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 ピカピカの新入社員が職場に配属されているころだろう。労働力人口が減っている状況で新卒採用者は会社にとって貴重な金の卵だ。ゆとり世代といわれる若者気質にも配慮し、昨今は「手厚く」「ていねいに」「大切に」が新人研修・育成の方針になっている。

「2度米国に留学しました。日本の食文化を海外に広める仕事をしたいと思っています」

カルビーの伊藤健人さん(23)は入社前の1月、本部長ら40人を前に資料を使って自己アピールした。

2012年に同社が導入した「新卒ドラフト」は、全新入社員が10分の持ち時間で自分を売り込む。これを基に本部長らが欲しい新入社員を指名する。配属先を左右するだけに新人も真剣だ。

伊藤さんは資料作成に1カ月をかけ、父親の前でリハーサルをして助言をもらった。そのかいもあって、4月に海外第二事業本部欧州課に配属された。「指名されたと聞いたとき、うれしさで手が震えた」

日本企業では入社後しばらくは会社の命じるまま、様々な部署で下積みをするという考え方が根強い。同社も以前は人事部主導で配属を決めた。だが、その常識にメスを入れた。人財開発部の田村正弘部長は「やりたい仕事ができればモチベーションが上がる。仕事に対する姿勢や成長にもプラス」と説明する。

新人の宝子山真一さん(右)を、指導役の本村万人さんは職場で温かく見守る(横浜市のツクイ横浜港南台デイサービスで)

新人の宝子山真一さん(右)を、指導役の本村万人さんは職場で温かく見守る(横浜市のツクイ横浜港南台デイサービスで)

明治安田生命保険は今春から新入社員と指導役の「交換日記」を始めた。習得できたこと・できなかったこと、次の課題、現在の悩みなどを新入社員がノートにつづり、週1回、1年間やりとりを続ける。狙いはコミュニケーションの強化だ。

以前から新入社員に指導役を一対一で付けてきた。だが教える側が多忙のため形骸化する例もあった。ノート交換で週に1度は必ず接点を持てるようになり、指導役は新人に関心が向く。「いきなりガツンと指導しても萎縮する。ノート交換でまずは互いをよく知り、信頼関係を築くことが大切だ」(人事部職員研修グループ)

介護大手のツクイは職場の指導役向けの研修を今年初めてした。「叱るときもまず褒めてから……」などと昨今の若者気質にあった指導法を伝授した。「介護業界は人手不足。100人の採用目標に対して今春の入社は55人。せっかく入ってもらった大切な人材。辞められても困るし、しっかり育てたい」(人事部)

宝子山真一さん(22)は横浜港南台デイサービス(横浜市港南区)に配属になり、本村万人さん(28)が指導役に付いた。宝子山さんは「ほかのスタッフに厳しく怒られてシュンとしていると、本村さんがさりげなく声をかけてくれる」と話す。職場は40代以上の年配社員が多い。年齢が近い本村さんは頼れる兄貴的存在だ。本村さんも「介護技術を教えることは大切だけどメンタルサポートにも力を入れている」と明かす。

アサヒビールグループは同期の結束強化に力を入れる。4月1~6日の合同新人研修にグループ会社など10社155人が参加した。研修中に全新入社員の顔と名前を覚えるように厳命し、5日には仲間意識を高めるために運動会を開いて大玉送りやリレーに汗を流した。「横のつながりがあれば、この先何か困難に直面したときに独りで悩まず誰かに相談しやすい」(アサヒグループホールディングス人事部門)。そんな親心から始まった試みだ。

アサヒビールグループは合同で新人研修を実施。運動会を開いて同期の結束を強めた(山梨県の研修施設で)

アサヒビールグループは合同で新人研修を実施。運動会を開いて同期の結束を強めた(山梨県の研修施設で)

資生堂は今年新人研修を実践的な内容に刷新。即戦力の育成にかじを切った。昨年までは入社後の研修で会社の歴史や理念、基本的なビジネスマナーなどを教えていたが、今春入社組は内定期間に先に済ませた。

代わって13日間の合宿制研修ではロジカルシンキングやマーケティング、経営数字の見方などビジネススキルの習得に特化。最終日には具体的な新規事業提案を新入社員にさせた。

ゆとり世代はのんびりした印象もあるが、仕事で早く結果を出したがる傾向がある。能力開発室採用・研修グループリーダーの三輪英子さんは「会社も彼らに期待するのは即戦力の働き。早期に活躍できると分かれば若く優秀な人材を集めやすくなる」と強調する。

産業能率大学総合研究所研究員の杉村茂晃さんは「ここ2~3年で新人研修・育成のあり方が変わった」と指摘する。入社間もなく新人が退社しても、辛抱ができずに辞める側の問題と長らく日本企業はみていた。だが労働力人口が減少に転じ、各企業は新入社員の定着を真剣に考えるようになったという。

「新社会人世代は打たれ弱く、厳しく接すると、しならずにポキッと折れてしまう。『黙って言うことを聞け』といった指導は通用しない。なぜこうしなければいけないのか。つまらなそうに見える仕事もどう役立っているのか。理由や背景を説明しながら指導することが大切だ」と杉村さんは助言する。

(女性面編集長 石塚由紀夫)

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