状態だった。父親(65)によると、大学卒業後アルバイトとして働いたが、3年ほどで雇い止めに遭い、自宅の2階に引きこもった。3年が過ぎたころ、両親は意を決して、K2が実施していた国の合宿型の支援プログラムにAさんを参加させた。

父親は「K2の玄関前で2時間も座り込むなど、息子を参加させるのは大変だった」と振り返る。しかし、他の参加者と同じ部屋で寝起きし、皆で食事をしたり外部の企業で職場体験をしたりするうちに、Aさんの気持ちは変化し、ひきこもりから脱することができた。「6カ月に及ぶ合宿がなければ、息子はここまで立ち直れなかった」

総務省の労働力調査では15~34歳のニートの若者は2013年度で60万人。内閣府の10年の調査では、行動範囲が近所のコンビニエンスストア程度の引きこもりの若者(15~39歳)は23万6千人いる。増減はあるものの、ニートの人数は高止まりしたままだ。

合宿型の支援は、そんなニートの社会参加に向けた有力な対策として注目され、各地で増えている。運営主体の主力は、国が自治体と協力して全国160カ所に設けた「地域若者サポートステーション(サポステ)」だ。「若年無業者等集中訓練プログラム」の名称で6カ月、2週間、4泊5日などのコースを開いている。14年度は栃木、東京、神奈川、愛知、大阪など27カ所のサポステが、前年9月比1.6倍の47コースを実施した。

自治体が直接、合宿型支援をする例も。市内のニート数を5万7千人と推定する横浜市は、独自の「よこはま型若者自立塾」を運営。14年度は6カ月コースに27人、短期コースに130人が参加した。

合宿型支援の利点は、生活習慣改善と就業訓練を同時に進められる点だ。横浜市の湘南・横浜サポステでK2が担当する国の6カ月プログラムでは、研修生の若者は専用アパートに2人1部屋で住む。共同生活を体験させるのが目的で、合計600時間のカリキュラムは生活訓練やコミュニケーション訓練から始まり、市内企業や飲食店での275時間の就労研修に進む。

K2の岩本真実統括コーディネーターは「精神的な問題を抱えている研修生を除けば、昼夜逆転など生活基盤に問題があることが多い。身だしなみ、立ち居振る舞いから人間関係まで指導できる合宿型は効率が良い」と説明する。

ニートを抱える親からの期待も大きい。20歳の子を参加させたBさん(66)は「合宿している間に仲間意識ができ、社会性が身につくのが良い」と話す。同じ問題を抱えた親同士が深く交流し、支え合うことができる点も利点だという。

合宿型支援は、生活保護の対象になりそうな人に各種の保護や指導をする生活困窮者自立支援法が4月に施行されたことで、さらに広がる可能性がある。横浜市は5人の困窮ニートを、就労準備支援として市の6カ月コースに参加させた。京都府と府内各市も連携して10日~2週間の合宿型就労体験を取り入れている。

ニートの支援策としての合宿型は、05年ごろから「若者自立塾」の名で国の施策としていったん広がった。しかし効果が薄いとして政府の事業仕分けの対象になり、09年度末に廃止された経緯がある。ここにきて再び注目されているのは、自分から就労支援に通えない引きこもりの若者や、ニート状態が長期化した若者に対し、改善効果が大きいと再認識されたためだ。

13年度にサポステが提供する合宿型をはじめとする各種の就労支援策に、利用者として登録したのは全国で4万3千人強。進路が決まったのは1万9千人強と、一見効果的に見える。ただ年間の相談件数は45万件に及んでおり、支援状態を卒業できない若者が多いのが現状だ。

行政改革推進会議は13年、サポステの支援策の有効性や費用対効果についての検証が不十分との評価を下している。ニートを抱える親たちの合宿型支援への期待は大きいだけに、今後どれだけ実績を積み上げられるか注目される。

(礒哲司)

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