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 社会貢献やものづくりなどのアイデアを示し、共感した人からインターネットを通じて少しずつ資金を集める「クラウドファンディング(CF)」が身近な存在になってきた。東日本大震災を機に注目を集めたが、最近は被災地支援にとどまらず、街や人、物との新たな関係を築く場として受け入れられつつある。
ウイスキーのような味わいのビール「バーレーワイン」の専用タンク導入にクラウドファンディングを活用する佐藤さん(右奥)

ウイスキーのような味わいのビール「バーレーワイン」の専用タンク導入にクラウドファンディングを活用する佐藤さん(右奥)

「岩手の人が世界に誇れるビールをつくりたい。でも長期熟成が必要なこの製法には専用のタンクがいるんです」――。2月下旬の週末、東京・三鷹のビアバー「ドランクバット」。集まったクラフトビール好きを前に、世嬉の一酒造(岩手県一関市)の佐藤航社長がワインのように濃厚でアルコール度数の高い珍しいビール「バーレーワイン」への思いを訴えていた。

震災後、蔵の復旧にCFを使った経験もある佐藤さんは「いわて蔵ビール」ブランドのビール醸造にも力を注いできた。バーレーワインの常時出荷は夢への一歩。長く温めていた構想をCFの仲介サイト「きびだんご」に相談し、協力を呼びかけた。資金提供者にはビールを送るほか、仕込み見学やビアパーティーへの招待といったサービスも用意した。

反響は予想以上。募集を始めた当日に目標50万円に達した。ビアバーで初めてCFを知ったという鈴木晶子さん(25)は「私の地元での挑戦。面白そう」と興味津々。教員の小嶋徹也さん(46)は「単なるネット通販ではなく、作り手の思いや途中の工程に触れられ、ものづくりに関わる感覚も得られるのがいい」と協力を決めた。

CFというと、京都大学iPS細胞研究所の山中伸弥所長がマラソン挑戦を通じて研究資金を募るなど、当初は寄付を求めるイメージが強かった。寄付仲介サイト「ジャパンギビング」でも震災以降、利用が増えて、今までの累計額は12億円を超えた。

これに対して、きびだんごは支援した額に見合う商品やイベントへの参加権などを返す等価交換が原則。こうした「購入型」とよばれるCFが近年増えてきた。サイトを運営するきびだんご(東京・目黒)の松崎良太社長は「世の中にまだない品やサービスの誕生に立ち会うワクワク感が参加動機になる」と話す。

例えば、斜めがけして背負う形のカメラバッグ「チクリッシモ」。製品化を目指すCFに協力した会社経営の古屋悟司さん(42)は「直感的にこれは欲しいと思った」と振り返る。しかし物のやりとりだけには終わらなかった。

このバッグを手掛けた魚住謙介さん(43)と連絡を取り、顔を合わせる関係に。魚住さんはチクリッシモの協力者に呼びかけ、近く製品化を目指すカメラが入るトートバッグの機能や形を議論する会合を開いた。古屋さんも参加し、「結果的に面白い人と出会う場にもなる」と話す。魚住さんも「CFでお客さんとの距離が縮まった」と語る。

地域や人との接点をつくる工夫も目立つ。東京・新宿で東京おもちゃ美術館を運営するNPO法人日本グッド・トイ委員会はCFサイト「レディーフォー」で沖縄での美術館構想への協力を打ち出した。支援者にはヤンバルクイナの形にくりぬいた積み木を送り、2013年に完成した美術館にはその積み木をはめ込める壁面を設置。現地まで足を運んでもらうための仕掛けだ。協力した島田順子さん(51)は「これがあったから夏休みの家族旅行で行こうという話になった」と明かす。

正面切って寄付するのが気恥ずかしい人にも届きやすい。「出身の東北の復興には貢献したいと思っていた。でも寄付というと何か偉そうで抵抗感がある。物を買う形なら入りやすい」と、バーレーワインのCFに協力する会社役員の熊谷淳さん(42)。物品購入が地域貢献になる点に価値を見いだしている。

会社役員の荒川卓也さん(46)も故郷への恩返しを意識し、出身の宮崎県に関わる事業が集まるCFサイト「ファーボ宮崎」をよくみる。県特産の木材、飫肥(おび)杉の海外発信、九州産の素材だけを使ったパンケーキのCMづくり……。「地元の雰囲気を感じる入り口になっていて共感できる」と話す。頑張る会社や人を応援したい、この品物が欲しい、魅力的な人や土地と出合いたい。そうした思いがCFに託されている。

ただ、お金の出し手はまだ少数派。協力した人でも一部には「いつまでも成果がみえない」(埼玉県の20代女性)「思っていたのと違う品が来た」(都内の30代男性)という声はある。5月予定の改正金融商品取引法施行で株式やファンドの形で資金を募る投資型CFの規制緩和やルールづくりが進めば、手法はより多様になる。事業の実現性をどう見極めるかなど、課題がより前面に出てくる可能性はある。

それでも「お金を出す側にも目利きの力が一層必要になるし、業界でも情報開示などの努力がいる。ただ結果として思いや真剣さが伝わる事業にはお金が集まっている」(CFに詳しい赤井厚雄・早稲田大学研究院客員教授)。お金の使い道のひとつとして定着する日がやがて来るのかもしれない。

 クラウドファンディング クラウド=大衆とファンディング=資金調達を合わせた造語。インターネットを通じて多くの個人から少しずつ協力金を募る仕組み。日本では見返りのない「寄付型」や、金額に応じた商品やサービスを届ける「購入型」が多い。5月施行予定の改正金融商品取引法の下では規制緩和やルールづくりが進み、ファンドや株式など「投資型」が広がる可能性もある。

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