子供のやる気を引き出す トップ教師のテクニック
2児の父の岡部敬史です。2014年からは少年サッカーのコーチも務め、我が子だけでなく、いろんな子どもと接している。そんな日々のなか、1番感じるのは子どもの「やる気を引き出すこと」の難しさ。「何かいい方法はないか」と思っていたところ「子どものやる気を引き出し、自分の力で考えられるようにする技術『コーチング』の取材をしませんか?」という話をいただいた。
取材したのは模擬授業全国大会にて2度の優勝を収めたこともある、現役の公立小学校教師・山田将由さん。小学生へのコーチング技術をまとめた『トップ1割の教師が知っている「できるクラス」の育て方』(学陽書房)の著者でもある。
現役の小学教師から話が聞けるとあって、大きな期待とたくさんの質問を携え、山田さんのお勤め先に近い横浜に出かけた。今回のテーマは、「そもそもコーチングとは何か?」。
「コーチングを端的に言い表せば『望ましい方向へ相手の自発性を引き出すコミュニケーションツール』となります」(山田さん)
山田さんは、まず「コーチング」をこのように定義してくれた。ただ、実践・指導する人によって、この捉え方は多種多様だという。というのは、そもそもコーチングというのは学者が作り出した理論ではなく「様々なコミュニティを円滑にまとめて、個人のやる気を引き出すのがうまい人たちの事例を集約したもの」だからだ。
子どもに意見を聞くと、それだけで前向きになる
このため実践法は様々なのだが、核となる部分はやはりある。それがコーチングの「コアスキル」と呼ばれるものだ。
「コーチングのコアスキルには、3つあります。それが『双方向・個別対応・継続性』です」(山田さん)
順に解説していただこう。
「まず『双方向性』です。従来の『教える』という行為は、教える側から教わる側への『一方通行』です。これをコーチングを使って子どもたちに聞いたり、質問したりすることで双方向にするのです」(山田さん)
例えば、クラスの目標を設定するときにも、教師の一存で決めないようにする。子どもたちに「どんな目標にしたい?」と問いかけ、彼らの声を取り入れた目標を作成するのだ。たったこれだけのことだが、様々な効果があると山田さんは話す。
「まず、子どもたちは自分たちの意見を聞いてくれる先生に好感を抱いてくれます。そして、クラス目標に対しては、先生から押し付けられたものと感じないだけでなく、自分たちが決めたことだから達成しようと、前向きに考えてくれるのです」(山田さん)
人の話を全然聞かない子への対処法は…
わが子に対して、「人の話を全然聞かない」と悩んでいる人もいるだろう。ただ、山田さんによれば、それが当たり前なのだという。
「人間には『自我を守ろう』という本能があります。人の話を聞いて改善していくと、その自我がなくなってしまう。だから、人の話は聞かなくて当たり前なのです。でも、人の話を何一つ聞かないでは困る。そこで、自分で考えてもらうのです」(山田さん)
人の話が頭に入ってこない子でも、自分で考えたことは頭に入るという。この特徴を踏まえて、とにかく自分で考えさせるのだ。
「どうしても忘れ物をしてしまう子がいます。ここで『毎日チェックしなさい!』と言うのではなく『どうして忘れてしまうのかな?』『どうしたら忘れないかな?』と問いかけ、子どもの考えを聞く。『宿題が終わったあと、ノートを机の上に置いたから、これからすぐに片付ける』、こんな考えを子どもから引き出せたら、『じゃあ、それをやってみよか』と見守るのです」(山田さん)
何かを「伝えよう」と親や教師が頑張るのではなく、子どもたちに考えさせることが大事なのだ。
子どもは「4つのタイプ」に分けられる
コーチングコアスキルのその2は「個別対応」だ。一般的な授業は、どうしても平均的な子どもを想定して行うことになるが、コーチングでは個別に対応を変えていくことが大切だ。
「この『個別対応』に役立つのが、人のタイプ分けです。子どもでも、だいたい4つのタイプに分けられるので、それぞれのタイプによって、子どもへの接し方を変えていくのです」(山田さん)
その4つのタイプとは、以下の通りだ。
自分の考え通りに事を運ぶのが好き。他人からの指図を嫌うが、他人から質問されるのは好き。競争心が旺盛で、発言では結論から入る傾向にある。
<タイプ2:プロモーター>
みんなで楽しく活動するのが好き。理屈を嫌う。アイデア出しや発言するのが好き。ほめられることや注目されることを好む。
<タイプ3:サポーター>
人を助けることが好き。人とのコミュニケーションを大切にするが、自ら決断することが苦手。
<タイプ4:アナライザー>
あらかじめ情報分析をして計画を立てる。突然の変更や、裏付けのない決定を嫌う。
『図解コーチング流 タイプ分けを知ってアプローチするとうまくいく』(鈴木義幸著、ディスカヴァー・トゥエンティワン)を参照
山田さんは、上記の4つのタイプに対してどう接しているのか。
「例えば目標を決める場合、まずはプロモーターに発言してもらって場を盛り上げる。一方、アナライザーには、個別に目的を伝えて考えてくれるように頼みます」(山田さん)
また、コントローラーにはひとつの仕事を任せる、サポーターには小さなアクションごとに感謝の気持ちを伝えていく、といった個別対応により、みんなのやる気を引き出していく。山田さんは、挙手を当てる順番も、このタイプを基に決めているという。
聞き上手な父親にも向いた指導法だ
コーチングコアスキルのその3は「継続性」だ。
「双方向によって、子どもから解決法が提示されたとしても、すぐに解決するわけではありません。そこは粘り強く継続することが大切なのです」(山田さん)
例えば、忘れ物をしない方法を「宿題が終わったらすぐに片付ける」と自ら導き出しても、たいていの子はすぐに忘れてしまう。ここで「なぜ自分で言ったことも守れないの!」と叱ってしまっては、元も子もない。「どうしてまた忘れちゃったのかな?」「もっと別のいい方法はないかな?」と、辛抱強く答えを引き出し、それを見守ることが大切なのだ。
「こういった粘り強く子どもの話を聞くのは、聞き上手である父親も得意である気がします」(山田さん)
この「コーチングは父親こそ力を発揮できる」というのは、なんとなくうなずけるところもある。聞き上手の世のお父さん方にとって、コーチングは、身に付けやすいスキルかもしれない。
さて以上が、コーチングのコアスキルの概要。改めて整理するとコーチングとは「望ましい方向へ相手の自発性を引き出すコミュニケーションツール」であり、そのためには「双方向性、個別対応、継続性」が大切というわけだ。
(ライター 岡部敬史)
[日経DUAL 2015年4月7日付の掲載記事を基に再構成]
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