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退職後の孤独、対処間違えば心の危機

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日経ウーマンオンライン
経験も年齢も重ねた大人が「これでよかったのだろうか」「今までの自分は間違っていたのでは」と疑問を抱き、それまで築いてきた価値観が揺らぐ。それが、ミッドライフクライシスです。実際にミッドライフクライシスを体験した女性に、心の危機を迎えたきっかけと、そこからどう抜け出したのかを教えてもらいました。

母の病気、友人の死、退社…雪崩のような喪失体験

アウトドアが好きで友達が多いアキコさん(仮名・54歳)が最初に不調を感じたのは、2010年の12月のことでした。

「その頃、仕事でイベント担当になり、徹夜が続くほど多忙だったんです。体調が悪いなと感じながらも、なんとかイベント開催にこぎ着けたのですが、初日に母が脳梗塞で倒れてしまって」

幸い、医師の診断は「命には別状がない」とのこと。ホッとしたのもつかの間、中学時代からの友人が脳死状態となり、イベント最終日に再び地元に戻ります。その直後、今度はアキコさん本人が胃潰瘍となってしまったのです。

悪いことは重なるもので、同じ頃、19歳の時から32年間働いてきた出版社の業績が悪化。会社とのやりとりに疲弊しながら、「組織のためには給料の高い人間が辞めた方がいい」と、アキコさんは退職を決意します。

「会社での仕事はやりたいことだらけでしたから、まさか自分から辞めることになるなんて思ってもいませんでした。人生ってわからないですよね。年齢を考えると再就職は無理だろうから、フリーランスでやっていくしかないなと」

そう考えた時、まず気になったのが、「家賃」だったそう。

「フリーになれば会社員のような安定した収入は見込めません。そうなれば都内のマンションの家賃を払い続けるのは難しいし、安い家に引っ越すにしても借りにくいかもしれない。それなら会社員のうちにと、胃潰瘍の激痛に耐えながら、年の瀬に急いで引っ越しを決行したんです」

引っ越し先は、「家賃が安くて、趣味のサーフィンができる」海辺の町でした。しかし、この決断がアキコさんを大きく追いつめることになったのです。

友人のいない土地で味わった孤独と自己否定

「引っ越し先には友達は一人もいないし、すぐには仕事もできない。分割で支払われる退職金と失業保険だけで暮らす日々で、一番の心配はお金のこと。そんな時に起こったのが、東日本大震災でした。海辺の町なので余震の度に津波が心配で、『万が一の時は知り合いもいない避難所でやっていけるんだろうか』と不安になりました。孤独死を細かくシミュレーションしたり、『ブルーシートで暮らすようになったらどうしよう』と、本当に怖かったですね」

その時点でお金に困っているわけではないのに、将来への不安から、お金のことばかり考えていたというアキコさん。必要以上に節約したり、人に会えば「この人はいくら稼いでいるのかな」と、いつもの精神状態なら考えないような思考回路になっていたそう。

「何とかしようと始めたのがウォーキング。でも、東京と違って一人暮らしの独身女性などいない土地では、夕方に歩いていると、『あら奥さん、夕飯の支度終わったの?』なんて声をかけられるんです。それが苦痛で、また家に閉じこもるようになりました」

会社という「ホーム」を失ったアキコさんにとって、その町は完全に「アウェイ」。そんなアキコさんの心に押し寄せてきたのは、凄まじい後悔の嵐でした。「結婚しておけばよかった」「子どもを産んでおけばよかった」「会社を辞めなければよかった」……。

「それまでは結婚も出産もあまり考えてこなかったんです。というより、19歳で出版社に入ってからずっと、バックミラーのない車みたいに、ひたすら前だけを見て突き進み、立ち止まったことがなかった。立ち止まって初めて、『結婚しなかった自分』『出産しなかった自分』『会社を辞めた自分』を否定しました。でも、『仕事をしてきた自分』だけは、否定しなかったんです」

一番ショックだったのは、生まれて初めて「死んでもいいかな」と考えている自分に気付いたこと、とアキコさん。心療内科で抗うつ剤を飲むのだけは避けたいと、ある決心をしました。

「節約しつつも、気持ちが上を向きそうなものならどんどん試してみることにしました。呼吸法、カウンセリング、ヒプノセラピー、歯の治療……。近所のヨガ教室では、なかなか友達ができない私に、先生が『私が友達になるわ。いつでも来なさい』と言ってくれて、ホッとしました。その後、地元で空手道場にも行くようになりましたが、鬱々とした状態から抜け出すきっかけになったのは、2011年の8月のできごとでした」

見える景色を変えた「生きているだけでいい」の言葉

長野でアウトドアのワークショップを企画した仕事仲間に、スタッフとして同行しないかと誘われたアキコさん。「私までスタッフに加わったら予算オーバーになるはず」と辞退したものの、仲間たちは「アキコさんが必要なの」と連れ出してくれたのだとか。

「ワークショップが行われたのは、昔から馴染みのある、私にとって特別な土地。家族同様のつきあいがあるロッジに泊まると、そこのお母さんと娘さんが言ったんです。『アキコさんはうちの犬と同じ。生きているだけでいいんだよ』って。その言葉が本当に温かくて。その二人にしても、連れ出してくれた仲間にしても、私の周りにはこんなに温かい人たちがいるじゃないと思ったら、景色がガラリと変わったんです」

他にも、心配した中学時代の友人が、「海が見たいから」と遊びにきてくれたこともありました。こうして心の危機を抜け出すきっかけをくれた人たちを、「命の恩人」とアキコさんは言います。

「中学時代からの友人は別として、命の恩人は仕事を通じて知り合った人が多かったんです。会社を辞めて、肩書きがなくなった私から離れていった人もいるけど、離れていかなかった人も多かったんですよね」

心の暗黒期に、それまでの自分を否定したアキコさんが唯一否定しなかったもの。それは、仕事をしてきた自分。それこそが、「本当の自分らしさ」だったのかもしれません。

「会社を辞める前の自分と今の自分が、具体的にどう違うかはわかりません。でも、前と今とでは全然違うし、今は一人で生きていけると実感しています。暗黒期を乗り越えた今は、これをやりたい、あれもやりたいという欲求を追い求めることで元気に生きています。以前なら正社員に戻りたいと思ったでしょうけど、今は型にはめられたくないという思いが強いんですよね。やりたいことを追い求められる余地を残しておきたいんです」

現在、アキコさんはこれまでのスキルと経験を生かし、週の半分を契約社員として勤務し、それ以外はフリー編集者とウェブショップの運営の仕事をしています。

会社員時代は、何も考えなくても収入と支出のバランスが取れていたので、お金について考えなくてもよかった、とアキコさん。後から振り返ると、暗黒時代はお金についてじっくり考えるいい機会だったと感じているそう。

広島大学教授の岡本祐子さんは、「ミッドライフクライシスはアイデンティティの危機。アイデンティティ(自分が思う自分らしさ)を組み替え・立て直しができた時、心の危機は収まっていく」と言います。

「会社員の時と今の自分は全然違う」と感じるアキコさんは、まさにこの「アイデンティティの組み替えと立て直し」を「暗黒期」に行っていたのでしょう。その心の暗黒から出るきっかけをくれたのは、アキコさんの「本当の自分らしさ」を知る人たちでした。

アキコさんが「暗黒期」と呼んだミッドライフクライシス。それは、彼女がエネルギーを注いだ仕事を通じて得た「職業アイデンティティ」を、バージョンアップさせる時間だったのかもしれません。

(ライター 吉田渓)

[nikkei WOMAN Online 2014年8月4日付記事を基に再構成]

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