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長時間の「持ち帰り残業」がもたらすリスク

2015/4/27

日経ウーマンオンライン

こんにちは、社会保険労務士の佐佐木由美子です。あなたの職場では、「持ち帰り残業」をしている社員がいる、という話を聞いたことはありますか? 先日、大手英会話学校の講師だった女性の自殺の要因は、長時間の「持ち帰り残業」だったとして、労働基準監督署が労災認定をしたニュースが話題となりました。今回は、持ち帰り残業を秘かに悩む彩乃さんのお話をもとに、どのような対策が有効かを一緒に考えてみましょう。

■暗黙のやり方に疑問

事務機器メーカーに勤める彩乃さんは、就業時間中に仕事が終わらず、「持ち帰り残業」をせざるを得ないときがある、と言います。

会社の方針で残業規制が厳しく、一定時間を超える残業は一切認められないそうです。納期が迫っているときなどは、仕方なく自宅に持ち帰って自分のパソコンで作業をしていることがありました。

しかし、職場には暗黙のルールで「持ち帰り残業」は広く行われており、とても不満を言える雰囲気ではありません。

同僚の男性社員に話を聞くと、残業がつけられないから、週末も含めると、毎月50‐60時間くらいは「持ち帰り残業」でカバーしている、ということでした。

最近、その男性社員の顔色が悪く、辛そうにしていることが多いので、心配だと言います。

「自分さえ我慢していれば…」と思っていた彩乃さんですが、「このままでは社員みんなが疲れきってしまい、会社がダメになってしまうのでは…?」と強く疑問を持つようになりました。彩乃さんは、いったいどうすればよいのでしょうか。

■「持ち帰り残業」が労災認定

日本では、長時間労働等の原因により、精神疾患になってしまう人や「過労死」が残念ながら後を絶ちません。2014年11月1日から「過労死等防止対策推進法」が施行されました。

この法律で過労死を防止する責務が明確になった国や地方自治体、使用者等は、それぞれの立場から具体的な取り組みが今後ますます求められていくことでしょう。

企業が職場の長時間労働を減らしていくことはもっともですが、残業を規制するあまり「持ち帰り残業」で仕事をカバーしなければならないとなれば、それこそ問題です。

つい先日、「持ち帰り残業」に関する労災認定の事件が明らかになりました。2011年に英会話学校講師の女性が自殺したのは、自宅で長時間労働する「持ち帰り残業」が原因だったとして、労災認定されました。労災は基本的に「業務遂行性」と「業務起因性」がなければ、認められません。

「持ち帰り残業」は、自宅での作業実態の把握が困難なため、明らかな証拠がない限り労災認定を受けるのは概して難しいと考えられています。

ところが、労働基準監督署は、残っていたメールや関係者の話から、女性は業務命令で英単語を説明するイラストを描いた単語カードを2000枚以上自宅で作成していたことを突き止めました。そこで、実際に労基署員がカードを作成して時間を計測し、自宅で月に80時間程度の残業をしていた、と結論づけたのです。

会社での残業を合わせると、恒常的に月100時間程度の時間外労働があり、さらに上司から叱責されるという心理的な負荷もあって、うつ病を発症していたとして、労災が認定されました。こうした手法で労災認定がされるというのは異例であり、画期的とも言えます。

■労使双方にリスクを考えて

「もっと成果を上げるために自宅で仕事をした」「自宅の方が会社より仕事がしやすい」そのような個人的な理由により自宅で作業をしている場合は、「持ち帰り残業」とは言えません。

しかし、業務量が通常の所定労働時間内では処理できないことが明らかな場合や納期を厳守する必要性がある場合等に「持ち帰り残業」を行ったときは、使用者黙認の指示に基づいて労働したことになるという行政解釈もあります。

「持ち帰り残業」が労働時間とみなされると、使用者は時間外割増賃金を支払う必要が生じます。金銭的な問題だけでなく、こうした状況を黙認しておくことで労働者が健康を害した場合の労災や損害賠償のリスクも使用者側に生じます。 

また、持ち帰る途中で書類やデータ、ノートパソコン等が紛失した場合、そこに重要な個人情報や企業秘密が含まれていれば、情報漏洩リスクの問題も考えられます。自宅のパソコンで作業する場合も、ウィルス感染や情報流出の可能性もあり得るでしょう。

一方、働く側にとってみれば、「持ち帰り残業」が常態化することで、長時間労働による健康被害のリスクが高まります。

労使双方にとって、「持ち帰り残業」によるリスクは決して少なくありません。

こうしたことを考えると、彩乃さんにはぜひ勇気を出して、社内や社外に設置されている通報窓口や、会社の上層部に働きかけてみてもらいたいと思います。あるいは、職場の人たちと話し合いの場を持てるようにすれば、職場全体の問題として取り上げてもらえる可能性が広がるでしょう。

また、労働基準監督署に相談する方法も考えられます。どの程度の「持ち帰り残業」があるのかを明らかにするうえでも、日ごとの始業・終業時間及び自宅での作業時間・内容について記録を取っておくことは有効な対策と言えます。

佐佐木由美子(ささき・ゆみこ)
社会保険労務士。米国企業日本法人を退職後、社会保険労務士事務所等に勤務。平成17年3月、グレース・パートナーズ社労士事務所を開設し、現在に至る。女性の雇用問題に力を注ぎ、【働く女性のためのグレース・プロジェクト】でサロンを主宰。著書に「知らないともらえないお金の話」(実業之日本社)をはじめ、新聞・雑誌、ラジオ等多方面で活躍。

[nikkei WOMAN Online 2014年11月25日付記事を基に再構成]

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