上司が自分ばかり責める…パワハラか? 判断の目安
上司からの厳しい注意、もしかしてパワハラ?
家電メーカーの経理部に勤務する理奈さん(25歳)。中学校から大学まで私立の女学校育ちで、優しい雰囲気が漂う女性です。理奈さんの悩みは、男性上司から、仕事上のミスを厳しく責められることでした。
「ミスする私もいけないのですが……。でも、上司が怖いんです。ちょっとしたことで、すぐにカッとなるし、私だけがいつも責められている気がします」そう語る理奈さん。
朝、会社へ行こうとすると、お腹が痛くなることもあるそうです。友達に相談すると、「それはパワハラじゃない?」と言ってなぐさめてくれるのですが、果たしてパワハラと言えるのか、理奈さんもわからないと言います。
上司に仕事上のミスを厳しく注意される、それはパワハラなのでしょうか?
パワハラの判断基準とは
そもそも「パワー・ハラスメント」については、法律上の定義がありません。平成24年1月にまとめられた厚生労働省の「職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議ワーキング・グループによる報告書」の中で、パワハラの定義が定められているので確認しましょう。
パワハラとは、「同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為」とされています。
ここでポイントとなるのが、「業務の適正な範囲」です。職場で、部下が業務ミスをした場合に、上司は注意・指導を行って改善を図るのは当然です。
注意を受ける方は、多かれ少なかれ苦痛を感じるものでしょう。注意を受けて嬉しいと喜ぶ方はいませんよね?
この上司の注意・指導について、どこまでが「業務の適正な範囲」と言えるのか、それを判断する指標として、下記の類型を報告書では列挙しています。
たとえば、注意・指導に付随して、身体的な攻撃や「馬鹿野郎」「給与泥棒」「お前ちょっと異常だから医者に行って診てもらってこい」「お前みたいなやつはクビだ」「明日から来なくていい」など、ひどい暴言や人格を否定するような発言、雇用関係を打ち切るような発言を受けているなら、業務の適正な範囲とは言えません。
また、不必要に大声で怒鳴りつけるような行為や、モノにあたって何かを投げつけたり、ゴミ箱や机を蹴りつけたりするといった行為も、業務の適正な範囲ではありません。
もし、理奈さんと一緒の職場の人も、同じようなミスを繰り返しているにもかかわらず、理奈さんだけ名指しで厳しく注意・指導されるようなら、業務ミスに対してではなく、理奈さんに嫌がらせで指導している、と判断されることはあるかもしれません。
しかし、理奈さんの業務上のミスに対して、他の社員が見ている前であっても業務の適正な範囲内で注意・指導をしているのであれば、パワハラとは言えません。
こうした注意・指導が不必要に長時間にわたり、業務以外の個人的な態度や性格などに触れてねちねちと叱責を続けるような場合は、パワハラと認められる可能性があります。本人だけでなく、職場全体であからさまにこうした注意を執拗にすることがあれば、職場のいじめと言わざるを得ません。
人前でなくとも、たとえば電子メールで大勢にCCを入れて、業務ミスを注意するメールを送信するようなことがあれば、大きな精神的苦痛をもたらされるのは言うまでもありません。
上司としては二度と同じようなミスを起こさせないように適切な方法として考えている場合もあるかもしれませんが、業務ミスは本人が理解すれば十分であり、あえて同僚やその他の上司に知らしめる必要はありません。
理奈さんができること
パワハラは、上司から部下に対する注意・指導が度を超えてしまったというケースが多いと言えますが、必ずしも上司から部下の関係性だけを指すわけではありません。
たとえば、部下たちが結託して新しく赴任してきた上司を無視して業務命令を遂行しない、といったケースもあり得ますし、女性が男性に、また女性同士、男性同士、といったあらゆる関係性の中で引き起こされる場合があります。
別の見方をすれば、良好な人間関係が築けている間柄であれば、多少厳しい注意や指導があったとしても、パワハラ問題に発展することは少ないと言えます。
もし明らかにパワハラを受けている場合は、会社のハラスメント相談窓口で相談をしてみるのも一つの対策です。しかし、理奈さんの場合、上司の指導・注意はパワハラとは言えないと理解したようです。
誰でもミスを指摘されればよい気持ちはしませんし、それが何度か続けば「また怒られてしまった」と自分だけ責められている気がして、落ち込んでしまうこともあるでしょう。
しかし、仕事を続けていくには、多少の打たれ強さも必要です。注意されたことで委縮するのではなく、「今後ミスをしないようにするにはどうすればよいか?」と発想を転換していくことも大切です。
そのために、上司へアドバイスをもらってみるのもよいでしょう。他人を変えるのは難しくても、自分を変えることはその気になればすぐにできますね。
パワハラを防止するには、日頃から職場において円滑なコミュニケーションを図っておくことも大切な要素と言えます。
社会保険労務士。米国企業日本法人を退職後、社会保険労務士事務所等に勤務。平成17年3月、グレース・パートナーズ社労士事務所を開設し、現在に至る。女性の雇用問題に力を注ぎ、【働く女性のためのグレース・プロジェクト】でサロンを主宰。著書に「知らないともらえないお金の話」(実業之日本社)をはじめ、新聞・雑誌、ラジオ等多方面で活躍。
[nikkei WOMAN Online 2014年10月14日付記事を基に再構成]
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
※ NIKKEI STYLE は2023年にリニューアルしました。これまでに公開したコンテンツのほとんどは日経電子版などで引き続きご覧いただけます。